第32話 教会の網の気配
その日、ローゼリア王国全土に王都教会より通達が出された。
『ミリア・フレアベット子爵令嬢。銀髪碧眼、15歳。異端者の疑い有り。発見次第、王都ローゼスト教会所属異端審問官ギース・ラビアに連絡する事。
尚、対象に察知されないよう、捕獲、殺害を試みることは禁ずる』
教会にミリアを監視する網が拡がっていく……
「ほれ、熱だけでやってみぃ」
んー、師匠がどんどん、怠け者になってないかしら……
気怠げにキセルをふかすアサルカにミリアは胡乱げな視線を飛ばす。
今、ミリアの周りは5匹の狼型魔獣が囲んでいる。鼻を鳴らし、大きく開いた口からは、ボタボタと、よだれが流れている。
これ、食料として見られてるのよね……
そりゃ、師匠よりは美味しそうってのは否定しないけどさ……
といいつつも、アサルカはその口調とは裏腹に美形だ。ミリアも時々、心臓が止まりそうなほどに、アサルカは妖艶な仕草を見せる瞬間もある。
ホントに勘弁してほしい。仮面つけてくんないかな!!
「何してもいいの?」
諦めたようにミリアが聞く。
「今度は素材いるからの。最小限に。宿代稼いでもらわんとな」
よし、師匠には野宿してもらおう。
熱だけでと師匠は言った。
師匠が言うのなら、それは今のミリアに出来るのだ。
動く相手に点で仕留めるのは、まだ難しい。
やるなら線だ。
ミリアは王都の花を思い出す。葉を描いたマナの動き。あれをもっと細く。
時間が短くなれば威力が増すなら、範囲を絞っても威力は増すはず!
5匹の魔獣の動きに合せて、マナの線を配置し、通り過ぎるタイミングで、熱に変換した。
熱線に切り裂かれる魔獣
断面から白い骨が覗いた
舞う血飛沫
交差するミリアの白い肌に、赤黒い斑点を描く
広がる鉄錆の匂い
「あぁ……、うん、出来ておるが……の。また、派手にやったのぅ……」
アサルカは、キセルを口から離し、紫煙が漏れるにまかせでいった。
そこには、バラバラになって、身体の中身をばら撒いている魔獣。
それに囲まれて、吐き戻して顔を青くしているミリアがうずくまっていた。
ううう、これには慣れない……
昨日は焼いたからまだ大丈夫だったけど、切ると中身が………うううぶッ!
口を手で押さえながら、チラっと師匠の方を見ると、やけにニヤニヤしてる。ん、もう!!イジワル師匠め!!
手伝ってくれてもいいと思う!!
憤慨しながらも、吐き気を飲み込み、ナイフを手に取る。二回目なのだ、これくらいやりきってみせる!!
震えながら涙目で解体を始めるミリアを、アサルカは楽しいような、寂しいような目で見つめていた。
師匠は充分、休憩を堪能しただろう。
5匹を3時間かけてやっと終わった。
今度は魔石だけでなく、毛皮の一部と牙も採取した。文句は言わせない。泣きたい。しばらく肉はいらない。お菓子欲しい。師匠からせしめよう。
「ん、よくやったの、ミリア。お前の稼ぎになるんじゃ、涙も苦労も、噛み締めておけ」
汚れた顔と手を、アサルカはタオルを濡らしながら優しく拭きとっていく。
ミリアは、こねくり回されながらも、拭かれるがままにしていた。
こんな雑な拭かれ方は初めてだ。
でもそれが何だか嬉しかった。少しだけ流れた涙も拭き取られていく。
「あと数時間あるけば、今日の目的地、ドルテンに着く。今夜はそこで宿をとるぞ?」
「師匠、これで宿代たりる?毛皮、ほとんどダメになったけど……」
おずおずと、剥ぎ取った素材を見せる。
アサルカは、口を歪ませて笑う。
「多少相場は落ちとるがな、魔石1個あれば充分じゃろ、ふぉっふぉっ!」
手元には、魔石6個と牙10本、ズタズタになった毛皮の束……
こ、この、ひょうきんエルフじじいめ!!!




