第39話 役に立つ実感
「あんた、すごいな。これからも頼りにするよ」
そう言う門の衛兵に片手を挙げて応える。
吐いたところは小麦に隠れて見えなかったようだ。ミリアは魔石を持ってギルドに向かう。
道中の孤児達を見ると、胸が締め付けられる。何度見ても慣れない。
……あの貴族、ジェルナー伯爵家だったっけ。あれも、同じように心を痛めるのかしらね……
それなら貴族も捨てたものではないけど。
兄ならばきっと施すことを考えるだろう。父は、施しはしないが、対策を考えるに違いない。
フレアベット家は、2人が揃うことでバランスが取れているのかもしれない。
ミリアは遠い実家に想いをはせた。
ギルドには、相変わらずハンターは少ない。ボードの依頼書は少しも減ってないし、ミリアの手配書もそのままだ。
気にしないフリをして、受付カウンターに足を運ぶ。
「これ、買取、お願い」
昨日と同じ受付嬢が対応にきた。
「お!また来たのね!……魔石ね、他の素材はないの?魔獣倒したんでしょ?」
ミリアは肩をすくめて答える。
「外にいたら、魔獣に追われてるやつらがいたから、助けた。その対価がそれ」
受付嬢は目を丸くして身を乗り出してきた。
「ちょっと!太っ腹すぎでしょ!素材全取りで、他に礼を貰ってもいいのよ、それは!」
ミリアは、そうなのか…と思った。誰かを助けた時の流儀は聞いてなかったな、とも思った。
「なんか、貴族みたいだっただから、面倒くさくて」
受付嬢は、勝手に納得したようだ。
「あぁ……。それはそうね。下手に絡むと、逆に『下賤のものが!!』とか言い出すもんね、お貴族様は。いい判断だと、思うわよ。
はい、6,000リーズ」
自分の判断は、間違ってなかったらしい、
よかった。
ミリアはお金を受け取り、軽く手を挙げてその場を離れた。宿に帰って風呂にはいるために。
宿につくと、今日の分の宿代を払う。
延泊なので少し安くしてくれた。血塗れのままで、頬の傷で凄みでも効いたのかなと思ったが、ありがたい。5,000リーズを払い部屋へ戻る。
そう言えば、師匠の分も私の稼ぎで払ってるな……まぁ、いいか。
「師匠、入るわよ。ちゃんと服きてる?」
今回は事故を起こさない。
「おお、着とる着とる。安心せい」
部屋に入ると、確かに服はちゃんと着ている。
酒を飲んでいるが。
「えぇ……。師匠、くつろぎすぎじゃないかしら」
部屋にはアルコールの匂いが薄く漂っている。
アサルカはミリアの方を向くと、片眉を上げ、グラスに残っていた液体を飲み干してミリアの前に立つ。
「これは、どうしたのじゃ。魔獣に接近されたか?」
……いつもと違う真剣な声。いや、ちょっと触らないで!まだ痛いし、その、近い!
「追われてるやつがいて、街に連れてきそうだったから、助けたのよ。見られるから、派手な魔法使えなくて、ナイフで……」
叱られてるわけではないが、責められるような気がして、語尾が小さくなる。
「でも、傷ってハンターらしくてカッコいいわよね」
「……馬鹿者。ハンターである前に女の子じゃ。傷なんぞいらんわ」
重い声色に反して、優しい。頭に乗せられた手から暖かさとともに伝わってくる。
「傷自体は塞がっておるな……。身体強化か、いつの間に使えるようになったことやら」
アサルカは軽く傷に手を添える。
「じゃが、これでは傷跡が残る。手を加えるぞ」
アサルカに触れられた場所が光を伴って熱を持つ。
火傷する程ではない、チリチリと疼く感覚が傷を這っていく。
これ、私がやったのと違うわね。気持ち悪くない。教えてほしいけど、多分教えてくれないかな。この感覚は憶えておこう……
「終わったぞ、キレイに消えたじゃろ。風呂でも入ってくるといい。血塗れのマントも一緒にな」




