命短し恋せよ乙女14/16
チェストの中にエンチャントされた金のリンゴはなかった。気を取り直して次に進む。二個目のチェストはあい路のT字路となった突き当りだった。
前方左右の道からクモやスケルトンが湧いて出てくる。歩みを止めず、襲い掛かって来るそいつらの間を縫うように間合いに入っていくと風をまとった手刀でなで斬りにする。残念ながら二個目のチェストにもエンチャントされた金のリンゴはなかった。
三個目は坑道を出た洞窟の中にあった。坑道はどうやら別の洞窟に繋がっていたようだ。鍾乳石が上からも下からもあっちこっちで伸びていて、スライムがスポーンする滝や、湖がある洞窟とは雰囲気がまるで違う。
怪物の口の中のようだ。スポーンするモンスターも穏やかではない。二十前後のゾンビの他にエンダーマンが三体もいた。
闇に溶け込む真っ黒なフォルムをしていて、背が高く、無駄に手足の長い人型のモンスターで体からは紫のキラキラと光るパーティクルを放っている。ゾンビたちは僕を見るなり大挙して向かって来ているんだけど、エンダーマンは洞窟内をふらふらと徘徊していた。
インベントリから鉄の剣を取り出すとそこにも風属性の魔力をまとわせる。レシピブックのアイテムでモンスターを倒すとそのモンスター特定のアイテムがドロップする。ゾンビの相手をするのも面倒だし、時間が無いので早速エンダーマンを呼び寄せることにした。
遠目でも目立つエンダーマンの妖しく光る薄紫の瞳に視線を合わせる。目が合ったそいつは頭を横半分に割くように口を大きく開けるとギュオーと叫んだ。ブルルと体を震わせ、消えたかと思うと突然僕の目の前に現れる。
エンダーマンの能力、テレポートだ。来たなり頭から真っ二つにした。断末魔の声さえ上げさせない。エンダーパールはというとドロップしなかった。
クソ! 次!
また目を合わせる。そいつも雄たけびを上げたかと思うと僕の目の前に現れた。また頭から真っ二つにする。今度はドロップした。記号化したエンダーパールが地表でぷかぷか浮いている。触れてインベントリに収納した。
「よし!」
助走をつけてジャンプする。向かって来るゾンビたちの頭の上を越え、チェストの前に立つ。チェストの中身は?
「あった!」
洞窟の雰囲気も違ったし、エンダーマンがいたからもしかしてと思ってた。チェストのインベントリ画面から、エンチャントされた金のリンゴを僕のインベントリへ移す。ゾンビたちは折り返し、僕に向かって殺到していた。
魔力解放五十パーセント。体の毛穴という毛穴から魔力が噴き出す。
「吉祥天」
四方八方から風が僕を取り巻き渦巻いたかと思うと体が宙に浮く。洞窟の天井を見上げる。ぐんと上に向かって加速した。ゾンビたちが洞窟のあちこちに飛ばされていく。
地中にいるなんて関係ない。激しい旋風と魔法防壁によりガガガと岩石をぶち破ってく。地表を突き抜け、瞬く間に上空。日は西に傾いていた。
太陽を背に東へ向けて飛ぶ。あっという間にブリジット・エリントンの塔だ。玄関前に着地する。すぐにでもブリジット・エリントンの様子を見に行きたいところだけど、その前にやらなくてはならないことがある。
インベントリ画面をポップアップさせる。持ち物スロットの一行目、その一つ目に鉄鉱石一つを入れる。次に二行目の一つ目に木の棒を一つ入れる。それからエンチャントされた金のリンゴ以外、全て取り出した。
記号化した鉄のインゴットや松明、金鉱石や釣り竿など、足元にぷかぷか浮いている。インベントリ画面には鉄鉱石、木の棒、二行目の中ほどにエンチャントされた金のリンゴのみがある。そのエンチャントされた金のリンゴを三行目の最後のスロットへ移す。
すると持ち物スロットの空いている箇所にエンチャントされた金のリンゴが突然現れて、埋め尽くされていく。それだけでない。エンチャントされた金のリンゴの場合、一スタックは六十四個。どのスロットも一スタックになるまでエンチャントされた金のリンゴの数字は増えていっている。
アイテム増殖グリッチ。
レシピブックのバグというか裏技みたいなもんだ。一個のエンチャントされた金のリンゴが二十五スタックに増殖し、結果千六百個。
再生の効果で癌細胞を活性化させてしまうっていうのは十分わかってる。ライフ増加効果を絶えず維持させ、ライフそのものを底上げさせる。有効時間が限られるライフ増加効果を数で補おうという作戦だ。
塔に入り、二階へと上がっていく。ブリジット・エリントンはベッドに横になっていた。顔色を覗き見る。血色は良くなっているようだ。寝息も立てている。
肩の力を抜き、詰まっていた息をふーっと吐いて緊張を解く。壁に書かれた文句が目に入った。
『冒険をする』が蛍光色の文字に変わってる。ヒカリイカのドロップアイテム、輝くイカスミを使ったんだ。他にも幾つか着色されている。
『冒険をする』
『オウムガイの殻を手に入れる』
『スライムボールを手に入れる』
エンダーパールを手に入れる
『ロマンチッククルーズをする』
桜がみたい
花を贈られたい
『サプライズギフトを貰う』
『落ち葉で遊ぶ』
『雪の上に名前を書く』
『雪だるまをつくる』
『そり遊びをする』
『スノーエンジェルをつくる』
『空を飛ぶ』
『星空観察』
だからこの子は輝くイカスミをあんなにねだっていたんだ。
光を放つ文字一つ一つがまるで石積みの壁から浮き出しているかのようで、部屋を取り巻くその光景からブリジット・エリントンの心の内が見て取れたような気がした。




