HIMO(2)♯
「「「手伝うって…何をですか?」」」
残された冒険者たちが首を傾げている。
「……これほど価値ある素材の山を放置するのは、どう考えても、もったいないだろう。放置すれば土壌を汚し、病の元にもなる。それに、資源となるのは貴重なのだ。私が討伐した分も含めて、君たちで回収してほしい。加工して売れば、今回の治療費くらい……いや、十分すぎるほど賄えるはずだ。」
冒険者たちが顔を見合わせる。
俺はさらに畳み掛けた。
「冒険者は戦うだけじゃないだろう?どんな強い高ランクの冒険者であっても、最初はFランクから始まる。素材回収、加工、木こり……己の下積みを思い出せ!そして、まだ経験の浅いヒヨッコ共に、先輩の凄さを示してやれ!」
「おおおっ!!確かに!!」
「イガラシさまの言う通りだ!俺たちの原点を見せてやるぜ!!」
よし、乗ってきた!
エルド庇護院出身のメル・リナは下積み無しにBランクスタートだったらしい。「私たち、解体したことないですぅ……」とオロオロしていた。エリートちゃんめ!
ここからは全員で大解体祭りだ。
全冒険者が一丸となっているため、すこぶる手際が良い。
「……ハーピーの羽毟りは、女性陣に任せよう。男共は絶対に手を出すな。」
「えーっ!なんでですか!!俺らもやりますよ!!!」
俺が指示を飛ばすと、男性陣から不満が出た。
「……男がやると、どうしても『おっぱい』に夢中になるからな。」
「「「なっ……!?」」」
図星を突かれたのか、男たちがギクッとする。
俺はマジトーンで語る…。
お前ら、マジで取り扱いには気を付けるんだぞ。
「冗談で言っているのではない。ハーピーの乳房は、ただの脂肪ではない……魔力器官だ。死骸の魔力器官を不用意にまさぐると、内部で魔法反応が起き、爆発することがある。……その昔、仕留めたハーピーの魔力器官に自分のナニを挟み、試みた愚かな冒険者が、ナニごと魔力器官が爆発四散したという話を知らないのか?」
俺の名誉のためにいうが、俺の実体験ではない。
「「「ヒィィィィィィッッ!!!!?」」」
男性冒険者たちが一斉に股間を押さえ、震え上がった。
割とマジな注意喚起である。
さらにハーピーの羽は繊細なので、粗雑に扱うと価値が落ちる。
非力な女性のほうが向いているし(鬼人族は除く)、何よりキラキラして綺麗なので女性陣も「わぁ、綺麗~!」と喜んでやりたがるのだ。適材適所である。
「……次に、サイクロプスやブロウインプの臓器を乾燥させるための小屋が必要だな。これほどの量、街へ持って行っても保管や加工の場所がないだろう。」
「小屋って……木材はどうするんですか?」
俺は戦闘中、森の木々ごと斬撃で切り飛ばしていた方向をアゴでしゃくった。
「……材料なら、そこにあるだろう?」
俺が暴れたせいで、森の一部が見事に伐採されていた。
開拓において一番労力を使う、切り倒しと切り株の除去のうち、ひとつが終わらせた状態になっていた。
冒険者たちが「マジかよ」とドン引きしている。
俺は転がっている丸太に近づくと、建築スキルMAXの力と絶技を込めた『手刀』を振るった。
シュパパパパパンッ!!
ポン!ポン!ポン!ポン!
”我が手刀に斬れぬもの……なしっ!”
カンナをかけたように美しい木材や角材が、一瞬で量産され、建築の妙技によって、あっという間にログハウス風の加工小屋が組み上がっていった。
……なんというか、気のせいだとは思うが、建築している最中、自分の身体の輪郭がやけに角ばってたような気がした。
あの四角い世界の住人みたいに。いや、気のせいだ。たぶん。
「「「すげぇぇぇぇええっ!!!?」」」
オーディエンスがドッと沸く。職人技へのリスペクトだ。
いよいよ本格的な解体が始まる前。
俺は気づけば、目の前の魔物の亡骸にそっと両手を合わせ、
小さく「いただきます」と呟いていた。
日本人としての魂が、どうしても染み付いている。
それを見た冒険者の一人が、首をかしげて尋ねてきた。
「イガラシさま……? 魔物に祈りを捧げておられるのですか?」
……やばい。完全に変な目で見られてる。
魔物信仰とか、妙な誤解をされるのは本気で困る!!!
神殿から怖いお兄さん(ガチ)が来るっ!!
俺は即座に言い訳をひねり出し、最高に渋い流浪人みたいな声色で語った。
「……我々は魔物ではない。人間だ。命を頂く以上、せめて祈りを捧げる。魔物のように、ただ貪り食うだけの獣の境地にまで、我々がわざわざ落ちる必要はないだろう?」
「「「おおおおおっ……!!!」」」
オーディエンスがまた沸いた。なんか深いこと言ってる風に見えたらしい。
チョロい。
「……よし、取りまくるぞ。これを全て売り捌けば、我々はちょっとした大金持ちだ。……フッ、ワハハハハ!!」
俺のテンションが上がりすぎて、キャラが若干ブレかけたが、まあご愛嬌だ。
みんなでワイワイと素材を剥ぎ取り、順調に作業は進んだ。
……が。
あまりにも死骸の数が多すぎたため、立派な加工小屋を作っても手が足りず、物理的に置き場がパンクしてしまった。
「イガラシさま!もう乗り切りません!キャパオーバーです!」
「……仕方ない。」
俺は前に出て、みんなで集めた山積みになった魔物の死骸の山に向かって手をかざした。
インベントリくん……お願い…出番だよ……。
ズババババババーーーーッ!!!
目にも留まらぬ速さで、何十トンという素材の山が虚空へと吸い込まれ、完全に消失した。
「「「なっ……!?消えたぁ!?」」」
驚愕するオーディエンスたちに向かって、俺は振り返り、フッと口角を上げた。
「……驚くことはない。これはただの収納呪術さ。」
「「「呪術ってすげーっ!!!」」」
呪術という名の便利ワード。
使い手が秘密主義すぎてそもそもどんなものがあるのかも知れ渡っていない。
これから面倒なやつは、全部擦り付けていくからな!
交代で見張りをここに残すことにしたので、最低限の生活できる小屋を作り、提供した。盗むやつはいないが、魔物が悪さをする可能性があるらしい。
”我が手刀に斬れぬもの…なしっ!”
癖になってんだ…。人が喜ぶことすんの。
冒険者たちのキラキラした尊敬の眼差しを一身に浴びながら、俺は久々の素材回収祭りに、人とのコミュニケーション欲を満たし、無上の喜びを噛み締めるのだった。
神殿から怖いお兄さん(ガチ)が来るっ!!
趣味を諦めたきっかけのひとつ。神殿の怖いお兄さんの話はそのうち……。




