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斬らぬが最強!九十七歳の心眼一刀流師範、孫娘と干し芋食べてたら伝説になってました  作者: なるっち


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8話 対象外

朝の道場は、いつも通り静かだった。


板張りの床。開け放した戸口。

縁側で座ったまま、目を閉じている老人。


「前から思ってたんだけどさ」

「うむ」

「ここ道場なのに、誰も門下生いないよね」

「……うむ」


柚葉がため息をついた、そのとき――

戸口に見慣れない人影が三つ並んでいた。


「……で?」


柚葉が、腕を組んで言った。


「今日は何?道場破り?」

「それとも合同見学?」


返事がない。

全員が様子を窺っていた。


一人目は、冒険者ギルドの職員。

書類鞄を抱え、視線だけが落ち着きなく泳いでいる。


二人目は、教会の司祭。

胸元の聖印を、無意識に握りしめている。


三人目は、軍の士官。

背筋は伸びているが、足の向きがわずかに後ろだった。


「用件を言ってくれないと困るんだけど」


柚葉が言う。


「おじいちゃん、今ちょっと眠い時間だから」


玄斎は、ぴくりとも動かない。



最初に口を開いたのは、ギルドの職員だった。


「……心眼一刀流道場、神無玄斎殿ですね」

「そうだけど」

「こちら、王都ギルド本部からの正式依頼で――」


鞄から、測定具を取り出す。


水晶板。

魔力反応、戦闘適性、脅威指数を測るためのものだ。


「念のため、確認を……」


職員は、水晶板を掲げた。

一瞬、板が淡く光り――

次の瞬間、何も映らなくなった。


「……?」


叩いたり、角度を変えて、別の板を出す。

結果は同じだった。


「数値が……出ません」

「故障?」


柚葉が首を傾げる。


「いえ。来る前に動作確認は済ませました」

「じゃあ?」


職員のつばを飲む。


「測定不能ではなく……」

「測定対象外……?」


玄斎は、欠伸をしただけだった。


「……失礼しました」


職員は深く頭を下げ、後ずさるように下がった。



次に進み出たのは、教会の司祭だった。


「神の御名において――」


祝詞を唱えかけ、その途中で声が止まる。

聖印が、かすかに震えていた。


「……」


司祭は、目を閉じる。

祈り、確かめ、問いかける。

だが、何も返ってこない。


「……この方には、加護が……ありません」


柚葉が目を瞬く。


「え、それ大丈夫なやつ?」


司祭は、首を横に振った。


「違います」

「加護がないのではなく……」

「必要とされていない」


司祭は、玄斎に向かって、静かに一礼した。


「……失礼しました」


 ◆


最後に残ったのは、軍の将校だった。


「王都軍。危険人物の照会と、協力要請に来た」


将校が紙を広げる。徴用状か、拘束命令か。

読み上げる声は低く、よく通る。


名を呼んだ瞬間、将校の部下が一斉に息を詰まらせた。

威圧でも恐怖でもない。ただ踏み出せない。

将校は状況を秒で理解し、紙を畳んだ。


「……本件、撤回する」

「え?」


将校は玄斎に一礼し、踵を返した。

士官は、柚葉を見る。


「……道場を、騒がせてすまなかった」


それだけ言って、背を向けた。


 ◆


三者が去ったあと。


道場には、いつもの静けさが戻っていた。


「……なに、あれ」


柚葉が、ぽつりと呟く。


「変なのばっかり来るね、最近」

「春、じゃな」

「理由になってない!」


玄斎は、手をプルプルさせながら、あたりを探し始めた。


「今日の分の干し芋、さっきので終わりだよ」

「……」

「もう、わたしのぶん、あげるよ!」

「うむ」


道場は、今日も平和だった。


ただ――

その外で、報告書に「不明」と書かれた紙が、静かに積み上がっていくだけだった。

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