第33話 ドルテンの孤児
ドルテンの外壁が見えてきた。このあたりは外壁の外でも作物を育てることが出来るようだ。収穫が近いのか、麦が金色の波を作り、ドルテンの街がそこに浮かんでいるようにも見える。
とても満ち足りた光景だ。アンナにも見せてあげたい。
「ミリア、これを着けておけ」
アサルカが何かを投げ渡してきた。
何よこれ……布と仮面?
それは群青の細長い布と、目元だけを隠すマスクだった。マスクの目の部分はたんなる穴ではなく、何かガラスのようなものが嵌っている。
「お前の銀髪と碧眼は目立つ。布で頭を巻いて、仮面をつけておいたほうがいいじゃろ」
そう言って、アサルカも仮面をつけ、キセルを咥えた。相変わらずの子供の落書きのようなマスクだ。
「師匠とお揃いのスタイルね!!」
ミリアは、いそいそと髪を上げ、頭に布を巻きつける。やや布地が余ったので、その分は首に巻いた。仮面をつけると何だか視界が少し橙色みがかっている。
「師匠、色がついてるわよ?」
アサルカはミリアの目を覗き込む。
「それでいいんじゃ、慣れろ」
マスクの外から見ると、ミリアの瞳はこの地域に多い、茶色の瞳になっていた。
門のところにくると、手続きなのか、何人かが並んでいた。ミリアとアサルカも最後尾に並ぶ。
少し小声でミリアが聞いた。
「ねぇ、仮面つけたままで構わないの?」
アサルカはそれに対し、ミリアの胸元を指さす。
「そのためのハンター登録じゃ。怪我の跡がある、目が無い、色んな理由で顔を隠したいものは多いからな」
「師匠は?」
「儂も登録しとるぞ?ほれ」
腕に巻きつけてある札を見せる。
「エルフじゃからな。お前よりも目立つしの、ふぉっふぉっ」
そうこうしているうちに、順番が回ってきた。
衛兵が身分を示すものの提示を要求してきたため、黙って札を見せる。
「ハンターか、ミリアとアサルカ。歓迎する。このあたりは最近魔獣が多い上に、それなりのハンターが皆、東に行っていてな、駆除が追いついていないんだ。駆除してもらえると助かる。なんせ、収穫が近いからな……。詳しくはギルドで聞いてくれ」
意外とあっさり通れるものね。
ハンターが優遇されてるってこういうことか。
皆、東にって、いい稼ぎの口でもあるのかしらね。
街の中に足を踏み入れる。
初めて見るローゼスト以外の街だ。少し心が浮き立つ。
門を抜けた。
ミリアは、足を止め唖然とした表情を浮かべる。
アサルカが横に立ち、静かに口を開いた。
「ドルテンはの、先のローゼリアとザーセン諸国連合との戦争の影響を色濃く受けておる。この街は人口が多かったからの、兵士も多く徴用された。帰ってこないものも多かったのじゃ。十分な補償も無かったと聞く…」
吐き出した煙が、大きく揺れた。
門を抜けた大通り沿いは、多くの物乞いの孤児が並んでいたのだった。




