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大勝利!希望の未来へレディ・ゴー!!

 圧倒的なAクラス冒険者クランの力と、地場クランの完璧な連携。


 絶望的だったスタンピードの群れは、いまや目に見えてその数を減らしていた。


 戦場を支配していた死の重圧は霧散し、代わりに「確実な勝利」の熱狂が辺り一帯を包み込んでいた。


「いける……ッ!」


『山犬』のリーダー、グレンは胸の内で歓喜の雄叫びを上げていた。


 事前の計算ではAクラス冒険者クランが8チームは必要だと思っていた。


 だが蓋を開けてみれば、特級認定されていないだけで実力は間違いなく特級のバケモノ、『白花の槍』という望外の幸運を引き当てたのだ。


「これもギルド長がゴーサインを出してくれたおかげだ。今回の一番の手柄は間違いなくあの人だな。……ははは、あんな依頼通したんだ、この戦いが終わったら次はギルド長の戦いだな。せめて報告書には”ギルド長の判断がなければ”トコヨは終わっていたとでも書いておこう。」


 勝利を確信した空気が伝染したのか、グレンの横で弓を構えていた山犬のメンバー、タカマが、ふぅと深く息を吐き出して相好を崩した。


「勝ったな、リーダー。……俺、今夜は生きて家に帰れる。」

「ああ。当たり前だろ。」


「帰ったら、愛する子供たちに今日の武勇伝を腹いっぱい聞かせてやるんだ。それから、妻のモモを思い切り抱きしめて、愛してるって伝える。……こういうイレギュラーな死地を経験して分かったよ。当たり前の日常って、本当にかけがえのないものなんだなって。明日生きてるかも分からないこんな世界だからこそ、家族を思い切り愛そうってな。」


「タカマ……お前……。」


「そうだ、帰ったら長女に赤い靴を買ってやる約束だったんだ。ずっと欲しがっててな。長男には、山で使える俺のお下がりのナイフをやる。あいつ、『大きくなったらおとうちゃんと一緒に山犬で仕事するんだ』なんて可愛いこと言い出しやがって。いつまで言ってくれるか分からねぇが、そう言ってくれるうちは、俺はいくらでも頑張れるさ。……次男には俺とお揃いの帽子を買ってやろう。いつも俺の帽子を奪って被りたがるんだ。そろそろ自分専用を持たせてやらないとな!」


「ははっ、最高の親父じゃないか。絶対全員生きて帰るぞ!」

「おう!あと少しだ、気合い入れていくぜ!」


 タカマは懐に大切にしまっていた家族の名が刻まれた木札をそっと撫でると、弓を引き絞った。


 ---

 一方、前衛で壁を構築していた『ヴァルホルン』のリーダー、ギルバートもまた、血濡れた斧を肩に担ぎながら隣の同郷の戦友に笑いかけていた。


「おいドルン!この大仕事が終わったら、しばらく長期休暇を取って実家に帰ろうぜ!」


「実家に?珍しいな、お前がそんなこと言うなんて。」

「ああ!地元に戻って、あのAクラス冒険者クランと一緒に戦った俺たちの冒険譚を、村の連中に思い切り轟かせてやるんだ!それに……。」


 ギルバートは少しバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。


「ハーピーの混乱のせいで、お前に斬りかかっちまっただろ?気にしてないとは言ってくれたが、俺は何か返してやらんと気が済まない性分でな。そうだ、村に帰ったら、親父が隠し持ってたあの『秘蔵の百年酒』を開けてお前に奢ってやるよ!!」


「本当か!?そりゃあ楽しみだ!絶対に死ねねぇな!」


 ---

 少し離れた場所では、『白峰』のリーダーであるアルベルトが、胸元から銀色のロケットペンダントを取り出し、カチャリと開いて中を愛おしそうに見つめていた。


「……おい、ダン。」

「あ?なんだよアルベルト。敵はまだ残ってんだ、集中しろよ。」


 同じく前衛を張っていた『霧渡り』のリーダーであり、子供時代から山や森を駆け回ってきた幼馴染のダンが呆れたように振り返る。


 アルベルトはペンダントを握りしめ、どこか照れくさそうに笑った。


「実は俺さ……この戦い終わったら、結婚するんだ。」

「はぁ!?お前、いつの間にそんな相手見つけてたんだよ!」


「幼馴染の、マリーだよ。あいつ、俺が冒険者やるって時、ずっと泣きながら待ってるって言ってくれててさ。……俺、ダンにはずっと負けっぱなしの人生だったけど、幸せのゴールインだけは先に行かせてもらうぜ!!!」


「バカ野郎。そういう大事な話は、全部終わってから酒場でゆっくり聞かせろっての。……まあいい、無事に帰ったら詳しい話を聞いてやるよ!んで、朝までバカ騒ぎしようぜ。」


「ああ、約束だぞ。…お前も絶対に死ぬなよ!」


 ---

 それぞれの地場クランが未来への希望を口にする中、少し離れた場所で一時休息を取る『ガルハイム』の面々、鬼人族の集団の中にも、どこかホクホクとした安堵の空気が流れていた。


 激しい戦闘を終えたばかりだというのに、ビビは愛おしそうに自身の下腹部を撫でていた。


「実は直前にわかったんだけど……私、デキたみたい!だからこの戦いが終わったら、クランを抜けて国へ帰ります!」

「「「おぉ! よかったねぇ!!!」」」


 ババ、ギギ、ググの三人がパァッと顔を輝かせ、自分のことのように喜んだ。


 彼女たちにとって本国は完全実力主義の厳しい社会。


 弱い彼女たちは、そこで孕むことを諦め、種を探しに本名を伏せて国外へ出た身だ。


 だからこそ、こうして冒険者として異国で種を得て、無事に帰還できることは何よりの目的だった。


 ビビは隣で重武器を担ぐ女性、20代後半の落ち着いた美人にしか見えない彼女へ、深く頭を下げた。


「伝説の大ババ様と肩を並べて戦えたなんて、なんて幸運なんだろうと思いました!本当に、ありがとうございました!」

「なーに言ってんだい!こんな老いぼれをおだてても、なんも出ないよぉ!」


 若々しい美貌をくしゃっと歪ませて、源氏名ババ、御年179歳を数える最長老格の大ババ様が、老婆のような口調でカラカラと快活に笑う。


 鬼人族は死の直前まで若々しい容姿を保つため、人族から見れば彼女たちはただの「仲睦まじい20代の美人戦士の集まり」にしか見えない。


「それよりビビ、あんたの交代要員はどうするんだい?まだ産んだことないあの子かい?」

「うん。声かけるつもり。……でも、ひとつだけキツく言っておかないとね。」

「ああ、武器の事か。」


 ググが、先ほどサイクロプスを粉砕した血濡れの重武器を見つめて苦笑いする。


「やっぱりこれから国外に出るなら、『武器』はしっかり使えないとダメだって言わないとねぇ。私たちみたいに爪が弱いなら、なおさらよ。」


「あー、そうよねぇ。」

「あのサイクロプスの硬さじゃあ、なかなか爪じゃうまく戦えなかったものね。武器の訓練を積んでおいて、本当に良かったわ。」

「ええ。アレン様に良い防具を着せようと、軽い気持ちで武器を手放してしまったのは失敗だったわ。ヴァルホルンの皆さんに予備を借りられて助かったわ。種もくれないかしら。」


 自分たちのような「弱い鬼人族」の、異国での生存戦略。

 それを改めて噛み締めながら、ビビはふんわりと微笑んだ。


「絶対に無事に帰還して、元気な赤ん坊を産みます!」

「ああ!絶対に守り抜いて帰してやるよ!」


 ---


 そして、戦場の後方では、『白花の槍』のふたりの弟子たちもまた、それぞれに熱い思いを抱いていた。


『ストーンガード』と『ヴァルホルン』の男たちが汗と泥にまみれながら背中を預け合い、命がけで敵の猛攻を凌ぎ、そして時には庇い合う姿を特等席で見ていたメルは、荒い鼻息を漏らしながら、視界だけはしっかり確保できるよう指の隙間を開けた両手で顔を覆っていた。


(尊い……尊すぎます……ッ!空想の世界だけじゃなかった。リアルな戦場での、完璧な受けと攻めの関係性……ッ!世界はこんなにも美しいのですね!エルダーに師事して、こんな貴重な体験をさせてもらえるなんて。……決めました。私、この戦いが終わったら、一人前になったと胸を張ってエルダーに宣言します!しっかりと私の成長を最後まで見届けてもらって、立派に送り出してもらおう!)


 決死の覚悟(別の意味で)をキメたメルは、杖を握る手にぐっと力を込めた。


 一方のリナもまた、戦場を飛び交う魔物の残党を探知しながら、自身の将来に思いを馳せていた。


(この戦いが終われば、私もきっと一人前と認められるだろう。将来はエルダーのようなエルダーになるんだ。……でも、世の中にはまだ分からないことが多すぎる。)


 リナの視線の先には、満身創痍のアレンを甲斐甲斐しく交代で献身的に気遣うガルハイムの鬼人族たちの姿があった。


(なんで、あんな男の人にあの4人は、あそこまで夢中になれるんだろう。盗み聞きするつもりなんてなかったのに……耳がいいせいで、どうしても聞こえてしまった。あの会話は、どう聞いても抱かれたいって意味だった。命を懸けて支えて、甲斐甲斐しく世話を焼いて、せがんでいる。私には、どうしてそうなるのか全然わからない。

 だって、あの行為って、苦しそうで、痛そうに聞こえるものだ。娼館の近くを通ったときに聞こえた声を思い出す。息が詰まりそうで、苦しげで……。知識としては知っているけど、実際に耳にすると、余計に理解できなくなる。そんな行為を好き好んでやるの?あれが“大人の愛”ってやつなの?好きになると、ああいうことを望むようになるの?


 ……まあ、私にとっては論外だけど。


 エルダーの悪口を言ったあんな男なんて、好きになる理由なんてひとつもない。


 だからこそ、余計にわからない。


 どうしてあの4人は、あんなふうに……。

 そうだ。エルダーなら知ってるはず。この戦いが終わって、落ち着いたら、あの行為の意味を、ちゃんと教えてもらおう。うん、そうしよう!)



 凄惨な戦場に似合わぬ、どこか明るく、希望に満ちた空気。


 誰もが、戦いの終わった後の「輝かしい未来」を思い描いていた。


 全員が生き残り、愛する者の元へ帰り、あるいは己の夢を叶える。


 そんな大団円が、もうすぐそこまで来ていると疑う者はいなかった。


 勝利の歓喜が最高潮に達した、まさにその瞬間だった。


 それは現れた。



次回

 第14話 全滅



 お楽しみに!!!!



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