追放された男10/10
係員に案内されて選手控えエリアに来ていた。破壊されて廃墟となったはずの要塞はすっかり整えられている。両サイドの壁は滑らかに大きく円を描き、天井は見上げるほど高かった。しきりのない空間が延々と続き、等間隔で松明やランタンの明かりが灯されている。
僕を連れてきた係員はキョロキョロ辺りを見回していた。ドウナツ状の空間はどこを見ても人、人、人で、たむろして談笑している者たちもいれば、一人座って休んでいる者もいる。
二人の係員が向こうから人の塊を縫って歩いて来る。それを見とがめた僕の係員は僕に礼をするとそこに飛んで行った。三人は立ち止って話を始める。僕を連れてきたのを報告しているのだろう。
大扉の方が騒がしくなってきた。闘技場への入場口だ。多くの人が吸い寄せられて行っている。やることがないので僕もそこに行ってみることにした。
黒山の人だかりに割って入って行く。人垣から顔を覗かせるとそこには、夜に溶け込もうとする円形闘技場、そして、ぐるり円を描く傾斜スタンドがあった。ざわざわと潮騒のように観客席から声が聞こえる。
照明塔の明かりが灯る。四つ設置されているのが次々に光を放った。スタンドは観戦者でいっぱいだった。何人かがエリトラで空からスタンドに滑り込むように降りて来ている。
真新しく華やかな闘技場。要塞だった面影は全くない。見上げると右手に空をも覆う巨大な水の壁があり、その向こうに黒曜石の巨大なキュウブブロックが浮いている。トラベルドアーズの棺だった建築物だ。
突然ドンと、夜色に包まれようとする空に炸裂音が響く。ぱあぁっと火の粉が闘技場の上で花開いた。スタンドからは大歓声。次々と花火が上がっていく。観客は大盛り上がりだ。
「すいません! 道を開けて下さい!」
後ろからいくつもの声がする。振り向くと三、四人の係員が人をかき分けている。割れた人垣のその先に、審判を挟んで二人の選手が立っていた。
へぇ、いきなり第一試合か。予選は開会セレモニーとかないんだな。二人と審判が僕らの前を通って行く。三人は闘技場に入った。
スタンドは予選には全く関心がないようだった。選手が現れて、選手名がアナウンスされても観客は見向きもしない。空を彩る花火にどよめきや歓声を上げている。後方では第二試合の二人と審判が待機位置に着く。
「308番! ニック・デイリー! ニック・デイリーはいるか!」
「あ、はい。僕です」
人をかき分け、呼ばれた方に走る。係員と僕の対戦相手がいた。眉間の皺に充血した目。今すぐ殴って来そうな雰囲気で僕を見てた。
うざいので目をそらしている。しばらくして係員が、こちらへと僕らに声をかけてきた。大扉の前に行くと第二試合の勝者と担架に乗せられた敗者が僕らの前を通っていく。第三試合はもう始まっているようだった。僕らは係員から第五試合の審判に引き渡される。
第四試合の二人がスタンバイしているその後ろで僕らは審判から、まいったは認める、他にルールはないとだけ言われた。前の二人が闘技場に走り出した。その二人の審判はというと遅れて闘技場に向かう。第三試合の勝者と敗者が戻って来る。
僕らは定位置に着いた。第四試合はあっという間だった。僕らは大扉をくぐり、試合が終わった二人とすれ違って闘技場中央に向かう。
「だぁぁぁい、五、しあぁーーーーーい!」
場内アナウンスが円形闘技場にこだまする。スタンドは花火に興じてて誰も闘技場に目を向けていない。
「対するはぁぁぁーーーーーーー! ニーーーック・デェイィィリーーーーーーー!」
場内アナウンスがその名を告げる。名を呼ばれたやつはというと左翼スタンドの中段にいた。観客はほぼダイヤモンド装備でスタンドはライトブルー一色。ダークブラウン色の者は数えるほどしかいない。やつは背もたれに深く身を預け、前席に足を放り投げて悠々と座ってる。
他の観客と同じように、酒を飲んで花火を満喫していた。アホだな。正面スタンドの中段に視線を移す。天蓋の設けられた席があった。そこには七人のネザライト装備の者がいて、そいつらの後ろにはアーマースタンドが立っている。
言うまでもなく、この大会の優勝賞品、トラベルドアーズのネザライト防具一式だ。あいつらは主催者兼シード選手ってところだろう。やばそうなやつらだ。多くの美女をはべらかせ、花火を見ながら酒盛りをしている。
審判が手を上げた。僕らは向き合う。対戦相手の目つきは怒気に満ちていた。剣を構え、姿勢を低くし、今にもとびかからんかっこで合図を待っている。審判は上げていた手をゆっくりと、僕ら二人の間合いを仕切るように降ろす。
「はじめっ!」
仕切られた手が振り上げられた。僕は、バンッと後ろに飛び退く。喜べ、ニック・デイリー。GCLの主役は間違いなく、あんただ。
お仕置きします!
ソウルサンドのブロック四つをT字に積む。そのTの上にウィザースケルトンの頭蓋骨を三つ並べた。次の瞬間、不気味な頭蓋骨のオブジェは白く輝く。それが点滅に替わったかと思うと爆発した。
爆風の中に現れたのはウィザー。人の体から頭蓋骨と脊髄、そして、肋骨を引っこ抜いたその骨に、さらに頭蓋骨を二つ乗せた姿をしてる。色は黒く、三つ首で手足はなく、その移動方法は飛翔。
スタンドは水を打ったようだった。伝説の再現を見ているようで、観客は夢か現かウィザーが円形闘技場の上空に飛び立って行くのを茫然と見送っていた。
僕からの打ち上げ花火だ。皆、楽しんでくれ。ソウルサンドをまたT字に組む。ウィザースケルトンの頭蓋骨を三つ乗せて二体目も召喚。爆風と共に二体目も空に舞い上がる。さらにもう一体。まだまだ終わらない。次から次にウィザーを召喚する。
ウィザーの爆撃も始まる。三つの頭蓋骨をそれぞれ飛ばし、目標に着弾させるとそれは爆発した。失った頭蓋骨はまるで有ったかのようにすぐに元あった所に現れる。生きているものに憎悪を燃やし、生きている者がいる限りのべつ幕なし、永遠に空爆を行う。それが二十体。
華やかな祭典が一転、地獄絵図へと変わった。絶え間なく降り注ぐ頭蓋骨にあっちこっちで放たれる強烈な光と熱。聞こえてくるのは耳をつんざく爆音、そして、スタンドの崩れ行く音。照明塔の一本が爆撃を受けてスタンドに向けて倒れてくる。
観客は悲鳴を上げ、闘技場へとなだれ込んできた。砂煙の中、僕の前を多くの人が右に左に走っていく。
「おまえぇぇぇぇぇ! どういうことだ、こりゃぁぁぁぁ!」
ニック・デイリーだ。僕に向けて走って来たかと思うと胸倉を掴んだ。
「ざぁーーけんなよ! やったのはお前だからな! 俺は関係ないぞ! 責任取れよ、お前がなぁぁぁ!」
やったのは僕だけどニック・デイリーで草
すぐそこのスタンドにウィザーの頭蓋骨が着弾した。轟音と爆風が僕らを襲う。ニック・デイリーは咄嗟に頭をかばって背を丸めた。無傷だと分かると辺りを見回す。スタンドがガラガラと崩れ落ちていくのを目の当たりにした。
唖然と立っている。僕は正面スタンドの中段、そこにある天蓋へ目を向ける。ネザライト装備の七人がトラベルドアーズの防具を持ち出そうとしてた。
「お前、もしかして」
僕の視線の先を見てニック・デイリーの顔が青ざめた。ご明察。あんたの思ってる通りだよ。僕は風属性の魔力を纏う。二歩三歩と助走をつけて一気にジャンプする。後ろからニック・デイリーの悲鳴に似た叫び声が聞こえた。
天蓋の前に着地する。僕を見とがめた七人は何でこんなことになったのかすぐに察した。殺気立ち、怒号を上げて鬼の形相で僕に斬りかかってくる。
「秘伝・霊甲貫、風属性バージョン」
風となってワンパンで有無も言わさず、あっという間に七人をのした。トラベルドアーズの防具をインベントリに収納する。
周囲を見渡すと今まさにスタンドからエリトラで空に飛び立ったやつを見つけた。足元に転がっている一人からそのヘルメットを奪う。飛び立ったそいつにヘルメットを投げつけた。
見事に命中、そいつはひゅるひゅると闘技場に落ちていく。観客はというと闘技場の大扉に殺到していた。また照明塔に頭蓋骨爆弾が落ちる。それが僕の方に向けて倒れて来た。スタンドから跳んで、闘技場に舞い降りる。背後では轟音と砂煙。
絶え間ない爆撃で次々に崩れていくスタンド。それをしり目に、僕は倒れてる男からエリトラを奪った。助走をつけ、飛び立つ。
蠅か蚊のように飛び交うウィザー二十体の間をすり抜けていく。ウィザーらは滑空したり、ホバリングしたりして、闘技場どころか蓮の葉建築全体をせわしなく爆撃していた。
闘技場から出た人々は逃げ惑ってる。応戦しようとする者は誰もいない。全てのウィザーを倒さない限り、この状況は終わらない。
因みに水の四角柱の中にある巨大な黒曜石のキュウブブロックは無傷だ。水が爆発の力を吸い取り、その威力は地上の何百分の一に過ぎない。僕は水の四角柱に触れた。
「解除」
水の四角柱は形を失い、轟音を立てて崩れ落ちる。黒曜石のキュウブブロックもまた水流に揉まれて落下していった。海面はというと無限に落ちてくる水量に津波が引き起こされる。大木のような蓮の葉建築の根元を大波が襲った。
ざまぁぁぁぁぁぁwwww
戦闘狂らめ。英霊たちの眠りを妨げるようなことをした報い。身をもって、その重さを知れ。
お仕置き完了!
《 第一部 了 》




