第34話 魔石の価値は
漂う異臭
何かを求める視線
その場で緩慢な動きを見せる腕
倒れて動かない者
「なんて、こと……」
ミリアは考える。なぜこんな事になっているのか。学んだ記憶では、戦争は5〜6年前のはずだ。
ここの領主は何をしているのか、教会はなぜこの子らを救わないのだ。
そして…
「私には何もできない……」
どんな魔術でもこの子らを救うことができない。
荷物にある金貨を放出したところで、何の足しにもならない。
彼らが自ら踏み出す力を出さなければ何も変わらないのだ。そして彼らの目には、怒りも、悲しみも、ましてや楽しみの色もない。ただその力を失い、施しだけを待っている。
「私は、不幸ではなかった……」
15歳になるまで不自由なく育てられ、適性無しと判別されても生きていく道はあった。
幸運なことにアサルカと出会い、自ら信じる道を選択することができたのだ。
震えるミリアの声。
「この子達には、なにも……」
「ミリア、今は揺らぐでない。今は、ただ受け止めよ」
厳しい、でも優しいアサルカの声。
「揺らいでいるときになした選択は、後悔の種になる。受け止め、自分の中に落とし込むんじゃ。そうすれば、迷わない選択肢が見えてくる」
「はい……、師匠」
1人の男の子の姿が目に入る。
10歳くらいだろうか。力無く草を引抜き口に入れる。目が合った。
何も求めてこない。
何の感情も持たない瞳に、胸がしめつけられた。
今までの自分の世界がいかに狭かったのか。
狭かったからこそ、決断できたこともあったのだ。それをこの街で思い知らされた。
「アンナに会いたいわ……」
フレアベット邸の小さなメイドを想った。
すぐ側を早馬が通り過ぎていった。
この光景など目に入っていないかのようだ。
アサルカに促され、ミリアは通りの先、ギルドに向かって歩いていった。
ドルテンのギルドは閑散としていた。依頼が貼り付けられてあるボードは幾重にもなり、1番下の依頼書は色褪せてしまっている。
内容をチラリと見ると、ほとんどが魔獣討伐だ。
溢れかえる依頼書にしばし目を取られていたが、
アサルカに促され、カウンターに向かう。
「ちょっと、いい?」
札を見せながらミリアは、受付にいた女性に声をかける。
「素材の買取、ここでいいの?」
受付嬢はミリアを一瞥し、一瞬、珍しそうな顔をしたあと、にこやかに話しはじめた。
「ええ、ここで良いわよ。女性のハンターなんて珍しいわね。エルフか獣人族かしら?」
特に切り返すこともせず、ミリアは素材をカウンターに置く。
「いくらになる?」
「へぇ……、ブッシュウルフ倒せるのね、しかも5体…いや6体か、良い腕だわ。……でも、毛皮がボロボロね、まだ駆け出しってところか。」
受付嬢は計算しはじめる。
「魔石が一つ2,000、牙は一本100、毛皮は纏めて500、全部で13,500リーズってとこね。どうする?」
アサルカから聞いていた相場とそんなに差異はない。
「いいわ、それで」
初めて自分の力で稼いだお金。
少し心が浮き立つが、孤児の姿が思い浮かび素直に喜べなかった。




