追放された男5/10
まさに剣が振り下ろされるその瞬間、僕はブルーノ・マルチャーノの懐に入り、掌手を放つ。触れるか触れない所でバッと手を止めた。
「秘伝・霊甲貫」
手の平から魔力の塊を放出する。ブルーノ・マルチャーノは棒立ちになったかと思うと泡を吹いて白目をむく。ぐらぐらと揺れて、大の字に倒れていった。
防具越しに打撃を送り込んでやった。『棘の鎧Ⅲ』も直接ダメージを与えなければなんてことはない。
さて、ニック・デイリーだ。弓の腕がうま下手なのが幸いした。相手がわざと的になってあげていたんだ。上手ならすでに死んでいる。
本日二度目の治癒魔法だ。ニック・デイリーはまた、ゲホゲホ吐いて起き上がる。横にブルーノ・マルチャーノが倒れてるのに気付いた。
「倒したのか?」
倒したのか、じゃなくて、“俺が”倒したのか、でしょ。アホに付き合ってらんねぇわ。お仕置きして帰ろっか。
で、どんなお仕置きする?
こいつにぴったりなお仕置きっていうと、はて、思いつかねぇ。そもそもこんなアホ、ほっといても自滅するに決まってる。実際、今日二回も死にかけた。僕がわざわざお仕置きするほどでもねぇわ。
だったらなんで?
僕のポータルは訳アリ物件に繋がる仕様になっている。きっとまだ何かしらあるはずだ。
「そ、みたいですね」
ニック・デイリーはふらついた足でブルーノ・マルチャーノの前に立つ。足先で蹴って生きているのを確認する。生きてると分かり、インベントリから水の入ったバケツを取り出す。その水をブルーノ・マルチャーノの顔にぶっかけた。ブルーノ・マルチャーノは首をフリフリ身を起こす。
「フルカウンターのブルーノ! 負けたからには分かるよな!」
言う権利がないやつがさも当たり前のように言ってて草
ブルーノ・マルチャーノも何か言いたげだ。だからといってブチ切れるわけでもない。のっそり立ち上がると防具、所持アイテムを全部出し、インナーだけになってポータルへ向かう。去り行くその背中にニック・デイリーがまたもや叫んだ。
「おまえを倒したのはニック・デイリー! ニック・デイリーだ! その名前をしっかり頭に叩き込んどけ! いいか! ニック・デイリーだぞ! 忘れるな!」
もはやお約束になってて草
ブルーノ・マルチャーノがポータルに入ったのを見届けるとニック・デイリーは、記号化して足元にぷかぷかと浮いているアイテムを全部さらってインベントリに収納した。
ニヤニヤしてご満悦のようだ。目線は宙にある。きっとインベントリをポップアップさせて奪ったアイテムを鑑賞しているんだ。
着ている防具も次々とネザライト製に替わっていく。インベントリの防具スロットにあるジョー・オルグレンのをブルーノ・マルチャーノのやつに置き換えてる。
ニック・デイリーは自分の晴れの姿に躍り上がって喜んだ。市場ではもう全く見ることが出来なくなったネザライト製の防具である。しかも、それは『棘の鎧Ⅲ』と『修繕』がエンチャントされた逸品。
顔が溶けたようにニシャァっとした。よくもまぁ、僕の前で堂々と恥ずかしげもなく。こんなやつに一族の誇りを装備されてるとはブルーノ・マルチャーノも夢にも思うまい。
知ったら発狂しそうで草
「よし! 帰るぞ!」
意気揚々と帰路に着く。僕もあとに続いた。道は、石ころの山をいくつも縫って突き進む。やがて海岸に出た。
灰色の荒地がいつまでも続く海岸線。そこから広がる大海原。夕日に照らされ、黄金に輝いていた。波は寄せては返し、寄せては返す。潮風が優しく頬を撫でていった。荒廃した大地からは想像も出来ない心落ち着かせる光景だった。あれを見るまでは。
ずっと向こう、海から天を突きさすように一筋の青い四角柱がそびえ立つ。頂点はかすんでいて、ここからだと視認できない。光の屈折ぐあいからその材質は、どうやら水のみのようだ。レシピブックでクラフトされたものでない。明らかに魔法。
さらにはその横に建築物。高さは王都にある最も高い塔と同じぐらいか。形状はというと水面から突き出す蓮の葉のようだ。魔法の四角柱と並ぶように建っていた。
「驚いたか。あれはな、かの有名な冒険王、トラベルドアーズの墓だ」
僕はここに来たことがある。その頃はまだ、ここは緑豊かな楽園のような場所だった。トラベルドアーズもよぉく知っている。
当時、魔族との戦争が終わったにも関わらず、王国は人々への締め付けを弱めるどころか一層強めていた。トラベルドアーズはまだ一部の人にしか知られていないレシピブックを王国に普及させ、多くの人々を王国の支配から解放し、新天地へと向かわせた。
救世主と謳われ、信仰の対象にする者も数多く、それを危惧した王国はトラベルドアーズが死ぬや否やその亡骸を確保し、棺と称して囚人がごとく閉じ込めた。生前、制御不能だったトラベルドアーズを、王国は死してやっと牢獄に入れられたって訳だ。
それがあの一連の建築物。天を衝くようにそびえ立つ魔法の四角柱は棺にして牢獄。四角く囲まれた水の中に巨大な黒曜石のキュウブブロックが浮かぶ。そこにトラベルドアーズの遺体と生前の所持品が収められていた。
隣にある蓮の葉のような建築物はキュウブブロックを守るための要塞だ。キュウブブロックを監視できるようにそれとほぼ同じ高さにあった。魔法の四角柱を含め、全てが狂信者に奪われないようにするためのもの。
王国は狂信者たちがドラベルドアーズの遺体を崇めることによって勢いを増すのを恐れたんだ。けど、なんでポータルはこんな所に僕を導いた?
「おい! 聞いてるか?」
ニック・デイリーは僕に無視されたかと思って怒ってる。
「あ、はい。いやいや、ちゃんと聞いてました。あれがうわさに聞くトラベルドアーズの墓なんですね。すごいです。度肝を抜かれてあっけにとられてしまいました」
「ははははは、だろうな」
ご満悦だ。なんかムカつく。
「GCLって知ってるか?」
「GCL?」
なんだ、いきなり。
「お前、なんでここに来たわけ?」
僕も聞きたいわ。
「ははははは、その顔を見ると本気で開拓しに来たって感じだな」
いいからはよ言えよ。
「GCLってぇのはな、グローバル・チャンピオンシップ・オブ・レガシーの略。PVPの、ま、言うなればワールドカップだな。明日の夜から一か月、あの歴史的建築でそのGCLが開催される」
なるほど、それでPVP勢がここに集まってくるってわけだ。で、こいつはルーキー狩りして装備を整えようとしてた。
「今大会は盛り上がるぞ。何しろ俺とお前でトーナメントの台風の目となるんだからな」
えっ? 俺とお前って、僕もぉぉぉ?
手柄横取りする気前提で試合に出ようとしてて草




