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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
最終章

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ダンジョンの始まりと終わり

 とある惑星地表での戦争は、劣勢な側にひとりの姫騎士が参戦した数日後に終結した。

 島を消し飛ばせる魔法や技を使えるエルフやオーガもそれ以外の種族も、超光速戦闘が無制限に可能な姫騎士の前には無力だった。


 戦争が終わっても暴力は止まらない。

 滅亡直前まで追い詰められていた人類は、開放感と欲望に突き動かされ、敗者からあらゆるものを奪おうとする。

 財も、命も、尊厳も、何もかもだ。


 という内容の証言を、『穴』をなんとか安定させてきた俺たちを襲ってきたエルフから聞いた。


「なるほどなー」


 レーザーガンの銃口を捕虜に突きつけた俺の後ろで、言い争いが発生している。


「なんでリゼさまの故郷に『穴』が繋がってるんですねぇ」


「リゼの故郷ではなくエルフの故郷です!」


 小柄な艦長とソールの距離が近い。

 宇宙船四隻を連結させて長い間暮らしていれば、人間関係も変化するということだ。


「艦長! こいつ干し肉を持ってます! 自動調理器のアレじゃない食事です!」


 モンスターからのドロップ品で身を固めた艦長が報告してくる。

 時間遡行前は細身のいかにもエリート然とした奴だったんだが、食欲で目を輝かせている今は毛皮と斧を装備した蛮族にしか見えない。

 筋肉でふたまわりほど太くなってるしな。


「もう陛下じゃねえよ」


 モンスターが再ポップした気がしたので、俺は勘に従いレーザーガンを向けて射撃する。

 かつては完全に倒すのはもちろん傷つけるのも困難だった不死鳥が、物理的にも霊的にも急所を撃ち抜かれて絶命する。

 まあ、一週間もしないうちに次の不死鳥が現れるんだが。


「また宝箱か」


 俺は舌打ちする。

 もとの時代のダンジョンと同じように、モンスターを倒せば基本的に出てくるのは宝箱だ。


 このダンジョンは『穴』の封印作業の副産物のはずだった。

 しかしどうやら、このダンジョンが、エルフにとっての力の源(物資の補給源でありレベリングの場所)になっていたようだ。

 封印失敗が数十の星系を巻き込んだ大爆発になる状況だったので、ダンジョン浅層の状況を把握できていなかったのだ。


「死体が残るほうが肉が食えていいんですけどね。中身を回収してきます!」


 蛮族姿の艦長が、やれやれとぼやきながら音速をはるかに上回る速度で跳躍した。


 俺、リゼ、艦長四人、ソールの合計七人は、ダンジョン深層に適応しきっている。

 深層のさらに奥、管理層というべき領域には宇宙船四隻を連結させた『家』が浮かんでいるが、あそこには辛うじて薄っすら封印できた『穴』があるだけなので、適応も何もない。


「ソール? ドッペルゲンガーか?」


 捕虜が呆然としてソールを見ている。

 襲ってきたエルフが千人いても蹴散らせる戦闘力の持ち主だから驚くのも当然だ。


「なんて野蛮な」


 いや、ソールの戦闘力ではなく、非エルフと仲良く喧嘩する姿に衝撃を受けたのかもしれない。


「何を遊んでいる。私が手間をかけた料理を冷ますつもりか」


 リゼが俺のすぐ横に出現する。

 移動のたびに空気が押しのけられて周辺が壊れるのに閉口したリゼは、数年前に移動をテレポートへ切り替えている。

 戦闘時を除いて小さく姿を表している光の翼が、俺だけでなくいつものメンバーに挨拶するつもりで『ぱたぱたっ』と上下した。


 ひゅっ、と捕虜が息を吸い、異常に震えだす。

 まるで、ダンジョン初心者が深層のモンスターを始めて見たときのような反応だ。

 深層まで入り込めるのだから、このエルフもかなりの使い手だとは思うんだが……。


「見覚えがある顔だな。……なるほど、そういうことか」


 リゼは目を細めて、この場にいるエルフだけでなく、中層や浅層も『見る』。

 俺には『モンスター以外の生き物がいる』くらいしか分からないが、リゼなら種族や性別まで分かるのかもしれない。


「人類に追い詰められた他種族が逃げ込んだようだ。こやつは奥を調べるための偵察隊の生き残りだ。死体がいくつか見えた」


 管理層への出入り口はかなりレベルが上がらないと見えないが、捕虜は俺たちを見てしまった。

 深層のさらに奥に何かがあると推測してもおかしくない。


「どうする?」


 殺して証拠隠滅もありだというつもりでリゼを見る。


「『穴』は数日放置してもよかろう。その程度には、安定させた自信がある」


 リゼが静かに断言する。

 時間をかけるということは、基本方針は交渉だな。

 もちろん、補助手段としての暴力は当然ありだ。


「そろそろ精神的に限界だからな。久しぶりに人相手の仕事をするか」


 俺だけでなく、同族が追い詰められているソールまで、獰猛な笑みを浮かべていた。



  ☆



 ダンジョン中層。

 音速以上の速度でモンスターが襲ってくる、普通の人間(エルフやそれ以外の種族も人間ではある)にとっての地獄だ。

 単純に危険という意味でもそうだし、戦勝国に地上から追い払われた敗戦国の民にとっても地獄だ。


「む、う……」


 リゼの手が、ヒートソードの柄に触れる前に止まる。

 単身で中層を蹂躙することなど容易なはずだが、オーガの部族を追いかけ回すドラゴン型モンスターにも、オーガの部族にも攻撃を仕掛ける決心がつかないようだ。


「リゼ、好きにすればいいぞ。何を殺してもいいし、無視して管理層に戻ってもいい」


 俺が話しかけると、リゼが勢いよく振り返る。

 リゼの背中で緊張していた光翼が『よく言ってくれた!』という雰囲気だ。


 帝国なら、エルフもオーガもそれ以外も、ちょっと変わった容姿をしているだけの人間だ。

 リゼの価値観が、この時代の価値観から帝国の価値観に近付いているのかもしれない。


「無視しても、良いのだろうか」


「ダンジョンの外では戦争は終わってるんだろ? もうひとりのリゼがどの程度関わっているのかは分からないが、リゼが関わる義務はないだろう」


 リゼが安堵の息を吐き、代わりにソールが目に強い光を浮かべて俺を見た。


「リゼが手を出さないのであれば、私が彼らを救っても構いませんね?」


 ソールの首には、首も頭部も吹き飛ばせるチョーカーがとりつけられたままだ。

 しかしソールはこれまで俺たちに協力してきた。

 限られた資材とリゼの戦力だけでは『穴』の封印は無理だった。

 ソールが魔法に関する知識で積極的に協力したから、なんとかなった。


「待ったぁ!」


 小柄な艦長が会話に割り込む。

 ソールが、怒りとも安堵ともとれる、中途半端な表情になる。


「ソールもですがぁ、リゼさまも司令も気が抜けすぎですぜぇ。あのハカセと、もうひとりのリゼさまの存在ぃ、忘れてますぜぇ!」


 口調はふざけているが目はこれ以上ないほど真剣だ。

 時間遡行のときの激戦を否応なく思い出させる鋭い気配に触れて、俺は浮ついていたことを自覚した。


「それは、考えすぎではないか? 奴らがいるなら私が気づけるはずだ」


「リゼ。ハカセを甘く見ない方がいい。ここにはギョーショーたち機械人間がいないんだ。俺たちが気づけない技術を使われている可能性もある。……改めて、どうする? 念のため皆殺しにするのも、逆に全員助けて情報を得るのも、放置して深層や管理層で守りを固めるのもいい。艦隊戦ならともかく白兵戦ならリゼの判断が優先だ。決められないなら……」


 リゼの迷いが濃いことに気づいて、俺はリゼと力づけるために大げさに『にやり』とした。


「とりあえずモンスターをぶっ殺そう。助けられたのに突っかかってくるなら殴るなりすればいい。後は流れで、ってのでどうだ」


「そう、だな。そうするか」


 リゼは流されるのではなく、自らの意思で選択した。

 ヒートソードが使われることを確信して勝手に鞘から抜けて、しかしリゼは柄に触れない。


「ソール。我が夫の力を借りて侵入者を落ち着かせよ。私が姿を現せば不必要な戦いが起きかねぬ」


 リゼは剣でも拳でも魔法でもなく、極限まで細くした殺意を中層全体に向ける。

 ダンジョンの外でなら圧倒的強者として振る舞えるはずのドラゴンたちが、リゼの殺意から逃れるために自ら即座に命を絶つ。

 そのあまりに異様な光景に、追われていたオーガも、同胞が食われていたゴブリンも、必死の抵抗を続けていたエルフも、恐怖で震えることしかできなかった。



  ☆



「生き残りはこれだけか」


 俺と艦長たちが、重い息を吐く。

 大陸ひとつの生き残りとしたら、あまりにも数が少ない。

 しかしリゼとソールは困惑顔で俺を見る。


「ポーター。何を言っているのだ」


「当時の人口は銀河共和国時代とは比べものにならないほど少数です。総人口の八割はいます。絶滅戦争の敗戦側がこれだけ生き延びたのは奇跡ですよ」


 リゼとソールが『馬鹿なことを言うな』という態度で俺を注意した。


「ギョーショーの旦那のアレがぁ、ここまで役立ちますかぁ!」


「我々にとっては見るのも忌まわしい代物ですが、彼らにとっては命を繋ぐ奇跡かもしれませんね!」


 艦長たちがにぎやかに話している。

 自動調理器の性能は桁外れだ。

 膨大なモンスターを狩った結果、極少数残ったモンスターの死体を雑に突っ込むだけで、亡国の民全員の腹を満たす料理が生産された。

 味は、文字通りの最悪だがな。


「戦争の決着がついた後は、例の姫騎士は攻撃に参加しなかったそうです。ただ……」


 ソールが、かなり言いにくそうにした。


「我が一族が掃討戦の主力と聞いた。私の……もうひとりの私の功だけでも戦後の地位は万全のはずだ。……欲に飲まれたな」


 大きなため息を吐く。

 光の翼は絶望したかのように、だらりと垂れてしまっていた。


「うん?」


「来たか」


 俺とリゼが同時に同じ方向へ向き直る。

 浅層に、リゼと酷似した気配と、リゼと比べると羽虫未満の多数の気配が入り込んでいた。



  ☆



「リゼが、若いっ」


 動揺した俺の頭を、リゼの手のひらと光の翼が同時に叩いた。

 過去遡行前なら頭が胸まで埋まるか全身が弾け飛ぶレベルの衝撃に耐え、俺は深呼吸して動揺から回復しようとする。


「貴様、何者だ!?」


 人間の軍勢で騒いでいるのはリゼだ。

 ダンジョン深層で目覚めたリゼでも、俺の隣にいるリゼでもなく、この時代で生きている三人目のリゼだった。


 肌や髪が荒れている。

 体の若さなら俺のリゼの方がずっと若く見えるが、未熟さや『己の力に振り回されてる』面で、この時代のリゼの方が若く未熟に感じる。


「私の正体を知らぬなら度しがたい無能だな」


 リゼは冷たい視線をこの時代のリゼに向ける。

 この時代の人間の中では、この時代のリゼは飛び抜けて強いはずだ。

 しかし俺のリゼとは力の差がありすぎて、真っ青な顔になってしまい、倒れないようにするのが精一杯だ。


 俺のリゼがもう一人のリゼにもっと冷たい目を向ける。


「中途半端なことをいつまで続けるつもりだ。戦争に勝利した後に私を迎撃するでもなく、惑星を支配するでもなく、ただの騎士として振る舞う? あまりにも温い」


「貴様に私の気持ちなど分かるものか。私にはもう故郷しかない。故に救った。それだけだ」


「だから過去を変えて我が義母を消し去って平然としているのか」


 俺のリゼが侮蔑もあらわに冷笑し、もう一人のリゼが苦しげな表情になる。

 俺は、お袋の最期の表情を思い出してしまい、心の内側が冷える感触を味わった。


「そんな、ことは……」


 もうひとりのリゼが、おそらく無意識に、俺に助けを求める態度になる。

 俺は、目を逸らしたくなるのを我慢して……もうひとりのリゼの苦しみと、その背中に小さく薄っすら見えている光翼に気付いた。


「えぇっ!?」


 これが大声をあげる。

 もうひとりのリゼがびくりと体を震わせる。

 そして、薄っすら見える光翼が、気づかれたことに気付いて『ぱたぱた』と上下した。


「ポーター?」


 俺のリゼの声が低くなる。

 『私が誰の妻で、お前が誰の夫か分かっているよな?』という、強烈な圧を感じる。


 そんな状況なのに、もうひとりのリゼの光翼は非常にフレンドリーというか、なれなれしい。

 まるで、非常につきあいの長い家族のようだ。


 そのとき、俺の頭に荒唐無稽な考えが浮かぶ。

 光翼は同じものなんじゃないか?


「まさかな」


 ただの妄想だと切って捨てて、リゼの側に立って他のふたりのリゼに対抗する。

 交渉が決裂して戦いが始まったのは、それから数分後のことだった。



  ☆



「くっ。離せ!」


 この時代のリゼがじたばた暴れている。

 ブーツやベルトの一部をレーザーで焼き切って動きが鈍ったところを押し倒した直後だ。

 俺に対する殺意は十分でも、体を動かす癖を俺が知っていてこのリゼは俺の癖を知らないので簡単にこの状況へ持っていけた。


 リゼとリゼは、亡国の民からも人間族からも離れた高度で戦っている。

 余波だけで全員殺せてしまうので、ふたりそろって勝利より手加減を優先して戦っているはずだ。


「リゼふたりとそれ以外だな」


 攻めてくる人間族も、逃げたり応戦しようとする人間族以外も本気ではある。

 だが、高空にいるリゼふたりを除けば、未来から来た俺たちの戦力は圧倒的なのだ。


「ポーター殿。その者はあなたの妻ではないはずですが」


 ソールの視線が冷たい。

 まるで暴行犯に向けるかのような目つきだ。


「本人じゃないのは分かってるさ。感覚としては無断で違法製造されたクローンだ。同一視する気はないが、殺す気にはなれんよ」


 レーザーガンの銃口を背中に当てる。

 殺す気はないのは本気だ。

 抵抗を続けるなら死なない程度に体を破壊する気なのも本気だ。


「くっ……」


 この時代のリゼが体から力を抜いたので、俺は負担にならないよう背中から降りようとした。


「まったく」


 ソールがため息を吐く。

 色気のない寝技で俺を捕らえようとしたこの時代のリゼが、ソールの魔法でぐるぐる巻きに拘束される。


「すまんな。共和国……ではなく、この時代の人間族以外の連中はどうする? ソールに案がないなら、管理層まで誘導した後、ステイシスフィールドを使って未来へ送るが」


「……それ以外、ないのでしょうね」


 ソールが肩を落とす。

 見た目はこの場でも最も幼いのに、まとっている気配はくたびれ果てた老人だ。


「お前たち。一体なんのつもりだ。特にお前だ! 人間族だろう! エルフどもに友や家族を殺されただろう!? もしやエルフに飼われているのか!」


「うーん。最初に会ったときのリゼは、もう少し穏やかだった気が」


「魔王にならずに済んだリゼです。ダンジョン内での対モンスター戦も、エルフ族との死闘も経験していないはずです。なら、こんなものでしょう」


 ソールは話しながら魔法を連続して使っている。

 亡国の民と、彼らを狙う人間族の軍勢との間に、この時代の戦力では破壊しようのない巨大で分厚い石壁を出現させ続けている。


「リゼ同士の決着は本人同士でつけてもらうとして、だ。……どうせ聞いているんだろう。出てきたらどうだ」


 ばさり、と白衣をひるがえす音が聞こえた。

 どこから聞こえたか分からなかったので、俺もソールも放置して亡国の民の誘導に戻る。

 この時代のリゼは、モンスターに襲われない位置まで動かして放置だ。


「俺が、ハカセだ!」


 ステルスを解除したハカセが、やけっぱちな大声で宣言しながら再び白衣をひるがえした。


「この時代でやりたいことは終わったか?」


「何の話だ? 妨害する者がいないこの時代で! やりたい実験は無数にある!」


「本当にそうか? 集めたデータを検証するには、高度な機械と膨大なエネルギーが必要なんじゃないか? それにライバルもだ。研究職同士の成果の競い合いがどれだけ過酷で、過酷だから凄い成果が出るってのは、船乗りの俺でも知ってるぜ」


「……初代議長のようなことを言う」


 ハカセは格好つけるのを止めた。

 自分の体からケーブルを伸ばして、俺のARメガネに突き刺してデータを表示させる。


「この時代に到着して数ヶ月で、やりたい放題やってるな。人体実験は予想よりずいぶん少ないが」


「無用な恨みを買わないのが、長く研究を続ける秘訣だ。俺の表面だけを真似する奴は、恨まれて滅ぼされて終わることが多い」


「俺もかなり恨んでるぜ?」


「無駄話はよせ。用件は何だ」


 ハカセは表情の操作も、声に抑揚をつけるのも止めた。

 ソールは、ハカセの技術力と悪名を知っているようで、ハカセを恐れて手を出せない。


「こちらにはステイシスフィールドがある。大人しくするなら元の時代まで連れて行ってやる」


 いくら殺しても殺しきれるかどうか分からない奴を相手に戦い続けるより、多少譲歩してでも『ハカセに対抗する意思と能力がある奴』がいる時代まで連れて行くほうがマシだ。


「分かった。荷物を……」


「それは駄目だ。今から移動してステイシスフィールドに入るか、交渉決裂のどちらかだ。どうせ最低限の準備は終えてからここに来てるんだろう?」


「分かった」


 ハカセは平然と歩き出す。

 中層から深層へ続く空間には、深層を越えて管理層まで人を運ぶための、『家』から切り離されたランス級が着陸したところだった。



  ☆



「来ないのか?」


「私が同行しても、そこにいる私と殺し合いになる未来しか見えぬ。私はこの時代に残る。達者でな」


 もうひとりのリゼは、この時代のリゼを担いで去っていく。

 この時代のリゼには光翼はなく、担いでいる方のリゼには『元気でねー!』と言いたげに『ぱたぱた』する光翼があった。


 俺は、複雑な表情で見送っていたリゼの背中を、触れる程度の強さで『ぽんぽん』と叩く。

 リゼは大きく息を吐いてから、少し俺に近づき緊張を解いた。


「奴はもう時間遡行はしないはずだ。心が疲れ切っている」


「リゼが言うならそうなんだろう。万一時間遡行をするなら、また止めにくればいいさ」


「ふふ。情報提供やナビゲート抜きで時間遡行すれば迷子になるだけだ。そこまで馬鹿なら始末する必要もないということだ」


 ふたりで『フリーキャッスル』に乗り込み、管理層へ移動し、深層との出入り口を封じてから味方と合流する。

 『フリーキャッスル』を除く全ての艦を分解して組み上げた居住区は、古代の大陸ひとつの人口を詰め込むには狭すぎる。

 数日ももたずに暴動が発生するだろう。


「これよりステイシスフィールドを発動する! 目標の時間に到達する前に外部から妨害があった場合は即座にフィールドが解除される。戦闘員は戦闘可能な状態を保て!」


 圧倒的な技術力で責任者の立場を得たハカセが、号令をかける。

 フィールドの展開速度は圧倒的で、俺は発動の瞬間を認識できなかった。



  ☆



「おかえりなのです! 僕にとっては別れた直後なのでびみょーなのです!」


 あまり喜んでいない顔のギョーショーが、ステイシスフィールドの範囲外に現れる。

 嬉々としてダンジョンから出ようとするハカセを、血相変えて現れた機械人間たちが捕縛していた。

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