第44話 孤児の笑顔
「それで、次はどうすんだよ」
ジルはナイフ片手に血塗れになっている。
グラスラットの血抜きをし、腹を裂く。拡がる血の匂いに顔を顰めながらも、着々とやってのけている。
「皮を剥いで」
ミリアはあたりを見回しながら短く指示を飛ばした。ジルの方は見ていない。
―私が周囲を警戒するから、あなたは解体しなさい―
あくまで、教えるためだ。
解体したくないからじゃない
外は危険なのだ
周囲の警戒は必要……必要なのよ!
ミリアは心の中で言い訳しながら、血の匂いをさけるように動き回る。
ジルが、魔石、素材、肉とおおよその解体が終わり、運搬用のザックに詰めていたところ、ゆっくりと近づいてくる気配を感じた。
多分、同じグラスラット……
「ジル、一匹来てる。私が倒すから、周囲を警戒してて」
ジルは、慌てた様にザックを下ろし、剣に手をかける。まだ、ぎこちないが動きとしては悪くない。
解体をジルに任せたことで吐かずに済んだのだ、ここで前みたいにバラバラにして吐くような真似はできない。断じて!
……一応、聖言的な何かを唱えたほうがいいわよね。判別の儀のやつは……無理ね
ミリアは何かそれっとぽい文言がないかと、頭を巡らせる。
草の隙間からグラスラットの姿が見えたとき、ふと、思いついた。
「酒は恋の伴侶と申せど、…………」
マナが真っ直ぐ細くグラスラットに向けて収束する。マントを翻して右手を前に突き出す。
中指で円を描き、マナを収束させていく。
グラスラットがこちらに気づき威嚇するように牙を剥いた。
「……破滅の調和!」
収束したマナが熱線となり、グラスラットの眉間を貫いた。
ジルにとって初めて見る魔術。
それは鮮烈な印象だった。
ミリアがなにやら難しい文言を唱え始め、右手を前に出すと、真っ直ぐグラスラットへ向けて空気が揺らいだ。そして気づいたら、グラスラットが倒れ伏していた。
傷らしいものは、眉間に空いた穴だけ。
今まで減らず口を叩いてきた相手がどんな存在だったのかを、ジルは思い知った。
「ほら、これは血抜きだけ、済ませて」
「は、はい!」
ミリアに言われ急いでナイフを抜き、首筋を切る。血が流れだし、あたりは再び血の匂いが拡がっていった。
血抜きが終わり、日が高くなったころ、ジルの腹が空腹を訴えるように鳴いた。
「ふふ、ほらこれ食べておきなさい。食べたら、これ運ぶわよ」
干し肉をジルに放り投げながら、ミリアがいった。ジルは干し肉に齧りつき、瞬く間に胃の中へと消えていった。
ミリアはザックを担ぎ、ジルはグラスラットを引き摺るように抱えて運ぶ。
大変そうだが、笑顔を隠しきれていない。
「なあ、これ、どうするんだ?」
息を切らしながら、ジルが声をあげる。
「あなたの味方になる子にも、解体させるのよ。それであなたはその子達に、報酬として、肉なり売ったお金を渡すの」
ミリアは振り向いてジルをみる。
「私があなたにしたことを、あなたが下の子にしてあげるのよ」
そう言ってミリアは歩き出した。
楽な道じゃない。
誰かは傷つき、命を落としてしまうかもしれない。
それでも……孤児達に笑う力は戻るはずだ。
ミリアはそう思った。




