追放された男2/10
「では、お手伝いさせてもらえるってことでいいですよね」
ニック・デイリーは眉をピクリと動かす。矢の照準は依然として僕の胸にあった。
「おまえは馬鹿か? ここでは開拓者なんてお呼びでないんだよ」
じゃぁなんでポータルを解放してるんだ。それって開拓者募集ってことでしょ。
「持ってるアイテム全てここに置いてポータルに戻れ! 負けたやつがそうするのがここでの決まりだ!」
勝った者が総取りぃ? あ、こいつの中では僕と戦って勝ったことになってるんだ。つまりはPVP。ということは、こいつらPVP勢って、あら⁉
ポータルポータルって言ってたらそこに人影。
誰か新たにやって来たようだ。ネームプレートにはジョー・オルグレンとある。装備は全てダイヤモンド製で、体躯は僕より一回りも二回りも大きい。胸板も厚く、その広く大きいチェストプレートにはデカデカとどくろを模した金の文様が刻み込まれていた。
観戦していた二人は口々に、あっと声を上げた。
「どくろのチェストプレート!」
「ということは!」
二人はばっと顔を見合わせる。
「「バーサーカー・ジョー!!」」
そう言ったかと思うと二人はそれぞれ別方向に走り出す。積み上げられた石ころの山をおのおの這うように登り、あっという間に二人とも姿を消した。
やつらはニック・デイリーに声を掛けるどころか、見向きもせず行ってしまった。パーティーの砦とか何とか言ってたけど、こいつらは仲間じゃない。
ジョー・オルグレンはというと立ち止まって、その光景を眺めていた。二人がいなくなったのを見届けると今度は僕らの方に視線を送る。
「ふーん。くだらん。ルーキー狩りか」
ルーキー狩り? そうか。ポータルを出たやつを品定めして、自分たちより弱いと判断したら襲う。勝った者が総取りってルールだからルーキー潰しというよりアイテム目当てなんだろう。
あの二人の逃げてく様子から、こいつら三人は仲間というより競い合う相手。だから、順番とかにはならなかった。それでくじというわけか。
で、僕は装備を全くしていない開拓勢。やつらにとって僕はハズレ。負けたやつがアイテムを差し出すのがここのルールらしいから、僕から引き出せる有用なアイテムは無いとやつらは踏んだ。
けど、くじってどうよ。アイテムはその人の努力の結晶だ。それを遊び半分で奪って己のものにするなんて。
ゲーム感覚で人の成果を横取りしてて草
ジョー・オルグレンが歩き出す。ニック・デイリーから見るとジョー・オルグレンの姿は僕越しにあった。
依然として矢の照準は僕に向いている。けど、それは心ここにあらずで、右に左にゆらゆらと揺れていた。視線も挙動不審で、僕を見てるようで見てない。僕の背後に何度も焦点が合わされる。
ジョー・オルグレンはジョー・オルグレンで僕らに遠慮する気配はない。そらぁまぁそうだ。道は一本道。進むにはここしかない。近づくにつれニック・デイリーの額からはドバドバ汗が流れ、顔色も真っ青で表情も石のように強張っていく。
プレッシャーに押しつぶされそうになっている。ジョー・オルグレンってそんなに怖いのか? その界隈でバーサーカーって通り名があるんだからそれなりに強いってぇのは分かるんだけど。
僕たちの横に差し掛かる。ニック・デイリーは見ないよう見ないようしてた。けど、やっぱり見てしまう。通り過ぎる一瞬、確かにジョー・オルグレンと目が合っていた。
ただ、さげすむような目であった。そのまま通り過ぎて行く。ニック・デイリーはふうーと小さな息をついた。馬鹿にされてるって事実より己の命なんだろう。そこにジョー・オルグレンの声。
「雑魚め」
明らかにニック・デイリーに向けた言葉だ。ニック・デイリーの体がビクンと跳ね上がった。先ほどまで弱気100%だったニック・デイリーの目がかっと見開く。プチンと音がしたような気がした。
僕に向けられた弓がゆっくりと降ろされる。ニック・デイリーはその背を丸め、うつむき、ガタガタと震えだした。
嫌な予感しかしない。案の定ニック・デイリーは荒々しく甲走った声を上げた。
「今、雑魚って言ったな!」
まるで腹にとぐろを巻くマグマを一気に爆発させたかのようである。十歩ほど先にいたジョー・オルグレンはその声色に反応した。ピタッと足を止め、振り向く。その顔には意地悪な含み笑いが張り付いていた。
「だったら?」
ニック・デイリーはジョー・オルグレンの蔑む顔を指差した。そして、その指で念押しするように何度もジョー・オルグレンを差して、言葉を叩きつける。
「だ、れ、に、も、雑魚呼ばわりはさせない!」
そう言うや否やニック・デイリーは矢を放つ。雄たけびを上げ、幼い子供が癇癪をおこして手をブンブン回すがごとく矢をバンバン放ち始める。一方、ジョー・オルグレンも即座にインベントリから剣を取り出した。息つく間の無く剣をブンブン振り回す。
まるで竜巻のようである。飛来する無数の矢を全く寄せ付けない。剣筋も正確で矢一本たりとも逃さず、全てを打ち落としていた。
―――剣技キルオーラ。
間合いにある如何なるものもその存在を許さず切り伏せる。なるほど、通り名は言い得て妙だな。その鍛え上げられた体躯と、如何なる攻撃をも恐れず剣を振り回す姿はまるでバーサーカーのようだ。
狂ったように剣を振るその剣技で、ジョー・オルグレンは矢をものともせず向かって来る。雄たけびを上げてのべつ幕なしに矢を放つニック・デイリーをその間合いに捉えた。
プッチン切れて狂っていたニック・デイリーといえども、命の危機となれば生存本能が働く。間合いから飛び退こうとしたその刹那、撫で斬りにされる。背中から血しぶきを上げて、地面に叩きつけられた。
癇癪持ちの子供同士が喧嘩しているようで草




