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斬らぬが最強!九十七歳の心眼一刀流師範、孫娘と干し芋食べてたら伝説になってました  作者: なるっち


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8話 対象外

朝の道場は、いつも通り静かだった。


板張りの床。開け放した戸口。

縁側で座ったまま、目を閉じている老人。


「前から思ってたんだけどさ」

「うむ」

「ここ道場なのに、誰も門下生いないよね」

「……うむ」


柚葉がため息をついた、そのとき――

戸口に見慣れない人影が三つ並んでいた。


「……で?」


柚葉が、腕を組んで言った。


「今日は何?道場破り?」

「それとも合同見学?」


返事がない。

全員が様子を窺っていた。


一人目は、冒険者ギルドの職員。

書類鞄を抱え、視線だけが落ち着きなく泳いでいる。


二人目は、教会の司祭。

胸元の聖印を、無意識に握りしめている。


三人目は、軍の士官。

背筋は伸びているが、足の向きがわずかに後ろだった。


「用件を言ってくれないと困るんだけど」


柚葉が言う。


「おじいちゃん、今ちょっと眠い時間だから」


玄斎は、ぴくりとも動かない。


◇


最初に口を開いたのは、ギルドの職員だった。


「……心眼一刀流道場、神無玄斎殿ですね」

「そうだけど」

「こちら、王都ギルド本部からの正式依頼で――」


鞄から、測定具を取り出す。


水晶板。

魔力反応、戦闘適性、脅威指数を測るためのものだ。


「念のため、確認を……」


職員は、水晶板を掲げた。

一瞬、板が淡く光り――

次の瞬間、何も映らなくなった。


「……?」


叩いたり、角度を変えて、別の板を出す。

結果は同じだった。


「数値が……出ません」

「故障?」


柚葉が首を傾げる。


「いえ。来る前に動作確認は済ませました」

「じゃあ?」


職員のつばを飲む。


「測定不能ではなく……」

「測定対象外……?」


玄斎は、欠伸をしただけだった。


「……失礼しました」


職員は深く頭を下げ、後ずさるように下がった。


◇


次に進み出たのは、教会の司祭だった。


「神の御名において――」


祝詞を唱えかけ、その途中で声が止まる。

聖印が、かすかに震えていた。


「……」


司祭は、目を閉じる。

祈り、確かめ、問いかける。

だが、何も返ってこない。


「……この方には、加護が……ありません」


柚葉が目を瞬く。


「え、それ大丈夫なやつ?」


司祭は、首を横に振った。


「違います」

「加護がないのではなく……」

「必要とされていない」


司祭は、玄斎に向かって、静かに一礼した。


「……失礼しました」


 ◆


最後に残ったのは、軍の将校だった。


「王都軍。危険人物の照会と、協力要請に来た」


将校が紙を広げる。徴用状か、拘束命令か。

読み上げる声は低く、よく通る。


名を呼んだ瞬間、将校の部下が一斉に息を詰まらせた。

威圧でも恐怖でもない。ただ踏み出せない。

将校は状況を秒で理解し、紙を畳んだ。


「……本件、撤回する」

「え?」


将校は玄斎に一礼し、踵を返した。

士官は、柚葉を見る。


「……道場を、騒がせてすまなかった」


それだけ言って、背を向けた。


 ◆


三者が去ったあと。


道場には、いつもの静けさが戻っていた。


「……なに、あれ」


柚葉が、ぽつりと呟く。


「変なのばっかり来るね、最近」

「春、じゃな」

「理由になってない!」


玄斎は、手をプルプルさせながら、あたりを探し始めた。


「今日の分の干し芋、さっきので終わりだよ」

「……」

「もう、わたしのぶん、あげるよ!」

「うむ」


道場は、今日も平和だった。


ただ――

その外で、報告書に「不明」と書かれた紙が、静かに積み上がっていくだけだった。

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