ヒモの王(1)♯
これからの異世界ライフに胸がドキドキ!!!やるぜスローライフ!
魔王討伐というメインクエストを完全に片付けた俺は、復活ポイントである『霊山』の鬱蒼とした山道を、軽快な足取りで下山していた。
気分はまさに、全ての義務から解放された新たな船出だ。
やることやったし、これからは誰にも遠慮せず異世界スローライフを満喫するぞ!
それはそれとして……
「……はぁ、ユニーク装備を失うってのは結構心にくるな。」
俺は歩きながら、自分の身に纏う鎧に視線を落とした。
現在着ているのは、禍々しい漆黒が特徴的な、内側にびっしり棘がついた『黒棘の血契鎧』だ。
修行時代にドロップし、ずっと愛用していたが、仲間として聖女が加入後は、これを着て戦ってると瞳から光が消えるし、女神から最終的に呪いかけられるしで、散々だった。魔王討伐の旅の途中、竜姫の加護を付与したことで性能が反転し、色も純白の『白棘の聖竜鎧(はくきょくのせいりゅうがい』になっていた。
魔王戦で一度「死亡判定」が下りて『一度きりの再臨』でリスポンした結果、加護が消滅。元の漆黒仕様に戻ってしまったのだ。
久しぶりの着用になったが、持ってかれる血の量が少ない気がした。
しかし、これは俺にとって超ラッキーなのかもしれない。何事も前向きに考えてみよう。
そもそも、白棘の聖竜鎧に変化した際、「黒棘の血契鎧はもう不要になったから捨てたよ^^」と聖女らに嘘をついたのだ。
なので、扱い的にもう俺のものじゃないし、捨てたもんだから、他の誰かが拾って使っててもおかしくない理論が使えるのだ!!
これから異世界ライフを満喫するのに、あの純白の鎧のままうろついていたら、速攻で噂が広まって元仲間たちに捕捉される。だが、この漆黒の禍々しい鎧なら他人の空似にすら掠らない。完璧な偽装だ。
「!?……おおぅ……なんということだ……。聖剣はダメだったかぁ。魔王に突き刺したままだったからかなぁ。」
「あーあ、手ぇ離したせいで再臨判定から外れたか。はぁ〜……まあいいや。検証にはなったし、いい勉強代ってことで……ぐやじいです!!!!くぅーーー!!!」
最強の聖剣ヴァルハイトは、魔王の胸にぶち刺したまま置いてきてしまった。短い間だったが、ありがとな聖剣。さんきゅー聖剣。フォーエバー聖剣。
……っやっぱ二度と見たくねぇし握りたくねぇ!!
聖剣ヴァルハイト。性能はぶっ飛んでいるが、意志を持ち何かと聖女の肩を持ち、永遠に小言を頭に流し込んでくる呪いの剣だ。何が聖剣だ、バーカ!!
ホイホイ下山していくと、山道の脇に、小汚くて錆びついた、刀身の半ばからボッキリ折れた直剣が突き刺さっているのを見つけた。
柄のサイズから見ると恐らくロングソードだが、刃の長さはぽっきりいってるのでショートソードよりも短い。
「まあ、素手よりはマシか。得物無しってのも怪しまれそうだしな。見てくれは大事大事。」
俺はそれを引き抜き、近くに落ちていた、この直剣の鞘と思われるものを腰にさげ、納刀した。ふふ、これで様になったな。
その後、一日下山しているが中々麓に着かず、魔物にも遭遇していたので切り伏せ……ないで、殴り倒し糧にした。
灰になってしまうからね。
久しぶりの魔物食。
まっずい!俺はもう……もう野生には戻れないな……。
もう上のお口は、「食文化」という文明の結晶に染まってしまっているのだ。
女性陣が加入する前の修行時代は、山に引きこもって魔物や木の実を食う生活で、飢えもしなかったし、味も量も満足していた。だが、彼女たちから提供される各種高級な料理、美食で食文化に目覚めてしまったのだ。
今やバカみたいに良く食う健啖家が爆誕した。
倒した魔物からドロップした、頭部を完全に覆うフルフェイスの兜を装備する。この兜、顔面部分が仮面みたいになっていて、目元と口元が別々に外せるセパレート構造の優れものだ。
被ったまま食事ができるのが素晴らしい。
俺は魔王討伐救世の旅路一行として顔が割れてるので、このドロップ兜は渡りに船だった。【運:999】の御威光じゃ!!
黒く煤けたような色で、黒棘の血契鎧とのコーディネートもばっちり!漆黒の剣士とでも名乗ろうかな。ふふふ、かっけー!
山を降りたら、まずは美味い飯とふかふかのベッドがある街を探そう。
俺たちの旅は、人類じゃどうあがいても太刀打ち出来ない魔王軍の主力をクリティカルに狙い撃ちにする最短ルートだったから、世界の半分も回っていない。
この霊山も、修業時代レベリングの通りすがりにうっかり一瞬寄った程度で、山から下りていない。下山後のまだ見ぬ新しい土地での冒険にワクワクが止まらない。
……と、そこで俺は、ある重大な事実に気づき、ピタリと足を止めた。
「待てよ。……俺、いま一銭も持ってなくね?」
そう、財布の中身が綺麗に0アリアなのだ。
アリアってのはこの世界の通貨単位で、女神の名前からとってつけたらしい。
……俺にとっては、初対面で泣きついてきた綺麗な女神、かと思いきや、気軽に神の呪いをかけてくるし、現身として聖剣を送り込んでくるアグレッシブなやつだ。邪神かな?
よくよく考えてみれば、女性陣加入後の俺は、凄まじい「ヒモの王」だったのではないか……?。
元仲間である聖女、女騎士、賢者の3人は、いずれも国家や大組織の超重鎮。宿の手配、高級な食事、消耗品の補充まで、金の心配など一度もしなくていい極上のヒモ生活環境が提供されていた。ちなみに俺の装備品は全部ドロップで集めたやつだ!!そこまでヒモじゃねぇぞ!
「今の俺はただの無一文……!金を稼がないと美味い飯が食えん!」
美味いもんをたらふく食う。そのための金策が、現在の俺の最大にして唯一のモチベーションとなった。
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■黒棘の血契鎧①
内側に鋭利な黒き棘がびっしりと狂い咲く、禍々しい漆黒の鎧。
着用者に絶え間ない出血と激痛を強いる不条理の具現であり、その身から流れる鮮血を、純粋な魔力へと変換して鎧内部に蓄え続ける。許容量を超え溢れたとき、全身を包む強固な魔力障壁を形成し、着用者を危害から守る。
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■白棘の聖竜鎧①
内側に鋭利な棘がびっしりと狂い咲く、純白の竜鱗鎧。
漆黒の黒棘が、竜姫の尊き加護によって反転を遂げた姿。
着用者へと加えられるいかなる危害も、この鎧は頑なに「半分」だけ肩代わりする。
それはまるで、永遠に続く「初めての共同作業」を、嬉々として分かち合うかのようだ。鎧が身を挺して受け止めた痛みは、即座に魔力へと変換され、昏い慈悲の器たる内側の棘を介して、着用者の肉体へと直接流し込まれる。
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■小汚い錆ついた折れた直剣①
再臨ののち、寂れた霊山を下る道すがら拾い上げられた、無残に折れた直剣。
刀身は半ばからぽっきりと失われ、今やショートソードよりもなお短い。
だが、傍らに転がっていた古びた鞘へと差し込めば、まるで離れ離れになっていた半身が巡り逢ったかのように、吸い込まれるほどぴったりと収まる。それはかつて、一対の分かたれぬ運命として誂えられたものだった。
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■黒く煤けた戦兜①
霊山を下る道すがら、打ち滅ぼした魔物が遺した黒く煤けた戦兜。
今や失われた技法と金属によって打たれているが、それだけであれば、特筆すべき性能などないありふれた防具に過ぎなかった。




