HIMO(1)♯
そう。俺はヒモの王。
自虐でヒモの王だのと言ってきたが……ちょっとマジで、ヒモになるべくして生まれてきた星のもとにいるのかもしれない。
俺は魔王を倒した英雄―― HIRO なわけだ。
でも同時に、女性陣に養われていた ――HIMO でもあったわけよ。
ほら、HIRO と HIMO、一文字しか違わない。紙一重だね。
え?HIROじゃなくて、HERO?……じゃあ紙二重だね。
もしかしたら一枚増量キャンペーン中だったのかもしれないね。
運命の星だって、たまには取り違えることくらいあるさ。
それにしても……さっきのリオナって子、何がなんでもお世話させろ圧が凄かったな。強引……だったんだろうか。
いや、こう、順当に外堀を埋められていって、気づけば逃げ場がなくなっていた感じだ。いつの間にか大坂の陣で豊臣方に立たされて、気づいたら外堀を埋められてた気分や……。今まで出会ってきた女性陣にはいなかった、超絶有能なゴリ押しタイプだったな……。
あれはもう、戦術として完成されてた。
おかげで、とんとん拍子に身分と口座と軍資金、ついでに最高級の飯と宿まで手に入る手はずが整ってしまった。
いやまあ、一文無しで困ってた身としては、めちゃくちゃ嬉しいんだけどね!?そりゃびっくりもするよ!?
ここまでスムーズに事が運ぶと、逆に怖いんだよ。
絶対このあと、とんでもない揺り戻しが来るだろ…?
運命の神よ!竜よ!因果律よ!!
神羅万象・魑魅魍魎よ!!!
お願いだ、もし揺り戻しが来るなら分割で頼む!!
一括払いはマジで厳しいから!!!頼む!!!
おっし、お祈りは済んだ。俺は特定の神だけでなく、全方位にお祈りしとくスタイルだ。これなら漏れはないだろう。きっと。
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さて、スローライフへの輝かしい第一歩を歩み出したわけだが、なんということでしょう。今、俺の目の前には「やりたかったことリスト」上位10に入るビッグイベントが転がっているのだ。
なんという僥倖、なんという天恵!
実は俺、修行時代は『倒した魔物を解体して素材にして、それを集めて何か作る』っていうハクスラ的なことに死ぬほどハマってたんだ。
結構なモチベーションになってたのよ。倒す、集める、作るの無限ループ。
インベントリが使えたから、モノは四次元ポケットばりに収納し放題だったし。つーか、これスキルなのか、そうじゃないのかよくわからないやつなんだよな…。
だが、女性陣がパーティーに加入してからは、全く使うことはなくなった。
だって……至れり尽くせりで、使う必要がなかったの……。
ごめんねぇ、インベントリくん……。
あんなに一緒だったのに……。
でも、今日からはまた一緒だょ……。
インベントリくんへの謝罪は済んだ。
あと、一番の魔物素材の収集が出来なくなった要因は、聖女のセレスティアがいたからだ。至れり尽くせりでも、回収くらい出来るっしょ~って思うじゃん?
『不浄な魔物の素材なんて!汚い!ポイしてきなさい!ポイです!』
……って、絶対怒られる未来が見えたからな。
もちろん、本人はこんなこと言わないよ。
男児がポケットにダンゴムシいっぱいにつめて、服を洗濯に出して、それに初めて気づいた母親の顔みたいな表情はすると思う。
実際、神殿の連中は魔物に対してマジで容赦ない。
素材が取れるってのに、何も回収せずにそのまま焼却処分だぜ。
もったいねぇぇぇーーっ!!
もったいないオバケが3体くらい出るぞ!!!
で、俺も考えたわけだ。
隠れて素材を取ろうとして、もし見つかったらどうなる?
大口のスポンサーの不興を買う……。
快適な生活、最高級の飯、ふかふかの寝床…。
それ全部と魔物素材回収という趣味を天秤にかける価値があるのか?
ヒモ思考で冷静に計算した結果。
「ないな」ってなって、魔物素材の収集は泣く泣く諦めた。
今回の大量発生のラインナップは、サイクロプス、ハーピー、ブロウインプ、岩殻の抗魔獣だったが、岩殻の抗魔獣は完全に灰にしてしまったのでnot素材だ。
岩殻の抗魔獣は残念だったが、他は選び放題である。
サイクロプスは骨が建材で人気。
腱、皮、牙は武器防具に。
心臓・肝臓・胆嚢は薬の材料になる。なお肉はクソ不味い。
ハーピーは声帯が魔道具需要。
骨は軽くて専用用途あり。
羽は魔除け等で大人気。なお肉はクソ不味い。
ブロウインプは角が薬や触媒に。
心臓も薬の材料になる。
骨はよく燃える。なお肉はクソ不味い。
冒険者っつったら、駆け出しの頃はみんな素材回収や解体をやるもんだろ?ここにいる地場クランの連中も、きっとその技術があるはず。全員でやれば心強い。
それに!!!
今までひとりで黙々としかやったことなかった、
回収・解体・加工を、
みんなでワイワイできる!!!
なにそれ超楽しそう!!!!
「イガラシさまっ!」
リオナがビシッと姿勢を正して言った。
「急ぎギルドへ勝利のご報告へ向かいます!そして、様々な諸手続きについても進めておきますので!!それから、お食事とお宿につきましては、どうか全てお任せくださいませ!!」
お、やる気満々だな。
俺は『訳ありの凄腕流浪人』モード継続中なので、もうこのままのキャラでいくぜ!!
「……そうか。リオナ殿は街へ行くのだな。いってらっしゃい。……では、残りの者たちは少しばかり『手伝って』もらおうか。」
「えっ……(´・ω・`)」
リオナが、あからさまに「わたくしも……イガラシさまと一緒にいたかったのに……」という顔をした。
だが、さっき自分で「急ぎギルドへ!」 と高らかに宣言してしまった手前、今さら撤回などできるはずもない。
吐いた言葉は違えない、そんな気質の彼女は、未練たっぷりの視線だけ残して、泣く泣く一人で街へ駆け出していった。
まさに、責任感で自分の首を絞めるタイプの女子である。
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