追放された男4/10
と、いうわけで、僕はルーキー狩りに加わってその監視役をさせられている。石ころの山の上からずっとポータルを眺めているのが僕の仕事だ。雇い主のニック・デイリーはというと僕のそばで寝そべって、鼻歌を口ずさんでいる。
上機嫌だ。なんたってあのジョー・オルグレンの装備を身に着けているんだから。レシピブック製の防具は大きさ問わずその体にフィットする。
一緒にくじを引いてたあの二人に見せたいだろうなぁ。けど、二人とも今日は戻って来そうにない。日も沈もうとしている。朝までどっか拠点で身を隠すつもりのようだ。
自慢するのは朝までの我慢ってか。ジョー・オルグレンの装備をあの二人に見せたら、もしかして三人でPVPをおっぱじめるかもしれない。本人はともかく、二人ともニック・デイリーが強いとは微塵も思ってないからな。
「あれ?」
ポータルに動きがあった。黒曜石の枠に囲まれている亜空間に人影がゆらゆらと浮かんだと思うとそいつは現れた。ネームタグにはブルーノ・マルチャーノとある。
全身ダークブラウンの装備で身を固めている。あれは間違いない。ネザライト製。ダイヤモンド装備をさらに強化したレシピブックの最上位装備だ。竜剣士と謳われたラグーン・タイナーの子孫ジェフ・タイナーも身に着けていた。
「主様。ポータルに動きがありました」
「なに?」
ニック・デイリーはガバッと身を起こし、僕の背に着いた。二人そろってネザライト装備の男を見下ろす。僕はとぼけて言った。
「主様。あれはもしかして、伝説のネザライトじゃありませんか?」
「マジか。初めて見た」
僕らはルーキー狩りをするような輩。伝説を着込んでいるような男なんて初めから相手にしない。
「じゃぁ、今回はNGってことで」
「いや、待て。ヘルメットの額に羽のエンブレムが見えないか?」
「ああ。ありますね」
シャー専用ザクみたいなやつ。
「ネザライト装備。そして、羽のエンブレム。間違いない。あいつ、フルカウンター・ブルーノ」
「フルカウンター⁉」
「今日はとことんついているな、俺は。ネザライト装備が手に入る」
「えっ! それってどういう意味です?」
「どうもこうもない。戦うのさ。俺たちはPVP勢だろ」
PVP勢っていうよりルーキー狩り勢で草
「戦うって。相手は通り名持ちで、そのうえネザライトですよ」
「やつぁ、カウンターのバケモンらしいが、所詮はカウンター。弓使いの俺には通じねぇ」
まじか。こいつ、まるで何もわかってねぇ。
「違いますって。あれは、」
と言って口をつぐむ。教えたくてもこっちには諸事情があって詳しくは話せねぇ。
「我に勝機あり!」
そう言うとニック・デイリーは砂煙を上げて石ころの山を滑り降りていく。
「遅いぞ! 早く来い!」
そもそも僕の話なんて聞いちゃいねぇ。
「いやいや、待って。待ってくださいよぉーーー」
あとを追ったけど、間に合わなかった。ニック・デイリーは山を下り、道の真ん中に立つ。インベントリから弓を取り出し、ブルーノ・マルチャーノに向かって叫んだ。
「勝負だ! フルカウンターのブルーノ! 嫌だとは言わせん!」
突然現れたニック・デイリーに、ブルーノ・マルチャーノは眉一つ動かさない。
「受けて立とう」
そう一言発するとブルーノ・マルチャーノはニック・デイリーに向けて走った。弓の間合いを潰そうというのだろう。けど、それはフェイクだ。そのブルーノ・マルチャーノの策に、ニック・デイリーはまんまとハマった。勝機を失いたくない一心で矢を放つ。
ブルーノ・マルチャーノは足を止めた。定石なら、そこで矢を回避するため身を小さくしたり、横に飛んだりする。
ところが、ブルーノ・マルチャーノは両の手を大きく広げ、体を大きく見せようとした。熊が威嚇するのにやるポーズに似てる。
どうぞ撃ってくださいってか。
そもそも相手はネザライト製。さしものニック・デイリーもはじめっから一発で仕留められるとは思ってはいまい。矢を何回か当てなくてはと思ってる。そこにクマの威嚇ポーズだ。
案の定、ニック・デイリーがニヤリと笑った。ほっといても一の矢が当たると確信したようだ。追い打ちの二の矢をつがえる。発射させようと構えた次の瞬間、ニック・デイリーがバンッと胸に衝撃を受けたように見えた。
何か力が加わったかのように後方へ吹っ飛ばされる。地面に叩きつけられ、砂煙を上げて転がっていった。ブルーノ・マルチャーノはというと威嚇のボーズのままだ。その場を一歩たりとも動いていない。胸は無傷で、足元に矢が一本落ちていた。
「遅かったか」
勝負は一瞬で決した。山を降り立ち、ニック・デイリーに駆け寄る。胸が鮮血に塗れていた。まだ息はある。けど、命取りの傷でもある。まるで矢に撃たれたようで、その一点が深く穿たれていた。
―――フルカウンター。
その名とネザライトからピンときた。身を包む装備には間違いなく『棘の鎧Ⅲ』と『修繕』がエンチャントされている。
『棘の鎧Ⅲ』は反射ダメージ効果の付与で、『修繕』は装備の自動復元効果の付与。どちらもエンチャントの効果で、さらにはどの防具もネザライト製ときた。
レシピブックの最上位装備で自分自身を防御しつつ与えられたダメージはそっくりそのまま相手に返す。『棘の鎧Ⅲ』はエンチャントの効果であるから、矢であろうと投げた斧であろうと関係ない。
そのうえで『修繕』が効果を発揮する。ネザライトで壊れることはないにしても、攻撃を真っ向受け続ける以上強度の劣化は他のネザライトより断然早い。『修繕』はその弱点を補った。
魔族との戦いが終わった頃に流行った代物だ。それを代々伝えてるとなると、やつぁ戦士の血族なんだろうな。はなっからニック・デイリーの敵う相手ではない。
ブルーノ・マルチャーノのほりの深い目元の奥で眼光が鈍く光る。次のターンは俺とばかりにブルーノ・マルチャーノはインベントリから剣を取り出した。瀕死のニック・デイリーに止めを刺すつもりなんだ。
小物でも容赦がない辺り、根っからの戦士なんだろうな。ブルーノ・マルチャーノは僕らの前にやってくると倒れているニック・デイリーに向かって剣を振り上げた。人の忠告も聞かないで突っ走るからこうなる。
調子に乗って虎の尾を踏んでて草




