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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
最終章

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63/66

消えゆく現在。現実改変を阻止するため、俺たちも過去へ跳ぶ

 ハカセを除いて誰一人死ななかったのは奇跡だ。

 全員が新スティレット級に戻り、途中で肉塊艦と合流して、ダンジョン深層の出入り口を目指す。


「ギョーショー、操縦は任せた」


「がんばるのです!」


 情報統制や今後の方針の決定など、皇帝としてやるべきことは無数にある。

 だが、俺にとって、皇帝としての仕事や義務より、俺と今までやってきたリゼの方が大事だ。


「……艦長?」


「いいから休め。眠くなるまで近くにいてやるから」


 リゼの背中にそっと触れると、光で構成された翼が『にゅっ』と目の前まで延びた。


「すまぬ。力の制御が、うまくいかぬ」


「気にするな。格好良いし、可愛くもあるぞ。なによりリゼに似合っているしな」


 リゼは白い頬を朱に染めて目を伏せる。

 最大の大きさではないがいつもよりは小さい光の翼が、自らを誇るように広がった。


「そういえば……」


 あの姫騎士には光の翼がなかったなと内心で考え、俺の思考を察したリゼが機嫌を損ねた。


 慰める場面で他の女のことを考えるのは論外だ。

 たとえ、異性としては全く惹かれない相手でもな。


「すまん」


 光の翼に促されて、リゼと共に歩き出す。

 目的地は寝室だ。

 時間ぎりぎりまで……正確には部下たちに強引に呼び戻されるまで、俺たちは夫婦の時間を過ごした。



  ☆



「確認をお願いするのですわ!」


 エイルがARメガネにデータを送りつける。

 新スティレット級はとっくの昔にダンジョンの外に出ていて、ダンジョン惑星地表で補給を受けている最中だ。


「ひと眠りしてからでいいか?」


「わたくしが冷静でいられるうちに仕事を再開して欲しいのですわ」


 リゼと比べれば弱いとはいえ、生身で艦と戦える力を持つのがエイルだ。

 俺は降参のポーズをとって、既に動き出した計画を追認する作業を始める。


「すまぬ。遅くなった」


 リゼがすっきりした表情で操縦室に現れる。

 珍しく鼻歌を歌っていて、背中に小さく現れている光の翼が、鼻歌のリズムで『ぱたぱた』している。


「この歌もタイムトラベルの成果なのです!」


「ギョーショー。これはエイルが視聴していた動画の歌だぞ?」


「その動画が古代の地球……たぶんリゼさんたちとは別種の肉人間の、一つの星に住んでいた時代のものなのです。今の肉人間だとたぶん作れないのです!」


「古代と現代なら、現代の方が良いものを作れるんじゃないか? 金銭的には希少価値の分、古い方が高価かもしれんが」


「陛下。創作は簡単なものではありませんわ!」


「霊的素養の劣化とか、いろいろあるのです」


 エイルとギョーショーは息があっている。

 趣味の一致も、相性の良さの理由のひとつなのかもしれない。


「しかしずいぶん金を使ったな。ハカセ対策なら仕方がないとはいえ……」


 俺はARメガネで確認した計画とその予算を改めて見て、頭が痛くなった。

 艦隊の動員。

 高度な技術を使用する宇宙港の新造。

 どれもエイルに渡した権限の範囲内ではあるが、かなりの額だ。


「ポーターさんポーターさん。ハカセが好き勝手するのを防ぐなら、契約国連合が全力を出すとかしない限りどうにもならないのです!」


「ですから、ふたりめのお姉さまが、時間遡行を除く全てを阻止してくださると決めつけた上で計画を立てました」


 エイルは覚悟を決めた表情だ。

 俺もリゼも不在で、帝国全体を支配し動かし責任をとるということは、凄まじい責任とストレスを伴う。


「よし。これで全部追認だ。よくやったエイル」


「あっ、ありがとうございます!」


 えへへと可愛らしい声で喜ぶエイルを見て、俺も嬉しくなる。

 その直後にリゼとギョーショーから冷たい目を向けられて、俺は慌てて咳払いした。


「忙しいだろうが追加で頼みがある。……姫さんの本人確認手段を切り替える。遺伝子だけでは不可にしろ。気配だけで顔パスもなしだ」


「ふたりめのリゼさんが忍び込むのです?」


 ギョーショーが小首を傾げる。


「念のためだ。あっちの姫さんが何もしなくても、ハカセやハカセの亜種がたくらむ可能性はある。で、だ」


 俺は、これまで避けていた話題に触れることにした。


「時間遡行って何なんだ」


「アニメで見たことないのです?」


 ギョーショーは心底不思議そうな顔をする。


「フィクションなら何度かあるが、現実には不可能じゃないか? 色々無視してもエネルギーが足りないだろ」


「んー。銀華議員の反応も『ある』証拠ですけど、それ以上の証拠もあるのです。契約国連合の本拠地とエリート肉人間さんたちの居住地って、不思議パワーでの改変がし辛い場所にあるのです。維持に馬鹿みたいなコストが必要な基地と居住地がなんであるのか分からなかったですけど、過去遡行からの過去と現在の改変が『ある』なら、コストを支払う意味があるのです」


「陛下に許可を頂いた『特殊宇宙港』がその廉価版ですわっ!」


 素の頭の性能はギョーショーやエイルの方が俺より上だ。

 俺に嘘を言う意味がないふたりが言う以上事実なんだろうが、感覚的には納得し辛い。

 こっそりリゼを見ると、リゼも背中の光翼も『なるほどな』という感じで頷いたり『ぱたぱた』していた。


「収容可能人数は多くないですけど、帝国の戦力と僕の生産力を維持するための人材を、なんとか詰め込める計算なのです!」


「わたくしとお姉さま、ぎりぎり陛下とギョーショーさんまでは、改変に自力で耐えられる計算ですわ」


 ギョーショーの技術的ブレーン集団であるチョーカー機械人間たちが、得意げに胸を張ったり親指を立てていた。


「そうか。艦長連中やエルザあたりはダンジョンに放り込んでおこう。次に……」


 俺は、非常に言いづらいことを、口にした。


「もう一人の姫さんを止める手段、あるか?」


 ギョーショーもエイルもチョーカー集団も目を逸らす。

 リゼと光翼は『何か知恵があるのだろう』という信頼の目と気配を俺に向けている。

 いや、俺も全く思い浮かばないぞ?


「……ハカセとリゼさんのバージョン違いが組んだら、打つ手がないのです。圧倒的技術力と圧倒的個人戦闘力の組み合わせは卑怯なのです」


 ギョーショーの目が、光らないどころか曇っている。

 俺も同じ意見だが、口にしたら帝国首脳部の士気が壊滅しそうだから言えない。


 非常に居心地が悪い沈黙が数分間続き、そして優先度が極めて高い通信要求が届く。

 センパイ大使からだ。


「緊急事態であるため前置きを省かせて頂きます。契約国連合が、この銀河への渡航を正式に禁止しました。今後渡航してくる者は、契約国連合の庇護下から外れます」


 不意打ちじみた情報だ。

 だが、センパイ大使の気配が戦争中のそれだから、俺は戸惑うことなく情報を受け取れた。


「他には?」


「渡航禁止の理由は、明言はされていませんが現実改変に巻き込まれるのを防ぐためです。また、銀華議員に対して最優先の帰還命令が出ています」


「……捕まえてあんたに引き渡した方がいいか?」


「可能であれば是非。現実改変に耐えられることと、変化後の情勢に耐えられることは別です。我々は銀華議員を失うわけにはいきません」


「分かった。広域放送で呼びかけて戻って来なければ、迷子の案内でもしてやろう。お隣の銀河からお越しの銀華お嬢さま、保護者の方がお待ちです、ってな」


「ポーターさんってたまに人のトラウマを直接攻撃するのです!」


「陛下。それはやめて頂けると……」


 ギョーショーは何故かわくわくして、センパイ大使は表情こそ変えないが焦っている。

 これはまさか、銀華議員がガキの頃に迷子案内で大恥をかいたとかそんな感じか?


 俺が悩んでいるうちにも通信要求は大量に届いている。

 国内の有力勢力の代表者や閣僚級以上に限っても数が多すぎて、俺は後の面倒を覚悟の上で後回しにしていた。


「んげっ」


 だが、完全に予想外の場所からの通信要求を見て、奇声をあげてしまった。

 反射的に許可を出す。

 すると、ARメガネだけでなく、操縦室の一番大きな画面に、十数年見ていなかった顔が映し出された。


「ポーター! あなた本当に皇帝になったの!? 同姓同名の人と思い込んでたわよ!」


 俺の母親だ。

 現役時代に俺ほどではないが色々やらかして、現役引退と同時に遠方の星系に移住して隠れ住んでいる。

 俺が皇帝になった後は敵対勢力に人質にされる恐れもあったが、下手に俺や帝国が動くよりそのまま隠れている方が安全と判断して、特に連絡はとっていなかったんだ。


「しかし老けたわねえ」


「母さん……は変わってないな。顔変えた?」


 妙に若々しく感じる。

 肌や髪や顔を変える手術は手頃な価格で可能だから、そういうことだろうか。


「現役時代と比べるとストレスのない生活だからねえ。そんなことより、結婚したなら知らせなさい! あなたがリゼさんね!」


 俺と似た顔が笑み崩れる。

 尊崇でも忠誠でもない視線を向けられたリゼは、慌てて姿勢を正す。

 つきあいの長い俺でも初めて見る態度だ。


「ご挨拶が遅れてしまい……」


「そういうのいいから! 性格が尖りすぎたうちのポーターをもらってくれるだけで十分よ!」


 親がはしゃいでいるのを見て恥ずかしがるほど、俺は子供ではない。

 だから、慌てて親を止めたのも、恥ずかしさ故ではない。


「母さん。今は本当に時間がないんだ。それと、一度俺と直接会話した以上、いずれどこかで母さんの情報も漏れる。艦隊を向かわせるから俺と合流してくれ」


「私を隠居所から追い出すつもり? まあそれは後で話すとして、ポーターに相談があるのよ。サイボーグだかアンドロイドだかよく分からない子が三人も訪ねて来てね。私らのご先祖さまのことを知りたいらしいんだけど、教えていい? ご先祖さまのことは別に秘密でもなんでもないけど、ポーターが気にするかも知れないと思ってね」

「お邪魔してます」


「「ます!」」


 銀華議員とその護衛たちが、お袋がいる応接間のソファーに、礼儀正しく座っているのが見えた。



  ☆



「ご先祖さまのホラ話だと思うんだけどねえ」


 お袋の話は作り話にしか聞こえなかった。

 内容が、俺が仕事中に同じ部屋でギョーショーが見ていたアニメに良く似ていたからだ。


「異世界転移なのです!」


「ギョーショーさん。現実とファンタジーを混同すべきではないのですわ」


 ギョーショーが騒ぎ、エイルがツッコミを入れ、チョーカー機械人間たちは送られてくるデータを必死に解析している。


「銀華議員。無断で肉親を訪問されると、懸念を抱いてしまうんだが」


 俺は銀華議員に釘を刺す。


「事前の相談がなかったことについては謝罪します」


 銀華議員の謝罪は本物だった。


「ですが、ハカセが陛下のご家族を『調べる』恐れがありました。陛下の遺伝子は、現在のこの銀河の人間とはかなり違います」


「……えっ」


 初耳だ。

 ギョーショーを見ると肩をすくめられ、チョーカー機械人間を見ると『今まで気付いていなかったの?』という顔をされた。


「それに、ですね。皆さんが『あれ』と言っているのは、有人の時間遡行の際に遭遇する生物です。それが通常空間に大量にいるということは、過去遡行が異常な頻度で行われた可能性があるということです」


 銀華議員から送られてきたデータは、たいした量ではない。

 俺の家系は、俺を除けば小惑星ひとつすら所有していない。

 お袋が所有する、電子化済みの古文書のデータが大部分だ。


「あったっす!」


「原始的な位相跳躍の特徴と一致しました。位相の深度は時間移動可能な水準です!」


 チョーカー機械人間たちは盛り上がっているが、俺やリゼだけでなく、ギョーショーやセンパイ大使も困惑している。


「つまり、どういうことだ?」


 俺が代表して尋ねると、チョーカー機械人間ではなく、銀華議員が説明を引き受けた。


「時間遡行のデータがあれば、時間遡行の試みは比較的容易に行えます。問題は遡行中の迎撃と、目的の時間の特定です。前者はリゼさんがいればおそらくなんとかなります。後者も、ハカセたちが移動した直後であれば目的地の特定も容易になるはずです。理論上は、ですが」


「情報提供に感謝する。……時間遡行して追いつけたとしても、もう一人の姫さんとハカセを止められるかという問題があるな」


 俺は苦笑して、リゼを見て、次にお袋を見たつもりだった。

 しかしそこには誰もいない。

 応接室も消えて、何もない荒野に銀華議員と護衛だけが立っていた。


「……艦長。改変は、まだ始まったばかりだ」


「そう、か。これは、一言文句を言ってやらないと、気が済まないな」


 平然とした態度を保とうとしても、顔が引きつり発声が乱れる。

 俺は、『フリーキャッスル』にギョーショーから買い取った装置を取り付け、物資を積み込み、時間遡行の準備を始めた。

次回更新は5月20日の予定です!

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