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夏休みの宿題は速攻終わらせるタイプが異世界転生した♯

主人公回はエピソードタイトル末尾に#がつきます。

 夏休みの宿題は、最初の3日間で全て終わらせるタイプだった。


 前世の名前は五十嵐勇人(いがらしゆうと)。

 自他共に認める重度のゲーマーだった俺は、不慮の事故であっさりと人生の幕を閉じ、気がつけばこの異世界に転生していた。


 異世界ではユウトと名乗った。


 転生した瞬間、俺はこの世界の現状を知った。

 曰く、魔王という存在が世界を滅ぼそうとしているらしい。

 曰く、人類は滅亡の危機に瀕しているらしい。


 チートを与えたのに全てを放り出してスローライフに勤しみ田舎に引きこもる奴が連続して困っている、と女神っぽい綺麗な人に泣きつかれたのが最初だった。



(なんだ、異世界生活の最優先目標に『魔王討伐』っていうクソデカいメインクエストが設定されてるのか。)


 だったら、話は早い。

 楽しい夏休み(スローライフ)を満喫するためには、まず目の前にある忌々しい宿題を全て片付ける必要がある。


 先にやりたいことをやって、最後に宿題を残すのは最悪だ。

 提出の日、家に忘れました!と悪あがきをしたクラスメイトの佐藤はその後……いや、あいつの傷をえぐるのはやめおこう。


 だから俺は、転生早々に旅に出た。

 といっても身体がちゃんと動くくらいの歳になってからだが。


 身体を鍛え、ステータスの伸び方、上げ方を確認し、パワーレベリングの方法、技や奇跡、魔法、呪術の検証。ある程度様になったので、勝手についてきた仲間と共に、世界を巡り、紆余曲折を経て、さっき魔王をブチ殺してきた。


 宿題、完全終了である。


「…ふぅ。お、きれいに元通りだな。初めて発動だからちょっと不安だったけど、しっかり出来てる。」


 深い山奥。木漏れ日が差し込む静謐な泉のほとりで、俺は自分の両手を握ったり開いたりした。


 激しい戦いの記憶を思い起こす。


『ユぅぅぅううううウトォォオオオオオオ!!!!!』

『まおおおおおおおおおおう!!!』


 全身に受けた”魂さえも腐り落ちる呪い”、と胸を貫いていたはずの傷は消え去り、装備も新品同様になっている。


 奴は、魔王は確かに強かった。

 今まで戦ってきたどの敵よりも強かった。


「すっげ!これ耐久値も全回復か!」


 自分の状態を確認していく。


「あちゃー、加護消えてんじゃん。そっか。完全死亡だと加護もリセットされるのか。なるほどなるほど。ひとつ検証になったからいいかぁ。」


 俺が魔王との相討ち時に発動させた秘術『一度きりの再臨』。

 あらかじめ設定しておいた復活ポイントで、バフデバフを全て解除して完全な状態で生き返るという、まさに文字通りの再臨だ。これを習得するには単一のステータスではなく、複数のステータスが高水準に至っていないといけない。


「うん、ステータスも問題なし、と。」


 頭の中で念じると、半透明のシステムウィンドウっぽいのが目の前に展開する。


 そこには、すべての項目が上限値《カンスト》でピタリと止まった、美しすぎる文字列が並んでいた。


【筋力:999】【技量:999】【魔力:999】【耐久:999】……。

 各種耐性スキルや、検証を重ねて効果を実証済みの最強技の数々も、すべて完全に網羅されている。


 この世界は、前世でプレイしたことのあるゲーム《《たち》》に酷似していた。


 この世界は、ゲームそのものではなかったが、システムやスキルの挙動は驚くほど似ていたのだ。


 この世界の人間にとって、地道にレベルを上げたり、同じ作業を繰り返して熟練度を稼いだりするのは精神が崩壊するほどの「苦行」らしいが、ゲーマーの俺にとってはただの「ご褒美」でしかなかった。


 効率的なレベリングルートを構築し、スキルのシナジーを計算し、ひたすらカンストまでやり込む。


 気づけば俺は、世界の理を置き去りにした最強の存在になっていた。

 だからこそ、あの初見殺し連発のクソボスだった魔王にも勝てたのだ。


「いやぁ、それにしても……。」


 俺は泉の水をすくい、喉を潤しながら、直前の魔王戦の幕引きを思い出す。


 最後は魔王の放った相打ち覚悟の「魂魄絶死《こんぱくぜっし》の呪い」を受け、俺の身体は光の灰となって消えかけていた。


 もちろん、俺としては『一度きりの再臨』が発動しているから「あ、行動パターン変わったな。そろそろ殺せるタイミングだな」くらいにしか思っていなかったのだが。


 魔王の相討ち覚悟の攻撃に対して、こちらも相討ち覚悟の一撃を浴びせ、トドメを刺した。



 あの時の、仲間たちの顔。


「いやぁぁぁああああああ!!!ユウト!嘘よ、嫌!私の奇跡が、なんで効かないのよぉッ!」


「ダぁーリン、最初からこうするつもりだったの?。。。自分を犠牲にして、世界を……っ!一緒に……逝けなくて……ひとりで逝かせて……。弱くて……ごめん、ごめんね、、、ごべん゛!!!!!」


「ああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 聖女も、女騎士も、賢者も、みんな涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして絶叫していた。


 身体がサラサラと消えていく最中、俺は彼女らに向けて、特に深い意味もなく、いつもの軽い調子でこう言ったのだ。


『あー、やっと終わったわ。みんな、』


 と、彼女たちの肩を叩こうとしたら、光の灰になりつつある身体が一気に崩壊して吹き飛んだんだった。


 最悪のタイミングでわろた。

 これ絶対、なんか色々勘違いさせたり、自分のせいだとか背負い込むだろ。



 俺としては「あとで復活ポイント(ここ)から山を下って合流するから、その間に政治的なあれこれはよろしく^^」と伝えたかったのだが、あの極限状態だ。言葉のチョイスを完全に間違えた気がする。


 仲間思いの彼女らは今頃、世界を救うために命を捧げた俺という英雄を失い、絶望のどん底にいながらも、魔王討伐により世界に平穏が訪れたという、世界的な祝祭の中心人物として、笑顔を振りまかなければいけない。


 一生消えない心の傷を負い、救えなかったことを悔やみ、贖罪の念を抱きながら、曇りきった瞳で生きていくに違いない。


 悪いな、みんな。

 いま俺は考えが変わった。みんな俺が死んだと思ってくれてるなら、それはそれでありだ。


 だって、「魔王倒したのでこれからスローライフ目指します!」なんていったら絶対みんなついてくるだろ。それはダメだ。


 聖女は四六時中過保護だろうし、女騎士は四六時中見張ってきそうだし、賢者は四六時中質問攻めにしてくる。


 そんなの、ちっともスローじゃない。

 スローライフってのは湖畔で朝から釣りをして、昼にはバーベキュー、夜はハンモックで寝る。たまに街へ降りて必要なものを買って、雑踏を楽しむのがいいんだ。


 猫か犬も飼うのもいいな。

 こんな生活じゃないとダメなんだ。


 だから、これでいいのだ。

 世界は救われた。

 仲間たちは生きていく。

 そして俺は、誰にも邪魔されない自由を手に入れる!!


「よしっ!」


 俺はパンッと両手で頬を叩き、立ち上がった。


 これからは俺のターンだ。

 厄介なメインクエストはすべて片付けた。


 ここからは、何の義務もない、どこまでも自由で気ままな、俺だけの本当の異世界生活が始まる。



「まずは、美味い飯がある街を目指すか」









 全ステータスカンストの最強の隠居人は、満面の笑みを浮かべ、まだ見ぬスローライフへ向けて一歩を踏み出した。



 非常に重い感情を拗らせている元仲間たちのことはつゆ知らず、これからの新生活に胸が高鳴る。



 裏を返せば、勝手に落ち込んで、勝手に復活してくれるだろう、という謎の信頼感があるのだ。

 決してクズではないし、曇らせが性癖でもない男、それが五十嵐勇人。





 やっぱクズか?




 クモラセ博士「フォッフォッフォ、そこに曇らせた女性が3人いるじゃろう!!」


 ???「女は笑顔が一番さ!」


 クモラセ博士「!?誰じゃ!三人じゃ足りないと!?わかった!もっと用意しよう!!」




 やることやったので、後は自分勝手に生きると決めた最強の行く末を応援してください。

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