第47話 酒飲みの習性
「師匠、こんなとこで何してんのよ」
「あぁ!あの女です!!ボルス様!」
「なんじゃ、お前ら知り合いじゃったのか」
……何なのこれ、どういう状況?
酒場の中では、ボルスの一団とアサルカが同じテーブルについている。だいぶ酒が進んでいるのか、ボルス一団の顔は一様に赤い。
アサルカの前には銅貨が積まれている。
突然、ボルスと呼ばれた男がミリアを見て、掴みかかるかの勢いで向かってきた。
「お、お前!私を無視しおって!」
するりとかわしてテーブルを回り込み、アサルカの側までくる。背後で何かが倒れたような音がなる。
「なに、師匠、手品見せて稼いでたの?」
アサルカは仮面をつけてるのに、得意げな顔をしてるのがわかるほどに上機嫌だ。
「そんなところじゃ。ふふん、なかなかなもんじゃろ」
「いやいや!ちょっと!無視しないでくれるか!」
向かいに座っているボルス一団の男が間に入ってきた。
「あぁ?!」
……なんだこの酔っ払いどもは!師匠を手篭めにしようなんて、そんなの私が許さないから……
「おいおい、弟子よ、そんな怖い顔するでないわ」
……ん?あれ?私が悪いの?
「情報源として優秀、口は悪いが性根は腐ってない、酒も奢ってくれる、いいやつらじゃぞ?」
「そうだ!いいやつらだぞ!」
正面の男たちが復唱する。
「うるさいわよ!黙ってなさい!」
あ、思わず悪徳令嬢が……
「で?師匠どういうこと?」
空いてる席に座り不機嫌そうなミリアにアサルカはなんでもないように、衝撃的なことをもらす。
「そこに転がってるやつはな、この街の領主の息子じゃ。東の状況と、この街の窮状を酒の勢いでぶちまけてくれたの、ふぉっふぉっ!」
ボルスのお供が突っ伏している。
周りの酔客は大盛り上がりだ。アサルカが、よほど面白くいじったのだろう。
「嬢ちゃん!あんたも飲めよ。この手品師の身内だろ、奢るぜ!」
そんな声までかけられる。
「じゃぁ、【『酒は恋の伴侶』と申せど、伴侶は酒のみとなり、恋は伴侶を失ひし 上品なる破滅の調和】、ある?」
一瞬の静寂の後、酒場が爆発的に盛り上がる。
「嬢ちゃん!!かなりいける口だな!!そんな上物はねぇが、飲め飲め!」
ほうぼうから、そんな風に言われ、収集がつかなくなった。ミリアの目の前に、次々とエールが置かれていく。
自分の発言の結果に、唖然としながらも面白くなってきたミリアの頭に、鈍い音と共に、衝撃と痛みが襲ってきた。目に火花が散る。
「ウグゥ!痛い!!」
「何、馬鹿なことを言っておる!まだ早い!果実水にしておけ」
拳骨を握りしめたアサルカが仮面の隙間から苦笑いしていた。酒場が笑いに包まれた。
「それで?何がわかったの?」
果実水をチビチビと飲みながら、ミリアはアサルカに聞く。
「東の国で飢饉が起きかけておるらしい。物資輸送の護衛でハンターがそっちに流れた」
アサルカはせしめた銅貨をしまいながら説明する。
目の前の男が引き継ぐ。
「それでここいらの魔獣を狩るやつらがいなくなって、収穫も危険な状態なんだ。そこで、我らがボルス様がそんな民を救うため、立ち上がったのだ!」
……なるほど、それでハンターの私や師匠に接触してきたのか。まあ、それはさておき…
「そのボルス様は、そこで倒れたまま寝てるけどいいの?」
ミリアは頬杖をつきながら、酒場の壁際を指を指した。
男達が呼びかけながら、あわてて駆け寄る。
酒場は再び笑いに包まれた。




