追放された男3/10
ジョー・オルグレンはまさに僕の目の前にいる。あんだけ剣を振り回してたのに全く息が切れていない。地面に伏したニック・デイリーを蔑んだ眼で一瞥すると立ち去ろうとした。
けど、なぜかそこで足を止めた。向き直ると僕をじぃーっと見る。その眼光は険しく、品定めするようでもあり、敵を見るようでもある。
いやいやいや、僕はルーキー狩りの被害者の方。さっき見たでしょ。あんたが斬った男に弓矢で胸を狙われていた。
手をブルブル振ったり、ペコペコしたりもした。でも、ジョー・オルグレンの眼光は鋭くなるばかりで、僕の眼の奥にある何かを探らんとしている。
こいつは言うなれば真のPVP勢。その界隈で名が通っている。おそらくは本能で察知した。僕が強いって。
真のPVP勢なら総じて強敵と戦いたいって願望がある。強いやつと出会ったら手合わせぜすにいられないんだ。なんか許してもらえなさそうにない。案の定、ジョー・オルグレンが口を開いた。
「お前。何者だ」
だろうな。当然僕らは縁もゆかりもない。強いはずの僕がルーキー狩りに目を付けられていたのも解せないはずだ。戸惑うのも仕方ない。でも、僕の言うことはいつも同じ。
「どこにでもいる名も無い開拓初心者です。もちろんPVPなんてやったことがありません」
ジョー・オルグレンはニヤリと不敵に笑った。自分の問いかけが愚問と悟ったんだろう。剣を構えたかと思うと殺気を放つ。
「四の五も言うまい。手合わせすれば分かるというもの」
やっぱ、ですよね。ジョー・オルグレンは足を蹴って、グンッと目の前までやってきた。僕はジョー・オルグレンの間合いの中に入る。
刹那、右、左とジョー・オルグレンの袈裟斬りが僕を襲う。僕はというとその剣筋に合わせて、左、右と体を斜に傾けた。矢をも落とすほどの高速の一閃はどちらも空を切る。
ジョー・オルグレンは慌てない。眉一つ動かさず、まるで必然であったかのように三手目を放つ。
それは首を刈り取らんとする強烈な横薙ぎ。僕はのけぞって、風切るような斬撃を目と鼻の先で見送った。ぱっと視界に空が広がる。雲一つない真っ青の空だ。そこにキラリと光る剣がまるで空を二つに割るように現れる。
縦一文字の脳天唐竹割。僕を三枚におろそうとでもいうのだろうか。ちょっと腹が立った。右手の指に魔力を集める。落ちてくる剣を、その親指と他の四本の指で挟むように掴む。
僕流真剣白刃取り。
剣は僕の頭上でピタリと止まった。これにはさしものジョー・オルグレンも度肝を抜かれたようだ。雷に打たれたかのように目をひん剥き、固まっている。
指で摘まんでいるからと言ってあなどるなかれ。押そうが引こうが、僕の手から剣を取り戻すことは叶わない。例えそれが鍛え抜かれたジョー・オルグレンの膂力をもってしてもだ。
ただ、本来の剣技キルオーラなら相手が僕だとしてもこのようにはいかない。ジョー・オルグレンのキルオーラは肝心なところが掛けている。
魔力だ。間合いに魔力を充填させたうえで、剣にも魔力をまとわせる。間合いに入った異物を魔力が察知し、間合いから異物を排除するため剣が自動追尾する。魔力が強ければ強いほど剣のスピードは増し、威力は上がる。
魔力のないキルオーラは僕に言わせれば、ルーのないカレーだ。当然、僕のような魔力持ちには相手にならない。
ニック・デイリーのことが気になる。ジョー・オルグレンが我に返って前蹴りでも食らわして来たら面倒だ。驚いて固まってくれているうちに勝負を着けさせてもらう。
ジョー・オルグレンの顎に左フックをかすらせた。それで十分。脳がグラっと揺れたはずだ。ばっちり体が倒れて行った。砂煙の中、ジョー・オルグレンは地に大の字になってピクリとも動かない。
ニック・デイリーに駆け寄る。首筋に手を当てた。脈があった。早速、治癒魔法を施す。背中に刻まれた肩下から腰までの斬り傷が瞬く間に塞がっていく。
ゲホゲホッと、ニック・デイリーが咳込んだ。ううッと呻きながら手を付いて起き上がる。僕の胸倉を掴み、寄りかかって来た。
「バーサーカー・ジョーは?」
まずは助けてくれてありがとうでしょ。
「あ、あそこです」
指差した。そこにはジョー・オルグレンが地に大の字になって伸びている。ニック・デイリーは二度見した。
「倒したのか⁉」
「そ、みたいですね」
ニック・デイリーはふらついた足でジョー・オルグレンに近付く。足先でその太もも辺りを二度三度蹴った。
息があるのが分かったようだ。インベントリから水の入ったバケツを取り出し、その水をジョー・オルグレンの顔にぶっかけた。ジョー・オルグレンはうわっと声を上げ、跳ね起きる。
「バーサーカー・ジョー! 負けたからには分かるな!」
自分は負けたのにえらい上から目線で草
ジョー・オルグレンに文句はないようだ。インベントリに収納していたアイテムを潔く全部取り出した。防具も脱ぎ捨て、インナーだけになってポータルへ向かう。去り行くその大きな背中に向かってニック・デイリーが叫んだ。
「おまえを倒したのはニック・デイリー! ニック・デイリーだ! その名前をしっかり頭に叩き込んどけ! いいか! ニック・デイリーだぞ! 忘れるな!」
ちょっちょっちょっ、待ってよ。それだとジョー・オルグレンは絶対に僕のことをニック・デイリーだと思ってる。
っていうかこいつ、倒したのかってさっきの言葉。“俺が”倒したのかって意味?
確かに僕に助けられたって自覚もなさそうだし、まさかな。もしかして、本当に自分が倒したと思ってる訳?
んな訳ない。絶対分かってやってるわぁ。
そもそもこいつはルーキー狩りをするようなやつだ。成果や手柄の横取りは他人が傷つく行為だってこと、全く理解出来ていない。いや、横取り自体が悪いことだと思ってないのかもしれない。言ったもん勝ち、アピールしたもん勝ち、奪ったもん勝ち、それが実力社会だと信じてる。
根っからの、人の手柄は自分の手柄で草




