命短し恋せよ乙女12/16
「開拓主様。やりましたね」
スライムの半分ほどを倒した。残りのスライムは向かって来ることはなく散り散りになってどっかに消えて行った。
「これ見て。スライムボールがこーんなに沢山」
ブリジット・エリントンは目を輝かせていた。記号化したスライムボールが十個ほど、ブリジット・エリントンの足元にぷかぷか浮いている。
「帰りましょうか?」
僕がそう言うとブリジット・エリントンは記号化したスライムボールに触れてインベントリに収納しつつ答える。
「え? なんで?」
「なんでって。スライムボール、ゲットしたじゃないですか」
「目的はスライムボールじゃないのよ。冒険。私は冒険がしたいの」
冒険って言ってもねぇ。スライムばかりじゃないんですよ。危険がいっぱい。嫌な想いをする前に帰るのが得策だと思うんですがね。
「ヒュー」
「はっ! はいぃ?」
なになに? いきなり名前呼ばれるとビビるわ。
「この先は行ってないんでしょ」
ブリジット・エリントンの指差す先は真っ暗だ。松明が無いってことはそういうことだろ。川はそっちの方に流れていっている。
「あ、はい。スライムボールが手に入りましたので」
「行ってない所に行く。それが冒険ってことでしょ」
確かに。ってなるかぁ。
ブリジット・エリントンは僕にかまわず先に進んで行く。くっそー。しかたない。僕はブリジット・エリントンの横に付いた。
道すがら松明を挿していく。今のところモンスターの襲撃はない。やがて行く手に、両サイドが切り立った、渓谷のような空間が現れた。
洞窟の天井が高すぎて、松明を掲げても天面が確認できない。川の流れはというと目の前で急な勾配となり、その先は奥へと伸びる細く長い地底湖だった。
V字にせり上がった岩壁と岩壁の間がすっぽり水で満たされている。おそらくは水量の加減で水位が変わるのだろう。両サイドは断崖。僕らは道を閉ざされた。
「あらら。帰るしかないみたいですね、開拓主様」
「問題ないわ」
ブリジット・エリントンはインベントリからボートを出した。そして、僕に視線を向ける。
はいはい。分かりましたよ。ボートを川岸に運ぶ。ブリジット・エリントンがボートの船首側に腰を落ち着かせるのを見計らって、船尾を押しつつ僕も飛び乗る。ボートは川の流れに引っ張られ、急こう配へと誘われる。
勾配の角度は三十度ないと思う。でも、体感的には頭から真っ逆さまだ。ブリジット・エリントンは悲鳴を上げていた。
湖面に船首から突っ込んだ。飛沫が上がり、バンと船首が跳ね上がったかと思うと船底が湖面を打つ。
ブリジット・エリントンは船の縁にしがみ付いていた。揺れが収まり、僕へと振り向く。そこにあった表情は今にも踊り出しそうな笑顔だった。
ボートは惰性で湖面をすーっと滑って行く。前方の水中で何か光りが移動している。その光りは進むほどに数を増やしていっていた。ブリジット・エリントンはボートの舳先から身を乗り出し湖面を覗き見る。
「うわぁー。ヒカリイカだぁ。初めて見たぁ。きれーーー」
光る何かは半透明なイカで、水中をクラゲのようにふわりふわりと泳いでた。ブリジット・エリントンはうっとりとした目で見つめている。
「こんなにいっーぱい。幻想的ーーー。夜のアクアリウムみたい」
光は内部から半透明な体を通して放たれている。ランタンをともしたような柔らかな灯りで、冷たく暗い水中に幾つも灯をともしていた。ブリジット・エリントンが僕へ振り向く。
「ね、ね。ヒカリイカって輝くイカスミがドロップするんでしょ?」
ぎくっ!
それはおねだりのまなざし。キラキラ光ってた。あ、いやいやいや、僕に雪解け水の地底湖へ飛び込めと?
「ほしい。ほしい。ほしい。ほしい」
ボートの縁を掴んで船体を揺らしてくる。もぉぉぉ、分かりましたよ。やりますよ。普通の人だったら凍え死ぬんですからね。僕以外にこんなことやらせたらダメですよ。そうしっかり目で訴えて、地底湖に飛び込む。
泳いでいって、ヒカリイカに近付くと鉄の剣でブスッとさす。記号化した輝くイカスミがドロップした。触れてインベントリに収納、踵を返してボートに向けて浮上する。
湖面から顔を出すとブリジット・エリントンが満面の笑みで待ち受けていた。
「取れた? 取れた?」
「はいはい。ボートに上がるからちょっと待ってて下さいね」
ボートの縁を掴むと上半身からべろりと船内に身を滑らせていく。ブリジット・エリントンも全然役に立ってなかったけど、僕の服を引っ張って中に入るのを手伝ってくれた。
記号化した輝くイカスミをインベントリから出す。足元にぷかぷか浮いたそれにブリジット・エリントンが触れる。記号化した輝くイカスミが消えた。
「輝くイカスミィ。ゲットォーーー!」
自分のインベントリをポップアップさせて、輝くイカスミが収納されたことを確認したようだ。因みに僕からはブリジット・エリントンのインベントリ画面は見えない。ブリジット・エリントンは船首側に移動するとドカッと座って前方を指差す。
「次のお宝に向けてレッツゴーーー!」
はいはい。座席に座ってオールを握る。僕はびしょぬれなんですけどね。
ボートは湖面を滑るように進む。ほどなくして右前方に明かりが見えた。それは松明の灯りだった。岸があり、そこにボートを近づけていく。奥の岩壁に人工的に補強された洞窟があるのが分かった。
間違いない。あれは魔族が造った坑道。お宝が入ったチェストがいっぱいある!
「開拓主様! あそこ! あそこを見てください」
ブリジット・エリントンに返事がない。というか、あれって思った。よくよく考えればさっきから大人しい。何かあったのか? ブリジット・エリントンの肩を揺らした。頭がぐわんぐわん揺れている。意識を失っていた。
テンアゲ過ぎて失神してて草




