第46話 街の小さな変化と酒飲み
……そう言えば、あのお酒、手に入るかしら
ギルドを出たミリアは、宿に向かう途中で少し寄り道することを思いついた。
開いている店が少ないとはいえ、商業区付近はそれなりに店はある。
この時間でも食品や消耗品を売る店くらいは開いているだろうと、そちらの方に足を向けた。
商業区はやはり開いている店があった。ドルテンの中で少しだけ明るさと賑わいが感じられる。ミリアは、そんな街区を歩いていく。
「今日は、孤児の子たち、みないわねぇ」
「なんか、路地の奥で集まってるらしいわよ」
そんな声も、聞こえる。
ミリアは、食品を扱っている店の前で立ち止まった。店員らしき女性と客が話し込んでいる。忙しそうではないし、道を聞くくらいは邪魔にならないだろう。
「ねぇ、この辺でお酒買えるとこ、ある?」
他の客と談笑していた中年の女性が振り向いた。
「この辺じゃ、酒場の隣くらいだね。それよりなんか買っていってよ」
教えてくれたお礼に何か買うくらいはいいだろう。携帯食を補充するにはいいタイミングかもしれない。
「じゃあ、そこの干し肉、五つちょうだい。いくら?」
女性は手際よく包み、差し出しながら答える。
「100リーズ、はい、まいどあり。酒場付近にいくなら、注意しなね。今の時間はまだマシだけど、ガラ悪い連中もいるからさ」
「ありがと、気をつけるわ」
ミリアは干し肉を受け取りながら、礼を言って教えてもらった酒場の方に向かった。
酒場はまだ暗くなる前だが賑やかだ。ここには大人の男性が集まっているらしい。外まで野太い声と笑い声が聞こえてくる。隣には小さな屋台があり、ここで酒を買えるようだ。ミリアはそこにいたひげ面の男に声をかける。
「ねぇ、ちょっといい?『酒は恋の伴侶』とかなんとかいう、お酒、買えたりする?」
ひげ面の男は訝しげな顔をしながらミリアを見てきた。
「嬢ちゃん、そらあドワーフの銘酒だな。ここいらじゃなかなか見かけねぇよ。なんだ、どこかのお偉いさんの遣いか?同じこと聞いてきたやつがいたけどよ」
……師匠は無造作にあおってたけど、いいお酒なのね。もっと味わって飲めばいいのに……
「いや、ちょっとお世話になった人にあげようかと思ってただけ。好きみたいだから。他にも探してる人がいるくらい、いいお酒なのね」
ひげ面の男は、感心したような顔をみせ、笑顔になった。表情の変化が目まぐるしい。よく見れば顔が赤い。店先で飲んでたな。
「いい心がけだなぁ、嬢ちゃん。おお、そうだよぉ。そいつ中で飲んでるぜ。嬢ちゃんも中で飲んでくか?」
こんな外にいてもわかるくらいの酒臭い中に入っていくつもりはないし、目的の酒がないなら、もうここに用はない。
手を振って立ち去ろうとしたとき、
店の中から聞き覚えのある声が漏れてきた。
「ふぉっふぉっ!どうじゃ、儂の手品、見破れんじゃろう」
「お、今の声のやつだな、その酒探してたの」
ひげ面の男が言った。
……師匠、こんなとこで、何してんのよ……
仕方ない、酔っ払い老人の保護者として連れ帰ろう。それが弟子の務めだ。
ミリアは一つ大きくため息をついて酒場の中に入っていった。




