第35話 教会の影、お金の価値
「弟子よ、それじゃ宿行くぞ!ほれ、急がんか」
「ええ?ちょっと、待って師匠!」
師匠が突然陽気だ。初のハンターとしての稼ぎなんだ、いろいろ浸らせて欲しいというのに。せっかちなじじいめ!
ミリアは急いでお金を受け取り、依頼ボードを見ているアサルカの横へ並ぶ。
「教会の者がくる。声をだすな」
いつにない、アサルカの低く抑えた声で放たれた言葉に背筋が粟立つ。
同時に入口から、1人の神官が入ってきた。
ミリアとアサルカは、そのまま依頼書のボードを物色するフリをした。
神官はそのまま、硬い足音をたて、ボードの前に立つ。
ミリアの隣だ。
ミリアは身動ぎすらしない
しかし、呼吸は止まる、心臓の鼓動は早まる
握った手が白くなっていく
王都の路地の記憶が蘇る。
爆ぜる土、痛む腕、暗い路地、肩に残る肋が砕けた感触…
大丈夫、露見しているわけではない
神官は、手配書を張り出した
『ミリア・フレアベット子爵令嬢 銀髪碧眼 護衛依頼を受けたら教会まで通報すること 通報奨励金 100,000リーズ』
神官は一瞬こちらを見る。
目が合った、が、興味なさげに去っていった。
ミリアは戦慄する。
文字に書き起こされて、ようやく実感した。
自分につけられた金額。
自分は追われているのだ。
神官が去った後も、アサルカに促されるまで、しばらく手配書を見ていた。
ドルテンの街は閑散としていた。
本来なら、ローゼリアとザーセン諸国連合とを結ぶ交通の要衝であるはずなのに。
戦争とハンター不足がこの街から活気を奪っている。
「じゃが、それゆえにいい宿が安く使える」
上機嫌でベッドに座り込むアサルカ。
「し、師匠……。ここ、一人3,000リーズ……。魔石1個分じゃ全然たりないじゃない!!」
ミリアの目が泳いでいる。さっき稼いだ金の半分近くが飛んでいったのだ。しかも……
「それに、二人部屋ってどういうことよ?!」
「個室がないのだから仕方あるまいて。散々野宿したんじゃから、今更じゃ。それにな、弟子よ。金は使ってこそ生きるのじゃ。溜め込んでも何にもならん」
マスクとマントを取りながら、飄々と言う。
「使った金がさらに使われ、人々の間で循環してこそ、金は生きるんじゃよ。
それにここにはの……風呂がある」
「……仕方ないわね。大目に見るわ」
すっかり毒気を抜かれてしまった。おかげで、聞こうとしていたことがようやく聞ける。
「師匠、ここにはどれくらい滞在するの?」
ふむ……と一息つきながら、アサルカはミリアの目を見てきた。
「……何か考えているのかの。よいぞ、お前が望むだけ滞在すればよい。……しかし、追われていることは忘れるなよ」
「ありがと、師匠。明日もう一度街の中を見るわ」




