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Aクラス冒険者クラン

 誰もが最悪の結末を、泥にまみれた青年の死を覚悟した。


 まさに、その時だった。


「ンナーーーッハッハッハッハッハッハ!!!!」


 絶望に染まる丘に、不釣り合いなほどやけに尊大で、高圧的な男の声が響き渡った。


 直後、ドドドドドドドドド、と地鳴りのような凄まじい足音が響き渡る。


 その圧倒的な地響きと共に、猛烈な勢いで戦場に突入してきた影があった。


「ババ、ビビ、ギギ、ググ! いけっ!Aクラス冒険者クラン、我が『ガルハイム』の真なる威光を、この田舎者どもに見せつけてやるのだ!!」


 現れたのは、身長2mを超える、凄まじくビルドアップされた4人の戦士たち。


 丸太のように太く強靭な四肢は、はち切れんばかりのムキムキな筋肉で覆われており、一歩踏み出すごとに大地を揺らすほどの圧倒的な質量を誇っている。


 しかし、それほど獰猛で力強い肉体でありながら、全体のシルエットはスーパーモデルを思わせる驚異的な高頭身。


 ギリシャ彫刻のように気高く、芸術的なまでに完成された肉体美を体現していた。


 その圧倒的なスタイルに対して、顔立ちは驚くほど小さく、息を呑むほどに整った美貌を湛えている。


 凛としたその「小顔」はどこまでも美しく、獰猛な肉体との強烈なギャップが、見る者を気圧すほどのカリスマ性を放っていた。


 その端麗な額から獰猛に伸びる二本の角が、彼女らこそが女性のみで構成される超戦闘種族『鬼人族』の戦士であることを、何よりも雄弁に物語っていた。


 鬼人族が、サイクロプスの大振りのこん棒を紙一重でかわし、その巨大な脚部へ強烈なタックルを見舞って引き倒す。


 あっという間に2匹の巨体が倒れたことで、後続のサイクロプスたちの進路が物理的に塞がれた。


 その隙に、先ほど『霧渡り』と共に合流したストーンガードの男が、泥まみれのヒデを回収すべく駆け寄った。


「あっはっは!よくやったぞ坊主!見事見事、よくもあれだけの数を引き連れて走ったな!」


「もう、足が痛くて走れないよぉ……って、おじさん、腕……。」


「ワシはさっきの攻撃受けたとき、盾ごと腕がボッキリ折れててな!ガハハ!!」


 折れた方の腕で平然と自分を抱えている重戦士に、ヒデは恐怖した。


「痛いのに……この人、頭おかしい……。」


「生きてるって証拠だよ!!!」


 バシィン、と豪快に背中を叩かれ、ヒデは「痛いんだよォォォ!」と涙目で絶叫した。



 戦場では、突入した鬼人族の4人が、13匹という圧倒的な数のサイクロプスを巧みにコントロールしていた。


 巨体ゆえにお互いが障害物となり、巨人たちは鬼人族の素早い動きを捉えきれない。


 まるで、優秀な牧羊犬に追われる羊の群れのように、巨人たちはお互いを邪魔し合わせるように誘導され、完全に翻弄されていた。


 しかし、彼女たちも、決定打を欠いていた。


 13匹という数が密集しているため、1匹を確実に仕留めようと大きな隙を晒せば、すぐ横に立つ別の巨人からの反撃を喰らってしまうのだ。


 数が多すぎて、トドメの一撃を叩き込むための「わずかな一瞬」すら作れずにいた。


「おい!!僕に恥をかかせる気かぁー!!ちゃんとさっさと殺せよ!!!!」


 戦場の後方からは、クランリーダーと思われる人間の男が、ヒステリックに癇癪を起こして叫ぶ声が響いていた。


 文字通り命を賭け、文字通り身を削りながら、ただ一筋の希望としてその到着を待ち続けていた。


「Aクラス」さえ来てくれればこの地獄が終わる、トコヨの街が救われる。


 そう信じていたからこそ、ボロボロになりながらも必死に時間を稼ぎ、戦線を維持してきたのだ。


 だが、死力を尽くして待ち侘びた救世主が、これだった。


(……まじかよ。これが、俺たちが待った「Aクラス」なのか?)


 醜悪な喚き声を耳にするたび、アルベルトやトコヨ守備団の冒険者たちの胸の奥で、何かが急速に冷えていく。


 憧れ、畏怖し、すべてを託そうとした最強の看板の、あまりにも浅ましく器の小さな裏側。


 戦場に燃え上がっていた熱い闘志が、冷や水を浴びせられたかのように引いていく。


 血の気が引くような深い落胆と、胸の隙間を吹き抜ける冷たい不信感が、満身創痍の彼らの心をひえひえと凍りつかせていった。



 クランリーダーの男の怒声に応えるよう、鬼人族の4人が意を決して動いた。


 2匹のサイクロプスを同時に引き倒し、手前のサイクロプスに4人同時の頭部への集中攻撃が炸裂する。


 ガアアアアアア!!・・・・・・・・・


 残り12匹。しかし、懸念されていた反撃が鬼人族を襲った。


 メンバーのひとり、ググに向けて、別の巨人の巨大なこん棒が容赦なく振り抜かれたのだ。


 凄まじい衝撃音とともに、鬼人族の巨体がボールのように遥か後方へと吹き飛ばされる。


 通常の人間なら即死。


 だが、ググは空中で見事に体勢を立て直し、ズザザザと地面を削りながら着地してみせた。


「ふぅーっ……!……みんあ!!!これなら3回は耐えられるよ!!」


 彼女は深く息を吐き出し、仲間の3人に笑みを向けた。


 ここからが鬼人族の真骨頂。


 その人外の耐久力だった。彼女たちはある程度の被弾を覚悟した強引な立ち回りで猛攻を仕掛け、一気に4匹のサイクロプスを狩り倒した。


 残るは8匹。


 しかし、数が減ったことで皮肉な事態が起きる。


 密集状態が解消されたことで、逆にサイクロプスたちが自由に動きやすくなってしまったのだ。


 お互いを邪魔し合う不自由さから解放され、反撃のキレを増していく巨人たち。


 鬼人族の頑強な肉体をもってしても、まともに耐えられるのはせいぜい3回が限界だ。


 すでに先の攻防で猶予を削られている彼女たちにとって、一転して鋭くなった巨躯の猛攻は、「これ以上の被弾は許されない」という明確な死線へと変わりつつあった。


「チッ、何やってるんだお前たちは!!もう僕が出る!!!お前らは援護しろ!!!」


 手柄を焦ったリーダーの男が、剣を抜いて飛び出した。


 引き倒しも何もしていない、万全な状態のサイクロプスへ正面から真っ直ぐ突っ込んでいく。


「アレン、ダメだ!!戻れ!!」


 鬼人族たちの制止も虚しく、サイクロプスは無造作に太い脚を振り抜いた。


 こん棒ではなく、容赦のないキック。


 これまでの冒険者たちは、巨人に蹴りを使わせないよう、常に一定の距離と位置取りをキープしてこん棒を振らせていた。


 そんな基本すら知らない男の、あまりにも無謀な突撃。


「ヘゴフゥッ!?」


 無謀にも飛び掛かった瞬間に凄まじいヤクザキックを叩き込まれ、アレンの身体は派手に宙を舞い、地面に無様に転がった。


 完全に意識を失っている。サイクロプスはその哀れな獲物を踏み潰さんと、巨大な片脚を高く持ち上げた。


「「「「アレンっ!!!」」」」


 ババ、ビビ、ググの3人が、アレンを救うべく死に物狂いでその足元へ滑り込み、振り下ろされた巨人の足を肉体で受け止めた。


 サイクロプスの巨大な足の裏から伝わる凄まじい重量が、彼女たちの骨をミリミリと軋ませる。


 3人がかりで踏み抜きを必死に支えるものの、その圧倒的な質量の前には身動きを奪われ、完全に巨人の足の下で釘付けになってしまった。


 その隙に、ギギが気絶したアレンの襟首を掴んで後方へと引きずり出し、どうにかその身体を回収する。


 しかし、戦場は救われた安堵さえも一瞬で塗りつぶした。


 最悪なことに、足を支えきったまま身動きの取れない3人の無防備な側面から、隣にいた別のサイクロプスが、凶悪な質量を持つこん棒を全開で振りかぶるのが見えたのだ。


 迫りくる圧倒的な破壊の質量。


 どれほど人外の頑強さを誇る鬼人族といえど、完全に隙をさらした状態でこの大質量をまともに喰らえば、ただでは済まない。


 誰もが、その全滅の光景を幻視し、絶望に目を背けようとした







 ―――その瞬間。


 ”我が双槍(そうそう)よ、穿て”


 深く、どこまでも透き通るような、凛とした女性の声が戦場に響き渡った。


 次の瞬間、空間そのものがその威圧にひれ伏したかのような、凄絶な魔力の奔流が顕現した。


 それは荒々しい暴力的な奔流などではなく、この世のあらゆる物理法則を置き去りにし、万物を穿ち、何物にも遮られぬ圧倒的な「意志」を持った、二条の極光。


 極限まで研ぎ澄まされ、洗練されたその二条の魔力の奔流は、あまりに純粋で、あまりに気高く。


 魔法の深淵を知らぬ地場の冒険者たちでさえ、迫り来る死の恐怖を一瞬忘れ、ただ「美しい」と。


 目を奪われるほどに完璧な極光が、絶望に染まった丘を駆け抜けた。



 一度の魔法で放たれたのは二条の極光。


 そしてそれは、一瞬にして3匹の巨人を屠り去った。


 ある一条は、鬼人族を踏み潰そうとしていた個体の頭部を正確に貫き、その光軸上にいた背後のもう1匹をも一蓮托生に消し飛ばす。


 そして同時にもう一条が、横からこん棒を振り下ろそうとしていた個体の頭部を抉り取った。


 文字通り一撃のもとに、実に3匹のサイクロプスが倒されたのだ。


 糸の切れた人形のように巨体が地面へと崩れ落ち、土煙が舞う中、戦場は水を打ったように静まり返った。


 静まり返る戦場、あっけにとられ立ち尽くす彼らの背後から、ひとりの女性が静かに歩みを進めてきた。


 その佇まいはどこまでも凛としており、長い前髪が顔の左側を覆うように美しく流れている。


 彼女が纏うのは、微かに蒼を帯びた、冴え冴えとした氷白色(ひょうはくしょく)の魔導衣。


 生地と同色の糸で精緻(せいち)に施された花々の刺繍は、決して主張しすぎず、しかし光の陰影の中で確かな存在感を伴って息づいている。


 頭上に戴く帽子にあしらわれた、花を象《かたど》ったワンポイントの意匠もまた、彼女の静かな気品を引き立てていた。


 その手に携えるのは、先ほど3匹の巨人を一瞬で消し去った極光を放った、銀色に輝く巨大な魔導槍。


 圧倒的な破壊を齎した張本人とは思えぬほど、彼女はただ静かに、その美しい衣を翻して歩んでいた。



「Aクラス冒険者クラン『白花の槍』、リーダーのリオナ・エルド・スピカです。ここはわたくしが引き受けますので、みなさん、急ぎ体勢を立て直してください。」






 リオナ・エルド・スピカ。


 頂を過ぎた午後の光を浴びて、狂おしいほどに輝くその純白の槍。


 少し長さを増した光と影の陰影のなか、槍身に深く刻まれた花のレリーフが、確かなディテールをもって美しく浮かび上がっていた。



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【TIPS:通る声】

 現代の魔法使いにとって、何よりも重んじられる基礎。それは「発声」である。


 詠唱による発動が主流となった現代において、魔法の有効射程《確殺》や影響範囲《減衰》は、術者の「声が届く範囲」に深く依存するからだ。どれほど強大な魔法を頭の中で構築できようとも、声が掠れ、途中で途切れてしまえば、その理が世界に影響することはない。逆に、美しく 遠くまで「通る声」を持つ者は、それだけで広大な絶対領域を手に入れたに等しい。


 故に、魔導の門を叩いた見習いたちが最初に叩き込まれるのは、高遠な魔導書の読解ではなく、泥臭い腹式呼吸と徹底的な発声練習である。


「声を鍛えぬ者に、世界の理を語る資格なし」


 魔法使いの学び舎では、今日も魔法の研鑽よりも先に、腹の底から響く見習いたちの艶やかな声が木霊している。


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【TIPS:級とクラス】

 冒険者個人の等級を現すのが級。

 クランの等級を現すのがクラス。


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この世界の上位陣は強さがインフレしていて、BではどうあがいてもAの戦力代替になれない。Aの上、特級はAが貢献度認められて特級に値するかどうかを審判されなります。横綱昇進みたいですね。A帯が最も質の上下が激しい感じです。


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