追放された男6/10
「しかも、優勝賞品はトラベルドアーズの防具一式ときた」
「トラベルドアーズの防具一式?」
いや、マジか。もし本当にトラベルドアーズの防具一式だというなら、そんなことがあり得るのか?
「そうだ。行方が分からなかったトラベルドアーズの所持品。その中で最も価値があるとされる防具一式だ」
確かに水の四角柱の中に浮く巨大な黒曜石のキュウブブロックの中は空っぽだ。今はもう、トラベルドアーズの遺体と全ての所持品は失われている。それらが収められて間もなく、強奪されたからだ。
やったのはザミ・ダ卿とその仲間二人。ザミ・ダ卿が要塞に侵入し、ネザーのラスボス的な存在とされるウィザーを何十体も召喚した。
ウィザーは人の体から頭蓋骨と脊髄、そして、肋骨を引っこ抜いたその骨に、さらに頭蓋骨を二つ足した姿をしている。三つ首で手足はなく、その移動方法は飛翔だ。自由に空を駆け、滑空し、ホバリングをする。
攻撃はその頭部から発せられる。自らの三つの頭蓋骨をそれぞれ飛ばし、目標に着弾させるとそれは爆発する。失った頭蓋骨はまるで有ったかのようにすぐに元あった所に現れる。生きているものに憎悪を燃やし、生きている者がいる限りのべつ幕なしに己の頭を飛ばして爆撃を行う。
ザミ・ダ卿は何十体ものウィザーを召喚させて要塞を混乱させる一方で、仲間の一人が黒曜石のキュウブブロックに取り付く。けど、その一人も陽動だ。王国軍と熾烈な戦闘を行ってる間、もう一人がひそかにキュウブブロックに張り付き、掘削、潜入。トラベルドアーズの遺体と生前の所持品全てを奪取した。
ザミ・ダ卿はトラベルドアーズをアニキと呼んで慕ってた。彼は狂信者たちとは何の関係もない。トラベルドアーズの安らかな眠りを望んでた。ただ、それだけだったんだ。
随分と昔のことになる。あの男ならトラベルドアーズの遺体と所持品をどこか人の目の届かない所に隠して、誰の手にも触れさせないはずだ。
それが、何で?
「とうの昔に失われ、それから全く市場に姿を見せなかった逸品。それがトラベルドアーズの所持した防具一式ときた。猛者たちはおろか、世界が黙ってはいまい」
いずれにしても、これはただ事ではない。
「分かるか? この意味が」
え? 何の意味だっけ。
「お前なぁ、ホント、アホだなぁ。世界がこの戦いを注目してるって俺は言ってるんだ」
「あ、はい」
だろうな。トラベルドアーズの防具が世に出たんだ。王国は今頃きっと大混乱、いや、お祭り騒ぎだ。誰が勝つか賭博の対象にもなってると思う。トラベルドアーズの安らかな眠りを望むザミ・ダ卿のためにも、こんなアホみたいな大会は今後一切出来ないようぶっ潰す。
「俺が言いたいことは、たとえ優勝は出来なかったとしてもだ、ここで勝ち上がればどうなるか」
ニック・デイリーは目をキラキラさせて握りこぶしを握る。
「俺の名は世界にとどろく。俺を馬鹿にした者、俺を追放した者。みーんな、ざまぁぁぁだ。取り返しのつかないことをしてしまったって、俺に泣いて詫びるぜ」
ついほう? あはは。やっぱな。追放の原因は、手柄横取りってところか。
大体想像ついてて草
「なんだ、その顔は。ああ、そうだよ。俺は追放されたよ。けどなぁ、それはあいつらの妬みだ。このとおり俺は強い」
この通りってどの通りだよ。
ビックマウスというか、もはや違う世界線で生きてて草
ニック・デイリーは遠い目をした。思い出をたぐるように言葉を口にする。
「俺たちは同じ学区で育ち、古代都市を見つけるのが夢だった。学校を卒業するとパーティーを組んで世界を駆け巡ったよ。皆いいやつだった。俺をアニキ、お兄ちゃんと慕ってくれた。だが、旅する中で、皆の心に変化が起こった。そりゃぁしょうがない。皆、大人にもなっていくし、旅じたい過酷だ。強いモンスターも現れる。古代都市を見つけるなんてそう簡単なことではない」
突然声が震えた。言葉に激情を滲ませる。
「そんなのはじめっから承知してたはず! こともあろうか、皆が口をそろえて俺にこう言ったんだ! 皆の雰囲気が荒れてきたのは俺のせいだって! 俺に助けられてるともつゆ知らず、大したもんだ!」
おまえがな。
「俺たちはこの大会でいいところまで行く。最低でも決勝トーナメントへの進出だ。当然、俺の名は全世界にとどろく。やつらが歯ぎしりして悔やむ姿が目に浮かぶわ!」
百パーないわぁー。むしろ、あんたが歯ぎしりして悔やむ未来しか見えてこないんですけど。
「はぁぁぁ? なんだ、その顔は! 師匠の俺が追放されて辱めを受けたって話をしてるんだ! お前は腹ただしくないのか!」
「あ、そうですね、って、えっ? 今、師匠っていいました?」
「お前なぁ、今更かよ。俺のこと、主様って言ってたの、お前の方だぞ」
いやいやいや、呼ぼうにも開拓主様では変だから、開拓を取って主様って言ってただけで。
「だが。まぁ、気持ちは分からんでもない。お前は開拓勢だしな。では、改めて宣言するとしよう。俺が師匠で、お前が弟子な」
「ちょ、ちょっと待ってください」
あんたが開拓主じゃなくても雇い主には変わりないと思ったから、開拓を取ってただ単に主様って呼んでたわけで。
「戸惑ってる場合じゃないぞ、弟子よ。師匠の屈辱は弟子の屈辱でもある。GCLに出るぞ。俺を追放したやつらに俺とお前でざまぁしようじゃないか」
えええ。出るの? やっぱしぃぃぃ。全然気乗りしねぇぇぇ。それって結局、弟子の活躍は師匠の手柄ってするわけでしょ。
やり口が大体想像できてしまってて草
それにそのざまぁって、どうよ。どう見てもあんたの昔の仲間、むしろあんたの被害者なんですが。
「明日の夕方までに装備を整えろ」
ニック・デイリーは石のツルハシと食料をインベントリから取り出す。足元に記号化してぷかぷか浮いていた。
え? これってまさか! 俺に一から装備をクラフトしろっていうこと?
そりゃぁないよぉー。あんた、ネザライトのやつ、着てるじゃん。バーサーカー・ジョーのやつはどうしたん? 余ってるんでしょ。それをくれればいいだけじゃん。っていうか、どちらも僕が手に入れたもんなんですけど。
「集合は明日のこの時間。場所はここな。じゃっ」
右手をぱっと上げたかと思うと機嫌よく僕を置いて行ってしまった。
噓でしょ。
ざまぁも全くの人任せで草




