第43話 初陣
「いたっ!いましたーっ!ボルス様ッ!」
武器屋を出て、ギルドの前に来た所で、入口が急に騒がしくなった。
なに?と思い振り返ると、二人の男が駆けてくるなり言い出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
さらにその後ろから二人、歩いてくる。
……あれ?昨日のやつらね。
「なに?忙しいんだけど」
ミリアは、ジルを庇うように男の前にたつ。
同時に、剣を抜きそうなジルの手を抑える。
「少し話しをさせてもらいたい。
我々は、ジェルナー家の者だ。昨日は世話になった、感謝している。そこで君に朗報だ」
……うん、嫌な予感しかしない
後ろから来た二人が前に立って横柄にいいだした。
「お前の腕を見込んで、この、ボルス・ジェルナーの護衛に雇ってやる。ありがたく思うといい」
……的中。勘弁してほしいわね……。
「却下、無理、お断り。護衛ならもう三人いるでしょ。足りないならギルドに相談、それが常識。もう話しかけないで」
側にいるものが、慌てていう。
「いやいや、待て待て!ボルス様が直々におっしゃってるのだ。ありがたいことなのだぞ!」
なんて自分勝手な。
「迷惑だわ。私は足手まといの面倒なんて見る暇ないのよ」
ジルの身体が瞬間固まる、が、少し頬が緩んだ。
今差している剣、ナイフ、胸当て。
それらが示している。
「行くわよ、ジル」
ミリアとジルは四人を置いて歩き出した。
後ろでまだ何か言っているが気にしない。
時間は有限だ。
「ジル、これ食べておきなさい、このまま街の外にでるわ」
ミリアは干し肉をジルに渡す。
「なんでだ?依頼受けるんじゃないのか?」
「必要ないわ。今のランクじゃ受けられるのなんてたかが知れてる」
ミリアは、魔獣はそれなりに倒して、素材を金にしているが、依頼を受けたことがない。なので、最低ランクなのだ。
「魔獣を倒して、素材を売る。それがジルのこれからの生活になるの。依頼は見習いが取れる15からでいい」
門を出て、マナの流れに集中する。
いくつか淀んでいる箇所、多分そこに魔獣がいる。
森の中は数が多い、危険だ
街道から少し離れたあたりに点在している。
「ジル、森の中は危険、自分の力を見極められるまでは入ってはダメ。街道から少し離れた草原、そこを狩場にするわよ」
「わかった」
短い返事、いいわね。
気配が近くなってきた
そんなに大きくはなさそう
いた……
ジルの膝ぐらいの体高
鋭い牙
ずんぐりとした体型
確かグラスラット……だったかな。
「ジル、牙には注意、動きは遅いから、一撃で仕留めて。あなたはまだ力が無いから振りかぶるんじゃなくて、突きで。仕留め損なったら、フォローするわ、いい?!」
正直、これが正しいのかはわからない。
大事なのは、迷わないことだ。それには最初から動きを決めておくべきだ。
「わ、わかった」
ジルの額に汗、心臓の音が聞こえて来るようだ。
昂ぶっているのだろう
息も荒くなっている
「ジル」
一声かける
「あれ、美味しいらしいわよ。みんなにわけてあげなさい」
ジルが少し笑った。
「なんだよ、こんなときに」
身体の力みが減った。
「いく。あとよろしく」
ジルが飛び出した。思ったよりも早い。
あと5歩で届く。
グラスラットが気づいたようだが、先手はジルの方が早い。
あと4歩
グラスラットが牙をむき出しにして威嚇する。
ジルは怯まない。
あと3歩
ジルが剣を腰高に握りしめる。
あと2歩
グラスラットの身体が沈み込む。
攻撃の体勢だ。
あと1歩
ジルの突出した剣が、牙を避けてグラスラットの口に吸い込まれていった。
噴き出す血
断末魔の鳴き声
広がる鉄の匂い
荒い息
喜びの声
……幸先のいい初陣だったわね、ジル




