追放された男1/10
ポータルを出た。そこに広がっていた光景はまるで砕石場のようだった。至る所石ころが山に積み上げられ、石の山と山の間を縫うように砂利道が一本通されている。
建築物は見当たらない。この道を進めということか。三つの方向からジャラジャラっと石が崩れる音がした。
見ると三つの山頂それぞれに人影があった。おのおの砂煙を上げて、山肌を滑るように降りて来ている。
「開拓主は?」
三人は別々の方向から遠く道の真ん中に集まり、そこで向かい合う。何やら相談しているようだ。
「三人かぁ。こりゃぁ面倒だなぁ」
僕のポータルは訳アリ物件に繋がる仕様になっている。今回もどんなやつに出会えるか楽しみではあったんだけど、それが三人ともなるとなぁ。ちょっとだりぃ。
三人はというと顔を突き合わせて何やらゴニョゴニョやってる。遠いからちょっと何言ってるか分からない。やがてそのうちの二人が同時に別の一人を指差しつつ奇声を上げて笑った。笑われたやつはやつで、ペンほどの短い棒を地面に叩きつける。そして、吐き捨てるように声を放った。
「くそ! よりによってハズレの時にアタリかよ!」
くじ引き? ハズレって僕のこと? 怒っている男のネームタグにはニック・デイリーとある。
なるほど、やつらは誰が僕と話をするかくじで決めてたんだ。にしても、ハズレはないだろう。まだ話も何もしていない。ということは見た目で判断した? いたって普通と思うんですけど、どこかおかしいところがありますか?
ニック・デイリーは二十代前半か。ダイヤモンドをフル装備している。それが弓を手にし、僕の方に向かってズンズン歩いて来る。
ギョロッとした眼が僕を見据えて外さない。育ちのよさげなシュッとした鼻がぷくっと膨らんでいた。
ちょっと嫌な雰囲気だ。僕をハズレというんだからな。ニック・デイリーは弓を手に、僕の二十歩ほど前でピタッと歩を止めた。
明らかに話をするとかじゃなく弓の間合い。警戒してるのか? それとも、ハズレにはそれ相当の対応をするってか?
取り敢えずここは刺激しないよう礼儀に従って、僕の方から丁寧に挨拶するとしよう。
「こんにちは。僕はヒューと申します。開拓は初心者ですが、一生懸命頑張るのでどうぞよろしくお願いします」
ニック・デイリーは答えなかった。僕から視線を外し、仲間の二人へ振り向く。二人はというとそれぞれが膝を叩いたり、手を叩いたりして、声を上げて笑っていた。
「開拓だってよ」
「それも初心者ときた」
笑い声が聞こえる中、ニック・デイリーは僕へと向き直った。その形相はまるで僕に噛みつかんばかりだ。
いやいやいや、おかしいだろ。開拓初心者は開拓を学ぶために、誰かの開拓地を訪れて、勉強もかねて開拓主のお手伝いをする。常識だろ。
っていうか、そもそも開拓って聞いて馬鹿にするかぁ。開拓は当然だろ。こいつらもそのためにここにいるんと違うかぁ。
なにがなんだか話がかみ合ってなくて草
依然としてニック・デイリーの、僕への敵意はむき出しだ。それとは対照的に後ろの二人は楽しいようだ。またもや、はやし立てる。
「やっとくじに当たったと思えばこれだ」
「ニック。運も実力のうちだぞぉ」
ニック・デイリーは顔を真っ赤に上気させた。矢をつがえると何のためらいもなくギリギリと弓を引いていく。二人の笑い声がピタッと止んだ。
ゆっくりと照準が合わされていく。体からにじみ出るニック・デイリーの殺気から、矢は威嚇ではなく本気だと分かる。矢じりの先端が僕の胸に向いた。
「ちょ、ちょっと待ってください。何か気に障ったら謝ります。どうかこのとおり」
頭を下げた。けど、それもむなしく矢が放たれる。弓はというとエンチャントされているようだ。矢は不穏な気色を帯び、僕の胸へと一直線に飛んで来た。
矢筋がちょい、右に流れた。僕は当たる直前、ちょいっと右に体を開く。矢は胸元を通り過ぎ、五歩ほど後方の地面にパスっと着弾した。
ニック・デイリーは、あれって顔をした。僕が動かなかったように見えたのだと思う。事の成り行きを見守っていた二人は堰を切ったように笑いだす。
「外した。外した。へたくそかぁ?」
「マジか。ニック。お前、パーティーの最後の砦とか俺たちに言ってたよなぁ」
ニック・デイリーは頭から煙が出るかと思えるほど顔を真っ赤に染めた。体も小刻みに震えている。
「うるせぇ! 今のは威嚇射撃だ! 見てろ! これからが本気だ!」
引き立て役の噛ませ犬キャラが言うセリフで草
ギリギリと弓を引く。渾身の一撃を放つと思いきや、連射して来た。本気出すとか言ってこれか。バンバン矢が放たれる。
バリ小物感で草
どれもそこそこ狙いが正確だから逆にちゃんと最後まで矢筋を見極めなければ事故ってしまいそうだ。次々やって来る矢を最小限度の動きでかわしていく。
「ニックは自称、弓の天才だぞ。それを素人みたいなやつが全部かわすってどうよ」
「あのルーキー、一体何者なんだ。ニックは百発百中って言ってたもんな。パーティーの危機を何度も救ったって言ってたし」
観戦する二人の言葉はニック・デイリーをバカにする半分、僕への驚きとなっていた。
思うようにいかず癇癪を起したニック・デイリーは、一歩一歩と間合いを詰め始める。近けりゃ当たるだろうという単純な思考なんだけど、どうだか。みるみるうちに間合いは縮まり、挙句僕の手がニック・デイリーの弓に届きそうになっている。
弓の意味が無くなってて草
ニック・デイリーは矢を放つ手を止めた。インベントリから剣を出すかと思いきや、僕にツバキを飛ばしつつ言い放つ。
「よし! 今日はこれくらいで許してやる! ありがたく思え!」
負け惜しみの伝統芸で草
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