第36話 草を食む少年
「ぬぅああああぁぁぁ……」
お湯に浸かるというのは、こんなにも身体を癒すのか……フレアベットの家にいたときとは大違いだ。
……今日は、体力も魔力も精神も疲弊した。お湯の暖かさが気持ちいい……
ミリアは風呂に浸かりながら、変なうめき声とともに実感する。
給湯の魔導具に手を当て、お湯を追加する。
少し温いが、ゆっくり浸かるにはちょうどいい。
この魔道具にも魔石が使われているはずだ、今日売った魔石も回りまわって、誰かの魔道具の一部となるのだろう。
この町の孤児たち
自分にかけられた金額
初めて稼いだお金
……何をしたらいいのか、まだ何もわからないわ…
とりとめもなく考えていると、結構な長風呂になってしまっている。
そろそろ上がるか……また明日も入ろう。この風呂には3,000リーズの価値はある。
風呂から上がり、部屋に戻る。
長風呂したせいか、体がのぼせたようだ。少し涼みたい。
そう思いながら、部屋の扉を開けた。
瞬間、ミリアは赤面した。すぐに自分のベッドに飛び込み、掛布にうずくまる。
「だから、師匠!!いい加減にしてもらえないかしら!!」
「ふぉっふぉっ!そう、怒鳴るでないわ。風呂上がりに涼んでるだけじゃろうに」
目に記録してしまった姿
濡れた黒髪、白く滑らかな肌、鍛えられた腹筋…
そこには、上半身をはだけて、無駄に色気を振りまくアサルカがくつろいでいた。
交通の要衝として栄えてた頃のドルテンは、日が上がる前から人が動きだし、市場が開き、賑わっていたという。
今は、日が昇っても開いている店はまばらだ、人の出入りがないというのは、こんなにも街を静かにしてしまうのだと、ミリアは思った。
いや、人の出入りだけじゃないかもしれない。今気づいたが、大人の男性が少ない。すれ違うのは女性ばかりだ。
……これも戦争の影響なのかな。品定めするような視線がないのは助かるけど……働き手が極端に少ないのね、この街は。
石畳を叩く靴音がやけに響く。
しばらく開けてないのか、店先に堆積した砂埃。
荷車を引くのは、背を丸めた老女。
ミリアは見回しながら大通りに入った。
やっぱり、見るのがつらい……
痩せて、虚ろな目で、ただ施しを求めてくる。
異臭、動かない体、物言わぬ躯。
放置する為政者、救済せぬ教会、何もできない私
いや、やろう。
出来ることはある。
昨日見たあの子がいない。
移動したのだろうか、街区の中に入ってみる。
暗くはない。人の生活を感じる。少ないが会話の声がする。
小さい建物。そこに居た。
草を食んでいた少年。ミリアが見た中で、ただ一人、施しを求めなかった少年。
目に感情はないが、自分の力で生きようとしていた。
そのことが、ミリアの意識に引っかかっていた。
「ねぇ君、話し、できる?」




