ヒモの王(4)♯
そう、俺はヒモの王。
ヒモには人付き合いがわからぬ。ヒモは、魔物の狩人である。魔物を殺し、レベルを上げて暮らして来た。けれども人付き合いに対しては、全て女性陣に放り投げていたのであった。-走れユウト(レベリング周回的な意味で)
「ところでイガラシさま、命の恩人である貴方さまに、ぜひ我がクランを挙げて出来うる限りの最高の礼を尽くしたいのですが……!望まれるものはございますでしょうか。何なりとお申し付けください!」
両膝を地面につき、胸の前でそっと両手を組むリオナ。その姿は、まるで大聖堂の女神像の前で、敬虔な祈りを捧げるひとりの信徒のようだった。
「イガラシさま……先ほどの癒しの御業、本当に言葉もございません。もしあれほどの重傷を負えば、命を落とす者はおろか、生き残っても二度と武器を持てないほどの障害が残り、冒険者として生きていけなくなる……生き残っても地獄という、最悪の結末を迎えていたはずです。それを、すべて救ってくださった。」
ゆっくりと顔を上げた彼女の瞳には、打算のない、純粋な敬意の光が宿っている。
「何ひとつ対価を要求することなく、ただ博愛の精神をもって御業を差し出してくださった。そんな気高くも慈悲深い貴方さまに、心からの敬意を表します。」
彼女は感謝を述べ、そして顔が切り替わる。
「……ですが、これほどの至高の御業を賜るだけ賜っておきながら、何もお返ししないというのは、Aクラスクランを率いる者として、そして冒険者としての沽券に関わります。つきましては、まずは治療の代金をお支払いしたく存じます。」
そう言って、彼女はすっと姿勢を正した。
後ろの生徒たち(?)も大きくうなずき同意している。
あれ?この世界の治療ってそんな価値あるの?セレスティアに付いてきてた神殿の人ら、全員奇跡の使い手で当たり前のように使っていたけど、もしかしてあれは……超豪華なメンツだった!?
「これほどの重篤な案件の治療費となりますと、冒険者ギルドの口座経由でのお振り込みとさせていただきたいのですが……。その、お差し支えなければ、イガラシさまはギルドへのご登録、ならびに専用の口座はお持ちでしょうか……?」
彼女はそこで言葉を区切り、こちらの事情を気遣うように、とても慎重な口調でお伺いを立ててきた。
へへへ、この人って無職っぽいけど、今お仕事何をされていますか?って業務上聞かないといけない人みたいな感じになってるな!!
「あ、いえ!もし、その……お立場上、あるいは諸々の御事情により、ギルド登録、並びに口座も開いていないということであれば、決して無理にとはっ!!ただ、その場合でも何とかしてお支払いする方法を模索したく……。」
俺はフルフェイスの兜の中で、ぽりぽりと頬を掻いた。
修行時代の山籠もりから、そのまま元仲間の女性陣に囲まれて、魔王討伐まで駆け抜けたからな。宿の手配も補給も全部彼女たちがやってくれていたし、そもそも窓口に行って書類にチマチマ記入して……みたいな手続きが、シンプルにめちゃくちゃ面倒くさいし、そもそも必要に駆られなかった。
「お見事、ご推察の通りですよ。元よりひとつの場所に留まらぬ流浪の身。修行の妨げになるような面倒事は、できるだけ避けて生きてきました。ゆえにギルド登録の類いは一切していないのです。……それに、お恥ずかしながら、どうにもあのような細かい手続きというやつが苦手なタチでしてね。ハハハ!」
それを聞いたリオナ殿の瞳が、カッと見開かれた。
「ご安心ください、イガラシさま!ご自身の情報を公に遺したくないというお考えも、歴史の裏で果たすべき崇高な目的のためにしがらみを避けておられることも、すべてわかっております!!これほどの御業を持つ貴方さまがギルドに登録などすれば、欲にまみれた者に目をつけられ、政治闘争に巻き込まれて、都合よく組織の型に嵌められてしまうというリスクが発生してしまうのは明白っ!ですが!、そのような面倒事、この『白花の槍』リーダーであるリオナ・エルド・スピカの名において、絶対に、絶対にさせません!!!イガラシさまはただ口座を作っていただき、私どもの治療代金を受け取っていただくだけで良いのです!」
れ、歴史の裏?!あまりにも俺が†訳ありの凄腕流浪人†を怪演しすぎて、勘違いさせてしまったか???救世の旅にでも出てるとでも思ってそうな勢いだこれ!!
というか圧がすごい。振込させろ詐欺か?いや、詐欺じゃねぇな。
押し売り?お金の押し付けってなんだよ。
「えっ、いや、でも手続きとかが……」
「すべて!わたくしが確認を取り、書類の手続きも全て代行いたします!イガラシさまは内容に納得していただければ、最後にサインをひとつ、ただそれだけにして見せますので!ですからどうか……我々の命の、代金を、受け取る権利だけは、放棄しないでくださいまし……っ!」
うおっ、ものすごい気迫だ。
面倒な書類手続きを全部代わりにやってくれる上に、サインひとつで大金(治療費)が振り込まれる口座が手に入るらしい。
やるしかねぇ!!!これが詐欺だってなら、もう全てを灰燼に帰すほど大暴れしてやる!
「そこまで言っていただけるなら……お言葉に甘えてもよいだろうか。リオナ殿。」
「っ……!ありがとうございます!ありがとうございます!」
俺が快諾すると、リオナはまるで世界が救われたかのような、ホッとした美しい笑顔を浮かべた。
この勢いでふかふかのベッドと美味い飯も解決出来ないだろうか。いや、出来る!ここで押さねば、いつ押す!
「では、口座の件はすべてお任せするとして。先ほどリオナ殿が言ってくれた『クランのお礼』とやらについて、ひとつ我が儘を言わせてもらってもいいだろうか?」
「はい!わたくしに出来ることであれば、何なりとお申し付けください!」
俺はフルフェイスの兜の口元パーツを外したまま、にやりと笑って見せた。
「ならば、ひとつ我が儘な『望み』を口にさせてもらおうか。この先にある街で最も上等な宿に身を寄せ、そこで供される美味を、いや、この地のどんな食べ物も、これでもかと腹一杯にご馳走になりたい。……こう見えて私は、いささか『健啖家』でね。求道の身でありながら、バカみたいによく食べるのだよ。これからは流浪の旅路の傍ら、各地のまだ見ぬ食文化を、片っ端から味わい尽くす……そんな生き方も悪くないと思っていてね。」
格好つけて「各地の食べ物を巡る旅」なんて言ってみたが、要するにただの食い倒れツアーである。
元仲間の女性陣に甘やかされて肥えに肥えたこの舌を、これからは自分の力(今回はタダ飯)で満足させていくのだ。
山に引きこもって野生の肉や魔物の肉、酸っぱい木の実を齧っていた修行時代を思えば、食文化の極みを味わい尽くすことこそ、今の俺の最大の生き甲斐でありモチベーションだった。
「ふふっ、まぁ!剣の極致にいらっしゃるようなお方ですから、どれほどの無理難題を求められるかと緊張していましたが……まさか、美味しいご飯とお宿だなんて。承知いたしました、すべてわたくしにお任せください!イガラシさまがご満足いただけるよう、街一番の宿と、最高の美食をご用意いたします!」
こうして俺はギルド登録と口座を手に入れることになった。
よし、軍資金ゼロ問題、これにて完全解決!
最強の隠居人イガラシは、タダ飯の予感に胸を躍らせながら、少し仕事をした後、意気揚々と初めての街へと歩き出すのだった。
■もし、えぇ~ん>< 口座ほしいよぉ~ と泣きついた場合の元仲間の反応
聖女:にっこり微笑み、口座代行して作り、王国の国庫ぶち込んでくる。
女騎士:欲しいものあるの?ん~、奪っちゃお☆手伝ってあ・げ・る
賢者:コーザ?なにそれ?いらないでしょそんなもの。この魔法の矢なんだけどさ理論




