第8話:砂時計の砂は戻らない
リオラが手際よく淹れた、少し苦い野草茶の香りが車内に広がる。
モルガンは背筋を伸ばし、正面に座るエルナとシグルを真っ直ぐに見つめました。
「……さて。腹筋の嬢ちゃん、約束通り話をしてやろう。お前たちが逃げ出してきた『ルナ・フェリス』という村の正体と、その娘の体に起きていることの真実をな」
シグルに引っかかる部分がなかったわけではないが、モルガンの声は低く、そして冷徹でした。
1. 巫女という名の「変換機」
モルガンは、エルナの白髪が混じり始めた髪を指差しました。
「巫女とはな、神聖な存在などではない。周囲の魔力を吸い込み、村の繁栄に必要な『富』へと変換するための生きた触媒に過ぎんのだ」
豊穣の仕組み: ルナ・フェリスが異常に豊かなのは、巫女が周囲の魔力を強制的に「土地の肥やし」や「魔物の魅了」へと変換し続けているから。
代償としての摩擦: 膨大な魔力が体内を通り抜ける際、肉体には凄まじい「摩擦」が生じる。その摩擦こそが、細胞を焼き、時間を進める**「加速(老化)」**の正体である。
2. 「結界」の本当の意味
シグルは拳を握りしめ、震える声で問いかけました。「でも、私は……外に出れば、魔力の影響がなくなって老化は止まると信じていた。なのになぜ、エルナは昨日より老けているんだ!」
モルガンは悲しげに首を振りました。
「嬢ちゃん、お前さんは**『潜水病』というのを知っておるか? 深い海の底から急に水面に上がれば、体中の血が泡立って死ぬ。
……ルナ・フェリスの結界はな、巫女を閉じ込める檻であると同時に、『高濃度の魔力で満たした加圧室』**でもあったのだ」
魔力の気圧差: 村の中は、巫女が吸い込みきれないほどの濃密な魔力で満たされている。そのため、巫女の肉体は外側からの「魔力の圧力」でどうにか形を保っていた。
脱出による崩壊: 結界の外(低魔力地帯)に出た瞬間、エルナの体内に溜まった膨大な魔力が、外へ向かって一気に噴出しようとする。
自家中毒: 今、エルナの体は外から魔力を得られない代わりに、自分自身の寿命(生命力)を魔力に変換して燃やし、体内の均衡を保とうとしている。
「お前さんが『自由』だと思って連れ出した外の世界は、巫女にとっては『真空の宇宙』と同じなのだ。村にいれば五年で済む老化が、外では一月で一年分進むこともあるだろう」
3. 「魅了」の正体
エルナは、自分の手を見つめながら呟きました。
「……私のこの力も、呪いなんですか?」
「魅了とは、変換しきれなかった魔力の『毒素』のようなものだ。吸い込みすぎた魔力が溢れ出し、周囲の脳を強制的に書き換える。……バルトのような俗物がそれを『特権』と呼ぶのは滑稽だがな」
今まで村では、聖なる力と言われ続けていた。
それが今は、全く逆のことを言われている。
村の中は全てが嘘だった?
原点を失ったような気分に堕ちていく。。。。
4. 残された唯一の道
シグルは絶望に打ちひしがれ、馬車の床に膝をつきました。
自分の無知が、良かれと思った行動が、エルナを死へと加速させていた。
「そんな……。じゃあ、エルナを村に戻すしか、あの子が生き延びる道はないというのか……!?」
前のまま、何も変えないのが、お前の正解なのか?
モルガンは少しの間をおいて、リオラを見ました。
リオラは黙って頷き、座席の下から古びた革袋を取り出します。
「……一つだけ、道はある。老化を『止める』のではなく、エルナの体から変換機能を**『切り離す』**方法だ。だが、それには魔力が一切存在しないという伝説の地、あるいは……巫女の血筋そのものを否定するような、残酷な儀式が必要になる」
モルガンの瞳に、再び鋭い光が戻りました。
「どうする、腹筋の嬢ちゃん。絶望して村へ引き返すか、それとも、この老いぼれの片棒を担いで、神の摂理に喧嘩を売るか?」
今、そんな事を聞かれても、、、何も考えがまとまらない。
シグルの頭の中は、ただ同じ場所をぐるぐる回るばかりだ。。。




