第45話 ほんの少しの出来心
獲物を抱えてドルテンの門をくぐる時、衛兵が微かに感謝の言葉を呟いたのが聞こえた。
やはり、人々は気にかけてはいるのだ。ただ手が届かなかっただけで。
「ハンターの仕事よ」
ミリアは手を振って軽く答えるに留めた。
孤児達の視線を受けながら路地の小さい家の前につく。
「ジル、ここからはあなたが仕切りなさい」
そう言って、ミリアは少し離れた場所に腰を下ろした。
ジルが戸惑いながらも、孤児達に必死に話しかけている。時折、孤児達の歓声が響き、声に楽しげな色が混じる。
孤児の中でも年嵩のものが、ナイフを渡され、解体を始める。
からかいの声
強がりの声
笑い声
そっと視線を逸らす。
師匠、これでいいのかな……。宿に帰ったら、聞いてみなくちゃ
仮面を少しずらし、涙を拭う。
頭に巻いた布が少しずれたようで、髪が溢れる。
ミリアは一旦布を外して、再度巻き直した。
ジルはその時、孤児達に指示をだしながら、ふとミリアの方を見た。
巻き直される布に纏められていく銀の髪が、風になびき、光を受けてきらめいていた
このまま見ていたい
こっちを見てほしい
微笑みかけてほしい
孤児に急かされるまで、しばし呆けたように、固まっていた。
日が傾きはじめ、血の匂いが薄れたころ、ミリアは声をかけられた。
「あ、あの、ミリアさん、これ……」
手には解体した肉以外の素材をもったジルがそこにいた。心なしか顔が赤い。
「素材、とれたのね。えらいぞ!じゃあギルドで買い取って貰おうか」
ちょっとおどけて言うミリアにジルはさらに顔を赤くする。
「ち、ちがうよ、これ、ミリアさんの取り分……」
消え入る声に、思わず笑みが溢れる。素直になったもんだ。
「じゃあ、私が仕留めた分、魔石1個だけ貰うわね。さあ、ギルドにいきましょう?あなたが戻らないとみんな食べられないんでしょ?」
照れるような仕草のジルを連れて、ギルドに向かった。
この時間、ギルドには誰もいないようだ。
良かった、あの何とかっていう貴族一団はいないわね。
ミリアはジルを、そっと促すように背中を押して前に出す。
「あ、あの!買取、お願いします!」
受付嬢がいい笑顔をしながら素材を覗き込んできた。
「おおー!ジルくん、グラスラットやったのね!これ、お肉は?!需要あんのよ。え!みんなで食べちゃうの?!うぁー、そうかぁ」
受付嬢の反応がいい。もう大丈夫だろう。
「ジル、私は宿に戻るわね。また明日、門の前で」
そう言い残してミリアは手を振りながら宿の方へ歩いていった。
残されたジルは、見送りながらも、もう少し一緒にいたかったなと、思った。
「ジルくん、はい、これ買取金。皮がキレイだったから、おまけしたよ。3,000リーズね」
ジルは初めて稼いだ金を見て、視界が歪む。
感謝、達成感、希望、それらが絡み合い、涙となって溢れ出てきた。
隠すように俯き、受付嬢に礼を言ってその場をはなれた。
途中、ボードを見上げた。
沢山の依頼書に重なり、1番上に貼られているそれ。なんとか文字をおう。
ミリア、銀髪、碧眼、あまり似てないがミリアの人相書。
ジルは、周りを見て、誰も見てないことを確認し、震える手でその手配書を取り、そっと懐にいれた。




