追放された男9/10
人混みが二手に分かれていく。そこにニック・デイリーが立っていた。ネザライト装備で周囲を威圧しつつ、僕へと向かって来る。
「ダイヤモンド装備か。まぁ、まあまあだな」
王者の風格が備わってて草
「あ、はい。ありがとうございます」
「では、行こうか」
ニック・デイリーが進むところ道は開かれていく。海岸に立つとニック・デイリーはインベントリからボートを取り出す。
「俺たちはこれで行く。強者は人の後ろを歩かないのだ」
なり切ってて草
波に入ってボートを押さえる。
「主様、どうぞ」
ニック・デイリーがボートに乗った。
「では、よろしいですか」
「うむ」
僕はボートを押しつつ飛び乗る。櫂を握って海原に漕ぎ出した。ニック・デイリーは腕を組んで目をつぶっている。
まるでどこぞの剣豪で草
海の道を進む幾つもの行列に、海上に浮かぶ多くのボート。水の四角柱は一辺が五百メートルを優に超えている。見上げると押しつぶされそうで、その頂点は空にかすんでどこまであるのか全く分からない。やがて僕らは蓮の葉建築の、葉の影に入る。
葉を支える茎の部分、円柱形の塔は何千年も生きた大木のようであった。日が沈もうとしていることもあって、その影は東に大きく傾き、海岸まで到達しようとしている。
塔の袂はというと多くの人で溢れていた。海面に接するところにはぐるりと円を描いて、広範囲に石板タイルの床がクラフトされている。海を行く道は全てここに繋がっていた。
その石板タイルの床にボートを接岸させる。他のボートも途切れなくやってくる。上陸するのに混雑しているところもあったけど、僕らにはブルーノ・マルチャーノのネザライト装備がある。一目置かれてるのもあって、後ろから追突されることなく悠々と上陸した。
凄い人ゴミ。人酔いしそうだ。
特に人が集まる箇所は上から梯子が降ろされている。それは一つや二つではない。まるでジャングルにある蔓のようだ。あっちこっちにぶら下げられていて、多くの人がそこに群がっていた。皆、ビュンとその梯子に乗って蓮の葉建築の天板部分に送られている。一番近い梯子に向かった。
「おい、どこにいく」
ニック・デイリーに呼び止められた。振り向くとニック・デイリーは親指で背後の塔を指さている。
「俺たちが行くのはそっちじゃない」
そう言うとニック・デイリーは塔へと向かう。僕は慌ててそのあとを追った。ニック・デイリーは堂々たるものである。その姿は歴戦の勇者かと思えるほどで、塔に繋がる長い行列に並んだとしても前の人が先を譲る。
めっちゃ楽ちんだ。ニック・デイリーのツレともあって僕も、お先にどうぞってされた。そうやって何もせず、塔のドアを抜け、中に入り、やがて列の先頭にまで来る。
待ち受けていたのは机とペンと紙、そして、役人風の男二人だった。なるほど、参加の受付する行列だったのね。まずはニック・デイリーからだ。
「名前はニック・デイリー。ニック・デイリーだ」
男たちの一人がその名を紙に書き留める。もう一人の男が番号札を渡す。受け取ったニック・デイリーは列から外れた。次、俺の番。
かと思いきや、ニック・デイリーは僕の腕を取って列から外す。僕の頭は?、?ってなった。
ぐいぐい引っ張られた挙句、塔から出る。あんな長い行列、せっかく並んだのにこれはどういうことですか? 僕は出場しなくてもいいってことですか。俺とお前でトーナメントの台風の目となるとか言ってたじゃぁあーりませんか。
ニック・デイリーはそっと僕の手をとる。手の平におかれたのは番号札。308番とある。また、僕の頭は?、?ってなった。
「俺とお前でトーナメントを揺るがす。そう、俺は言ったよな」
揺るがす、じゃなくて、台風の目な。
「あ、はい」
「俺の名前でお前が戦う。俺たちは二人で一人。だよな」
そ、そういうことか。ってならんわ! 弟子の活躍は師匠の手柄、の斜め上行っている。
手柄横取りどころか腐れ外道で草
こっちはおめぇなんてお仕置きどころか歯牙にもかけてなかったんだぞ。とんでもねぇ底抜けのアホだ。自ら墓穴を掘るなんて。
僕は大会をぶっ潰す。大会をぶっ潰したのはニック・デイリー。僕にとっては好都合。実際やったのはあんたじゃなくってもその悪名は全世界に響き渡る。
ざまぁぁぁぁぁぁwwww
自分からドツボにはまっていくスタイルで草
「分かりました。僕ら二人で一人ですもんね。主様の名を汚さないよう、僕は一生懸命全力でがんばります!」
拳を握って見せる。ニック・デイリーは、うんと頷くと行ってしまった。めっちゃそっけない。フルカウンター・ブルーノのネザライト装備一つも置いていかず、かといってバーサーカー・ジョーの装備も渡さない。
まぁ、分かってたことだけどね。
「308番! 308番の方、おられますか」
塔の方から係員が叫んでる。なんで?
はいっと手を上げて答えると係員は人込みを縫って僕の方へ飛んで来た。
「308番のニック・デイリーさんですね」
「はい」
「第五試合に欠員が出ました。代わりに今、出れる人を探してます」
「僕に行けと?」
「あ、いや。こちらの都合ですし、今すぐが無理だったら結構です。色々当たったのですが、どれも断られまして。ダメなら正直に言ってください。他を当たります」
ウィンウィン、願ったり叶ったりだね。お仕置きすると決まれば長居は無用。
「誰もいなかったら?」
「第五試合は不戦勝となります」
「僕、行きましょうか?」
「そうですか! ありがたい。こんなこと言っちゃぁなんですが、この通り」
係員は苦々しい顔で塔へ続く行列に目配せした。
「出場者が多いでしょ。運営の効率を考えたら少しでも試合を進めたくて」
「大変ですね。ちょうど僕も待ってられなくて。早く出たくてうずうずしてました」
「そう言って頂いて助かります。では、特別にニック・デイリー様には係員が使う梯子でご案内させて頂きます。どうぞこちらに」
塔へ向かう係員の後ろを、僕はついて行った。




