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命短し恋せよ乙女3/16

飛翔魔法で森に降り立った。ブリジット・エリントンの塔はここから西に歩いて十五分のところだ。一面銀世界の中を進む。森は朝日に照らされキラキラと輝いていた。


塔は三階建て。木造筒型で、頭頂部には帽子を被るように円錐型の屋根が付いている。


上空からは気が付かなかったけど、玄関扉の正面に大きなサクラの木があった。葉っぱを落とした枝に雪を乗せ、傘を広げるように玄関前の広間を覆っている。


玄関扉の前に立つ。ドアをノックしようとして、手を止める。玄関横の軒下にシルクハットをかぶった鼻がニンジンの雪だるまがあった。


ブリジット・エリントンの作だ。遮るものも透して見せる僕の能力ネームタグからここにはブリジット・エリントンしかいないのは分かってる。


可愛いところがあるじゃないか。僕に冷たいまなざしを向けていたかと思ったら泣くし、泣いたと思ったら僕に雪玉を投げて来た。情緒不安定か、頭おかしいかと思ったけど、あのブリジット・エリントンが一人で雪だるまを作っているところを想像するとちょっと微笑ましい。


とはいえ、僕らは昨日知り合ったばかりだ。なれなれしくすれば、相手は心を閉ざしていくばかり。心を引き締め直し、ドアをノックする。


二階にあるブリジット・エリントンのネームタグに動きはない。まだ寝ているのか、もう一度ドアをノックする。


動きがあった。ゆっくりと移動して止まる。服を着替えているのだろう、しばらくしてネームタグは一階に降りてきた。


ドアがバンと開く。


ブリジット・エリントンはピンクのムートンファーコート姿で、室内なのにフードを深々と被ってる。剣先を床につけた鉄の剣を握り、鬼のような形相で僕を睨みつけていた。


「うざいなぁ! なんなの!」


なんなのって、あんたが言ったんですよ。


「オウムガイの殻、取ってきました」


ブリジット・エリントンはムッとしたかと思うとドアをバンと閉める。


全く信用されていない。ま、仕方ないか。レア確率のオウムガイの殻をたった四投目で釣ったんだ。その引き強加減に自分でもビビったほどだからなぁ。


ドア越しに声を掛ける。


「本当ですって。ちゃんと持ってきましたから」


返事がない。僕の声はちゃんと届いているはずだ。ネームタグの能力からブリジット・エリントンがまだドアの前にいるのは分かってる。


「ドアを開けてください。このままじゃぁ渡せないじゃないっすか」


「うそだね」


返事が来た。まぁ普通の反応だわな。


「うそじゃないですって。自分でも運の強さに驚いているくらいなんですから」


「むかつく」


めっちゃ怒ってる。


「いや、たまたまですよ。たまたま」


「いい加減なことを。本当はそうやって家の中に入ろうとしてるんでしょ。外は寒いもんね。けど、その手には乗らない」


「家の中に入ろうなんてこれっぽっちも思っていません。湖畔に家を建築しましたから」


「はぁ?」


ヤッバ。怒りの“はぁ?”だ。完全にキレてる。


断りもなく開拓地に建築したからなぁ。でも、仕方ないじゃないか。レアなオウムガイの殻を釣れっていうんだ。それなりの準備はするさ。


「あんた。一日で湖まで行って建築してオウムガイの殻を釣ったっていうの。ばっかみたい」


ああ、まずった。そういやぁそういうことになるんだよな。でも実際は、三角山で採掘もしてるんですけどね。あ、いやいやいや。めっちゃ話ややこしくなっているんだけど。そうだ。


「分かりました。オウムガイの殻を記号化させたままドアの前においておきます。僕はドアのずっと後ろに下がって開拓主様が確認なされるまでそこを一歩たりとも動きません。それでどうですか?」


返事はない。ドアの横に窓がある。


「窓から見ててください。その窓から見えるずっと先に行きます」


ドアの向こうはうんともすんともない。やりにくい、っていうか乙女心は理解しがたい。単純に罵られたり、どつかれた方がよっぽど分かり易い。なら、こっちもそれなりにやりようがある。


「いいですか? 今やりますよ」


インベントリをポップアップさせ持ち物スロットからオウムガイの殻を出す。記号化しているオウムガイの殻は玄関前でプカプカ浮いていた。


「下がりますね」


窓の向こうにブリジット・エリントンの姿があった。どうやら僕の提案を受け入れてくれたようだ。サクラの木の袂まで行って止まる。ブリジット・エリントンと目が合った。僕は手ぶりでどうぞと示す。


窓からブリジット・エリントンの姿が消えたかと思うとドアが開いた。ブリジット・エリントンはさっと、プカプカ浮いてるオウムガイの殻に触れて、ドアを閉じる。オウムガイの殻が消えている。ちゃんと自分のインベントリに収納したようだ。


僕はまたドアの前に立った。


「どうです? うそはついていないでしょ」


返事はない。


「僕はただ開拓のお手伝いに来ただけです。僕に何か出来ることはないですか」


全然応答がない。この開拓主は乙女心というよりか、ただの引き籠りの陰キャだ。やばいやつではなさそうだけど、僕のポータルは訳アリ物件に繋がる仕様になっている。なんか裏にあるのは間違いないんだろうけど、こうも心を閉ざされているとやりようがない。


「スライムボールがほしい」


「えっ?」


返事が来た!


「今、スライムボールって言いましたか?」


ブリジット・エリントンはというと僕の言葉に全く反応を示さない。そのネームタグはドアを離れ、二階へと上がっていく。


軽く無視されてて草


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