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ヒモの王(2)♯

 下山し、麓が近づいてきたそのときだった。

 魔法が放たれたときの独特の匂いが風に乗って漂い、魔物の咆哮と人の怒号、そして金属がぶつかり合うような剣戟の音が混ざり合って響いてきた。



「お、誰か戦ってる?ここまで魔法が匂うって大きな戦闘なのかな。」



 誰かが魔物と戦っているらしい。

 この戦闘音からすると戦闘は拮抗しているような、そんな感じだ。

 歩みを早め、戦場になっている場所まで駆ける。


 木陰から様子を覗くと、複数のグループが一丸となって魔物の群れと戦っていた。


「うわぁ……動きがめちゃくちゃ緩慢だな。初心者冒険者の運動会か?頑張れ頑張れ!」


 遠目に応援しながら観察する。

 未熟な動きの集団の中で、ひとりだけ異様なほど高火力の魔法を次々と放つ女性魔法使いがいた。小学低学年の運動会に助っ人で参加枠が用意された高校生のお姉さんって感じだ。



「なるほど、あのお姉さんが引率の先生で、新人たちをレベリングさせてるわけか。スパルタな教育方針だなぁ。」


 俺はソロでのレベリングはわかるが、集団でレベリングさせる方法というのは実はやったことがないのでわからない。お手並み拝見、というか、この機会に学ばせてもらおう。


 自分たちと同格……いや、完全に格上の魔物の群れに突っ込ませて、危なくなったら先生がバックアップするスタイルだろう。


 微笑ましい。しかし、勉強になる。だが、魔物の群れの後方からノロノロと現れた見覚えのあるクソを見た瞬間、俺は少しだけ眉をひそめた。



「あれ……ラスダン(魔王城へ繋がる洞窟)で戦ったことある岩殻の抗魔獣(がんかくのこうまじゅう)か?なんでこんな辺鄙なところにいんだ?」



 それは、岩のように強固な表層を持ち、圧倒的な『抗魔』を誇る巨大な魔物だった。亀っぽい外見をしていたり、二足歩行の土くれゴーレムみたいな外見してたり、と形には決まった外見はなかったが、性質が共通してた。


 動きは鈍いが、この世界の一般的な冒険者には、その特性が知られていない初見殺しのバケモノになりうる、とフィオナが言っていた。ただ、フィオナが魔法で倒すことにこだわって、何度も戦って研究したんだったな。


 案の定、冒険者チームの近接職が突撃するが、頑強な装甲に攻撃が一切通じず、巨体から繰り出された一撃で全員がバカスカ殴り飛ばされて瀕死の重傷を負っていく。


 さらにマズいことに、あの魔物は「浴びた魔法を蓄積して、周囲に放射する」という中々の初見殺し特性能を持っている。フィオナが初見で調子にのって、高火力の魔法をぶち込みまくったせいで、大変なことになったんだったな。


 引率の先生(女性魔法使い)は、効かないことに焦ってすでに最大火力の魔法を数発ぶち込んでしまっていた。



 ”グルオオオオオオオオッキュイィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーー”


 全身が光り輝き、蓄積された膨大な魔力が、無制御で辺り一面にまき散らされる。

 女性魔法使いが咄嗟に展開した防御障壁も一瞬で粉砕され、引率されていたチームは一撃で全員が戦闘不能、全滅状態に陥ってしまった。


「あちゃー……引率レベリング大失敗じゃん。しょうがねえ、助けるか。笹食ってる場合じゃねぇ!」


 ばっと木陰を飛び越え、腰の小汚い錆びた折れた直剣を引き抜いた。


 呪術『炎の呪いの武器』


 呪術を発動させ、小汚い錆びた折れた直剣の刀身から、激しい黒赤色の炎が爆発的に燃え上がった。いわゆるエンチャント型の術だ。


 刀身が折れて短かろうが、呪術の炎でリーチを伸ばせば問題ない。俺は一歩を踏み出し、一瞬で距離を詰めた。


 岩殻の抗魔獣は確かに抗魔性能が狂っているが、マイナーな呪術に対する耐性、抗呪はほぼノーガード、つまりガバガバなのだ。


 そもそも、この世界で抗呪が高い生き物なんて、両手の指で数えてもまだ余るくらいのレア枠だ。(レア枠にインする俺!)


「フッ!」


 炎を纏った小汚い錆ついた折れた直剣を軽く一振り。

 一度目に使ったときから妙に手になじむとは思っていたが。

 二度目の今、確信した。


 これはもう、生き別れた兄弟とか、深く愛し合いながら離れた恋人とか、そんな比喩でも足りない。


 まるで、ずっと昔から俺の手の中にあった相棒を、ようやく握り直したような感覚だ。


 なんたって、呪術の乗りがすごい(すごい)


 聖剣に呪術エンチャントなんてしようものなら……。

 ギャーギャーわめき散らし文句ばっかりで、うるせぇことこの上なしのクソ面倒な武器だったのに、この折れ直(マイラブリーソード)は違う。


 静かに寄り添って、俺の意図を全部理解し、そして全肯定してくれる。

 まるで、”あなたの望むままに”と常に微笑んでくれているような、

 そんな完璧で究極の相棒!弱点なんて見当たらないぜ!!!





 魔法の無い世界から来た魂なので、魔法の匂いを感じられる、匂いを認識できる。

 この芸当が出来るのは主人公だけ。


 外国人観光客や久しぶりに帰国した人が羽田で醤油の香りする!!っていうのと似たような感じ。


---

 ■黒棘の血契鎧(こくきょくのけっけいがい)②

 生血を捧げられている間、この鎧は比類なき盾として着用者に寄り添うだろう。

 まるで、その肉体に危害を加え、血肉をすすり、傷つけることを許されるのは自分だけだと言わんばかりに。外なる害悪を頑なに拒絶するその様は、守護の慈悲などではなく、おぞましい独占欲が、鎧の姿を借りて静かに息づいている。


 だが、捧げるべき血が尽き果てたとき、主を待つのは絶対の死に他ならない。戦うたびに命を削り、一歩ずつ確実な死へと歩みを進めさせるその歪んだ執着は、身を守るための装備などではなく、それ自体が完成されたひとつの「呪い」のようだ。


 ---

 ■白棘の聖竜鎧(はくきょくのせいりゅうがい)②

 器から溢れ出た魔力の奔流は傷を塞ぎ、命を潤すが、それは生易しい「回復」などではない。主のすべてを、己の手で、己好みの形へと作り変えようとする、純白の狂気と執着。傷が癒えるたび、その肉体は彼女の望む姿へと再構築されていく。


 外より施される奇跡の御業すらも、この純白にとっては糧にしかすぎず、殻の中では何倍にも増幅され、その歪んだ愛の変革をただ加速させるという。


 かつて竜の姫君は、この美しい鎧に「純愛」の二文字を冠そうとした。……だが、背後に佇む者に宿った、あまりに恐ろしい気配に気づき、慌てて無骨な竜の名に言い直したのだという。


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 ■小汚い錆ついた折れた直剣(マイラブリーソード)②

 分厚い錆の奥底を覗けば、そこにはかつて栄華を極めた文明の片鱗たる、美しい装飾が今なお遺されている。

 物語をなぞる文字のような文様が刻まれているが、魔王の手によって『滅び』そのものが日常となったこの現代において、失われた国の遺物など特段珍しいものでも、嘆くべき悲劇でもない。錆びついた過去の物語など、もはや誰の胸も打ちはしないのだ。


 刃がへし折られたその場所で、刻まれた文様もまた途絶え、物語は終焉を迎えている。人の心を揺さぶる物語は人々に希望の光を灯すが、この剣が遺した顛末はそうではない。ただ過酷な時代に踏みつぶされた、無数の、ありふれた運命のひとつに過ぎないのだろう。


 ---

 ■黒く煤けた戦兜②

 これを唯一無二の逸品へと変質させたのは、浴びたであろう、望外なる炎だ。凄絶なる業火に焼かれ、煤け、結果としてこれ以上なく頑強に鍛え上げられたのだ。


 幸か不幸か。だが、これほどの炎に巻かれたのだ、当時の着用者が変質した兜の価値を識る由もない。

 やはり、ただ不幸であったのだろう。


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