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斬らぬが最強!九十七歳の心眼一刀流師範、孫娘と干し芋食べてたら伝説になってました  作者: なるっち


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7話 八百屋のじいさん

「干し芋が、ない」


縁側に腰を下ろしたまま、玄斎がぽつりと呟いた。


「……は?」


洗濯物を抱えたまま、柚葉が固まる。


「昨日言ったよね。買い出し行くけど、なんかないって」

「うむ」

「そのうむは聞いてないやつ!」


柚葉は頭を抱えた。

この祖父は、剣の話は忘れないくせに、生活の話はだいたい忘れる。


「もういい。私一人で――」

「わしも行く」

「……え?」


思わず聞き返す。


「道場、留守にするけど?」

「干し芋がない」

「理由それだけ!? 干し芋なんて、贅沢品だよ」

「必要じゃ。甘味のないと、心が痩せる」

「心より先に財布が痩せるよ!」


柚葉は玄斎の背中を押して、無理やり立たせた。


「ほら、行くよ。八百屋で野菜も買って帰る!」

「干し芋は」

「最後に、あったらね!」

「うむ」


玄斎はそれ以上言わず、ふらりと歩き出した。

その一歩が、やけに久しぶりのものに見えた。


 ◆


八百屋の店先。

籠を持った柚葉が、大根を手に取って眉をひそめる。


「ねえ、おにいさん。これ、昨日より細くない?」

「細いって言うな。冬だぞ、冬」


八百屋の青年が、むっとする。

横で玄斎が、干し芋に手を伸ばす。


「確かに細いのう」

「そっちじゃない!」


柚葉はにんじんを持ち上げる。


「これも曲がってる」

「曲がってても味は同じだ」

「じゃあ同じ値段なのが変でしょ」

「……騒がしいな」


ヨボヨボの老人が店の奥から顔を出した。

背は低く、腰も曲がり、今にも咳き込みそうな顔をしている。


「……玄斎?」


そのヨボヨボの八百屋のじいさんが、目を見開いた。


「おお、久しぶりだな」


柚葉は二人を見比べる。


「……知り合い?」


玄斎は干し芋を棚に戻す。


「生きておったか――西の勇者」


「……は?」


柚葉が、完全に止まる。


「昔な。魔王を倒して怒ってたのがこやつ」


「そのときな……」


八百屋のじいさんは、遠い目をした。


「玄斎、干し芋食って魔王を見下ろしてた。 それを見て負けたって思ったよ。」


「どういう状況!?」


玄斎は平然としている。


「腹は減る」


柚葉はうんざりして、芋を指さした。


「で、これ、いくら?」

「……あ?」


八百屋のじいさんは柚葉を見る。

値札を見て、眉をひそめて、遠慮なく値切る顔。


「量の割に高いよ。三割引き」

「無茶言うな」

「二割」

「……」


八百屋のじいさんは柚葉をじっと見つめ、小さく呟いた。


「……強い」

「うむ。勇者よりずっと強い」

「そっちじゃない!!」


柚葉のツッコミが、店先に響く。


「勝てるわけがない。わしが勇者であんたは災厄……その孫ならな」


低い声で、そう続けた。


「――は?」


柚葉が間の抜けた声を出す。


「え、ちょっと待って」

柚葉は指をさす。


「この人、毎朝ここで大根並べてるよ?」

「並べとるな」

「昨日、魚屋と値段で喧嘩してたよ?」

「覚えとらん」


八百屋のじいさんは肩をすくめた。


「まあ、今は八百屋だ」

「納得できるかーーーっ!」


柚葉が叫ぶ。


八百屋のじいさんは、柚葉をしばらくじっと見る。

そして、ふっと笑った。


「……もったいないのう」

「なにが?」

「これほどの執念」

「それ、褒めてる?」


柚葉は即座に返す。


「はは」


八百屋のじいさんは、干し芋を包みながら言った。


「……今日は負けだ。少し安くしとく」

「ありがと」


柚葉は当然の顔で頷く。

玄斎は欠伸をする。


「帰るか」

「うん。晩ごはん作らないと」


店を出るとき、柚葉が振り返る。


「……ほんとに、勇者?」


玄斎は、それ以上何も言わなかった。


八百屋のじいさん――西の勇者は、ふと、昔の光景を思い出していた。

魔王が出現した日。

どこからともなく、玄斎がふらりと現れたことを。


「……何ごともなければいいがな」


そうつぶやいて、二人の背中を見送った。

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