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第40話 ジルの選択

起きた時、アサルカの姿は部屋になかった。


珍しい、今日の師匠は早起きだ。

街の様子でも見に行ったかな。


ふと、空になった酒瓶が目に入る。


ああ、なるほど。

私がこの街にいる間に楽しむ酒でも買いに行ったのかな。こんなに酒好きだとは知らなかった。


ラベルが文字で埋め尽くされている。


ーー『酒は恋の伴侶』と申せど、伴侶は酒のみとなり、恋は伴侶を失ひし 上品なる破滅の調和ーー


なんて、へんてこなの飲んでんのよ…

まあ、見つけたら買ってあげようかしら。

憶えられないけど、間違うことはなさそうね。


ミリアは宿をでて、ジルがいた小さな家の前にまっすぐ向かった。


師匠は迷わせないために、朝から出かけたのかな。

師匠の優しい世界で足踏みさせないために。


街は少しも変わっていない。

これからかわる。


その一歩目は君のはずだ。


ミリアは、ジルの前に立った。


「答え、聞かせてもらえる?」


目には怒りの色。悪くない、それがどこに向いているとしても、なんの色もないよりはよっぽどいい。


「…………。」


何も言わない。でもジルは決めているはずだ。


「……昨日」


ジルが口を開く。


「……手品師見習いっていったよな。手品師見習いに何ができるんだよ」


なるほどね。そこに引っかかってたのね。


計りきれなかったのだろう、手品師見習いと名乗ったことが。痛いところを指摘され、さらに利用しろとまで言った相手が、芸人、しかも見習いだと名乗ったことに。


「何でもできるわよ、手品師は。それで観客を一歩前に引きつけるの。種を見破ろうとさせるためにね。

ペテンでもインチキでも本物でも、今のあなたには、その一歩が必要なのよ」


観客は1人も観たことはないが、アサルカならもっと上手く言うだろうな、と素直に思う。もはや言葉遊びだ。

ジルの眉間に皺がよる。ジルにとってはペテン師だろう。普通の状態ならば。


だが、ジルを騙してもミリアには何の得もないのだ。得ることができるものなんて、ボロボロの服といつ死んでもおかしくないこの身体だけなのだから。構いやしない。


「わかった、利用させてもらう」


まずは一つ。では次だ。

「あなたの味方になる子、いつでも集められるようにしておきなさい。それがあなたの力になるわ」


ジルの顔に一瞬の喜色、すぐに消える。


大丈夫だ、ジルには守りたい者がいるのだ。今の表情がそれを示している。


「準備ができたら、ギルド前にいらっしゃい、そこでまってるわ」


再び大通りを経てギルドに向かう。

途中の孤児。


もう少し、頑張って……


祈るような想いで施しを求める手を無視して行った。


ドルテンの街のギルドは、元々の街の地位を反映して大きい。今となっては、街が持て余すような大きさだが、それでも物資は動くのだ。街の中でここは、それなりの賑わいをもった場所でもある。


そんなドルテンのギルドに着いたとき、ミリアは建物内部から、この2日間、聞いたことがないような、怒鳴るような声を聞いた。


わざわざ近づくほど、物好きでもない。あのような怒り方は、少し時間が経てばすぐ収まる。

わざわざ中に入る必要もない。


そんな事を考えていると、遠くから、ジルが歩いて来た。


もうこの子は前を向いている。私よりずっと早い、強い。


眩しいものを観るようにジルを眺めていたミリアは、前に立ったジルに向かって言った。


「あなたは、これからハンターになる。いいわね?」


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