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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
最終章

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62/62

復活した古代の姫騎士は、狂気を両断して過去へと跳躍する

「姫さんのコピーかオリジナルかは知らんが、まだ生きてるのか?」


 聞きたいことはいくつもあるが、最優先で聞くべきことを聞く。

 よほど利害が対立していない限り、助けられる奴は助けるのが船乗りの不文律だ。


「っ……。艦長」


 リゼは予想以上に動揺している。


「しっかりしろ、リゼ。俺のパートナーはこれまでさんざん俺をふりまわしてきたリゼだけだし、帝国の象徴も、お前だけだ」


「う、あ、あぁ。すまぬ。無様を見せた」


 リゼは、少なくとも呼吸の乱れからは回復した。

 石像の直視は難しいようだが、周囲が見えるようにはなっている。


 気持ちは分かる。

 艦のセンサーを介して見ている俺でも圧迫感を感じている。

 その場にいるリゼたちは壮絶なプレッシャーを受けているはずで、その上リゼにとっては己の本体かもしれない存在だ。

 意識を保てているだけでも、十分以上に凄い。


「ソール。一応言っておくが、その石像を壊そうとはするなよ。共和国相手の全面戦争はしたくないだけで、必要なら今すぐでも始めるからな」


 ソールだけでなく他のハイエルフたちの目つきが非常に不穏だったので釘を刺す。

 俺に、石像やその中身が大事とかそういう意図はない。

 リゼ以上の武力の持ち主として復活する可能性があるなら、うかつな行動は死に繋がると判断しているだけだ。


「今なら殺せます」


 ソールの全身に小さな火花が散る。

 今すぐにも強力な魔法が発動してもおかしくない。

 ソールはまだ自制できている方で、他のハイエルフは共和国の艦に攻撃命令を下そうとして、リゼに殺気を向けられ硬直していた。


「本当にそうか? 今も石像のふりをしているだけで、あんたたちや俺たちを観察しているだけかもしれんぞ」


 ソールが小柄な体を震わせる。

 他のハイエルフは恐怖に駆られて手持ちの銃を石像に向けようとして、リゼにその場で取り押さえられる。

 ここにいるハイエルフは、おそらく生身でもランス級を相手に戦えるほど強い。

 だが、ランス級よりはるかに強い新スティレット級の艦隊と戦えるリゼと比べると貧弱エルフでしかない。


「リゼ。どういう決断をしても俺はお前の味方だ。その上で聞いてくれ」


 俺は一度だけ深呼吸する。


「ひとりで抱え込むな。俺を含めて他人を利用しろ。俺もギョーショーも帝国もリゼの世話になりっ放しなんだ。たまには利用しないと釣り合いがとれないぞ」


 意識して気楽な口調で、俺の本音を語る。

 一般的帝国人はそこまで考えていないだろうが、リゼのおかげで帝国が成立していて国民まで恩恵を受けているのだから、巻き込まれても文句は言えないはずだ。


「ポーターさん! リゼさんもです! のんびりせずに早く決めて欲しいのです!」


 ギョーショーが騒ぎ出す。

 目も激しく点滅している。


「ギョーショーさん? この時代まで復活していないのですから、自然に復活することはないと思うのですわ」


 エイルはギョーショーを諭そうとするがギョーショーは止まらない。


「ハカセならなんとかしちゃうのです! 技術の頂点なのです! 最新型のステルス艦でこっそり忍び寄っているかもしれないのですっ!」


 シリアス顔で訴えるギョーショーだが、長い付き合いの俺とリゼは『こいつ思いつきで言ってるな』と判断する。

 エイルもそれは分かっているはずだが、俺やリゼより人が良いので『本当にそうなのかも』という顔で、周囲を見渡していた。


「……よくぞ見破った!」


 石像の頭上方向、大型の艦が数隻の分の距離に、円錐形の艦が突然現れる。

 その先端に器用に立つ機械人間が、『ばさり』と音をたてて白衣をひるがえした。


「俺がハカセだ!」


 顔も体格も、機械人間としては平凡かそれ以下だ。

 しかし瞳から感じ取れる知性と狂気が、俺が知っているどの肉人間よりも濃く、そして強い。

 わざわざ重力を発生させて艦の先端で格好をつけているのを含めて、可能なら一生無関係でいたい奴だ。


「どこなのです!?」


「ギョーショーさん! たぶんあっちなのですわ!?」


 焦ったギョーショーとエイルが別の方向を見ている。

 相手を煽る目的でやっているなら構わないんだが、多分気付いていない。


「俺がっ! ハカセだっ!」


 再度白衣がひるがえされる。

 音量は、前回と比べて一回り大きくなっている。


「……自称ハカセさんよ。入国許可もダンジョンへの入城許可も出した覚えがないんだがな」


 俺は呼びかけながら、艦をマニュアル操作に切り替える。

 センサーはそのままだが自分自身の五感をハカセへ向けて、いつでも攻撃可能な状態を保つ。


「陛下ぁ。いつでもいけますぜぇ」


 新スティレット級の艦長たちも準備完了済みだ。

 俺の命令より早く動き出す程度には、練度が高い。


「ジャバウォック銀河帝国は特定位相の領有権を主張していない! 主張しているのはこのダンジョンの入口のみ! 故に、自力でダンジョンに侵入した俺は完全に合法だ!」


 ハカセは主張しながら白衣をひるがえす。

 言っていることは半分も理解できないが、俺の頭でもこいつが『俺たちの利益など無視して好き放題やるつもり』ってことは分かる。

 これで平凡かそれ以下の能力しかないならただの馬鹿なんだが、こいつが引き起こすトラブルの規模と危険さは、まさに災厄だ。


 そんなハカセが一点を凝視している。

 それはリゼではないし、もちろん俺でもない。

 石化された後、ずっと石のままの、姫騎士だ。


「改めて名乗ろう! 俺はハカセ! 契約国連合国営放送の解説にしてトップ研究者だ!」


 非常に、馬鹿っぽい名乗りだ。

 なのに恐ろしいほどの説得力がある。


「陛下ぁ。こいつ本当に超大国のお偉いさんなんでぇ?」


「ギョーショーとセンパイ大使と銀華議員の全員が俺たちを騙しているなら、嘘だろうな」


「ギョーショーの旦那は騙される側ではぁ?」


「……それ、本人には言うなよ。あいつも結構気にしてるんだ」


 俺と艦長は個人用の回線を使っている。

 なのに、ギョーショーとハカセが、まるで聞こえているかのように……実際に盗聴して聞いているんだろうが……俺たちをちらりと見ていた。


「姫さん」


 リゼは俺の合図に直接は答えない。

 ただ、既に戦闘が始まっているときの合図を目で送ってきた。


 だから俺たちは待つ。

 ハカセは待たない。

 三角錐の艦を蹴って、石像の直ぐ側に着地しようとして足をすべらせて尻もちをついた。


「助け起こしてくれてもいいぞ!」


「エイルさん。埋めるのです」


 ビームをぶっ放そうとしたギョーショーがエイルに止められている。

 リゼはソールを促し、石像からもハカセからも距離をとっている。

 ハカセは何もなかったかのように立ち上がり、ヤバイ目つきで石像に近づく。


「安定性最優先の視覚パーツでも分かるほどの力! 素晴らしい実験動物だ! では早速」


 白衣から瓶と細い『筆』を取り出す。

 瓶の形状は自動調理器用のカートリッジにそっくりなのに、透明なカートリッジの中に詰まっているのはダンジョンでとれるポーションの中でも特に強力なものに酷似している。


「おいギョーショー!」


「横流しはしてないのです!」


「正規な手段で購入したとも! 万倍の関税がかかっても、値があるなら買える! 総資産の一割は少々痛かったがな!」


 細い筆にポーションを垂らす。

 そして、不時着の際の無様さからは想像もできない、あまりにも繊細で美しい動きで、精緻な文様を石の肌へ書き込んでいく。


 最も表情を変えたのはソールで、その次がリゼだ。


「神聖魔法の儀式陣!? 宇宙進出以前に失われたものが何故っ」


「私を石化したエルフが使っていた紋様だ。あのとき、足元までびっしりと広がっていた記憶がある」


 動揺するふたりとは逆に、ハカセは美しい書き込みを平然とした態度で続ける。


「秘匿したい技術を、間接的といえネットワークに繋がった場所に置くべきではなかったな! そのものはなかったが、残った技術をもとに復元するのは容易だとも!」


 ハカセは、いきなり筆を止めて目を瞬かせる。


「……まあよし! これでどうだ!」


 一気に最後まで書き上げ、カートリッジに残ったポーションを無造作に石像へかける。

 ポーションは石に吸い込まれるようにして消える。

 石像は、身につけている姫騎士装束は石のまま、肌も髪も生きた人間のそれに変わっていく。


「ひっ」


 ハイエルフが逃げ出す。

 ソールは、本人は耐えたつもりなんだろうが、足は震えて顔は今にも死にそうなほど青白い。


「超古代の肉人間よ! 俺と実りある交渉をっ!」


 ハカセの声が途切れた。

 ハカセの頭から股まで両断されて左右に倒れた。

 魔力の光で包まれた姫騎士のチョップが、ハカセを文字通りに真っ二つにしていた。


「センサーに反応なし。俺の感覚でも完全に死んだな」


 これでハカセが完全終了なのが一番いいんだがな。

 望み薄だが。


「……邪気を撒き散らしていたのでゴーレムを破壊したが、宝箱に変わらないとはどういうことだ。そこの人間種の男。私の言葉が分かるか?」


 姫騎士の言葉は、リゼが使っていた言葉と同じだった。

 だから、自動翻訳機が正確に翻訳する。

 リゼと全く同じ声なのに俺のことを知らない声は、違和感がすさまじい。


「分かる。事情は説明するから、食料と衣服を受け取ってもらいたい」


 騙そうとは考えない。

 相手が最低でもリゼと同程度に強そうだって理由もあるが、『リゼと同じ顔の女性がまともな服も味方もいないまま一人』ってのも同じくらい嫌なんだ。


 リゼが複雑な感情がこもった目を俺に向ける。

 俺は『埋め合わせをする』という感情を込めて平身低頭だ。


「ギョーショー。全力でもてなしてくれ。裏の意味はない。いいか、全力でだぞ」


「任せておくのです!」


 ギョーショーが『ぴかー』と目を光らせて断言する。

 リゼと同じ顔の姫騎士が、胡乱なものを見る目をギョーショーに向けていた。



  ☆



「異国の人間種よ。心遣いに感謝する」


「感謝を受け取る。遭難者を助けるのは船乗りにとっての最低限の義務だ。俺の事情でしたことだから、気にしないでくれ」


 もっと考え抜いた言葉で懐柔すべきなのだろう。

 部下や同盟者として有能な肉人間や機械人間が大勢いるので、協力してもらうべきなのだろう。

 だが俺は、それをすると関係が不可逆に終わると直感していた。


「そうか」


 姫騎士は穏やかな表情に見える。

 リゼの体を参考に、無害な水、食料、衣服、その他体を拭く蒸しタオルから椅子まで受け取り、しかし実際は緊張を解いてない。


「私はリゼ。見ての通り、人間だ」


 ピンクの髪と、目立つ金の瞳孔。

 背中に翼はなく、魔剣も魔王の剣を持ってない。

 リゼより普通の人間に見えるはずなのに、その巨大すぎる存在感が、ただの人間であることを否定する。


「俺はポーター。俺が住んでいる銀河では、俺は人間に分類される。この場にいる全員も同じだ」


 姫騎士が少しだけ眉を動かす。

 不愉快に耐えているような、不穏な表情だ。


「私の目にはゴーレムと雑種にしか見えぬ」


 エイルは怯え、ギョーショーは機嫌を損ねる。

 殺気を抱かぬよう努力しているリゼの近くで、チョーカー機械人間たちが盛り上がっている。


「新種の謎生物っす!」


「至近距離で観測できるなんて、なんて幸運!」


「ギョーショー、こいつらを艦の船倉に閉じ込めておいてくれ」


「言われなくてもするのです! ほら! こっちに来るのです! 機械人間の恥をさらすななのです!」


 チョーカーが光り、チョーカー機械人間たちの意識が強制的にシャットダウンされる。

 ギョーショーとエイルが、雑に足か腕を掴んで引っ張っていった。


「身内の失礼を謝罪する」


「身内?」


 比喩的な意味で金の目が光る。

 新スティレット級から降り、姫騎士の眼の前に立つ俺は、過去最悪の命の危険を感じる。

 リゼが……俺のパートナーが動こうとしたのを感じて、待機するよう身振りで懇願した。


「そうだ。石化前のあなたの時代と比べて、種族間の遺伝的交流が進んでいる。単一種族で国を作るのは非現実的だ。一つの種族として最大の力を持つハイエルフ族……あなたにとってのエルフ族も、ここでは少数民族でしかない」


「それを信じろと?」


「事実だ。信じる信じないは関係ない」


 姫騎士を否定するためではなく、事実だけを口にする。

 彼女は、おそらく目覚めた直後のリゼと、力を除けば同じだ。

 違うのは、目覚めたときの環境だ。

 俺も、当時と比べれば体は老いたし、リゼと時間を共にして価値観も変わった。


「……ポーター殿が嘘が言っていないのは、承知した」


「今はそれでいい。あなたが今後どうするにせよ、俺と帝国を利用して情報を集めるのが最も効率が良いと思う」


 足の位置を少し変える、

 無意識にリゼに近付いたが、リゼとの距離が予想より近い。

 リゼも俺に近付いたようだ。


「その者がいる場所で、か」


 姫騎士がリゼに向ける目は複雑だ。

 憎しみというには熱がなく、無関心というには意識が向きすぎている。

 武力でならこの場を圧倒できるはずの姫騎士が、緊張したリゼよりも追い詰められているように見える。


「人間同士に相性があるのは当然のことだ。適度な距離を保つのが、まともな人間ってものだと思うぞ」


「……そうだな」


 姫騎士が小さく浮かべた笑みは、どこか寂しそうだ。

 それまで、姫騎士とリゼの中間地点でバグったように制止していた魔剣が、姫騎士に声をかけようとしていた。


「待て、そこの超古代の肉人間!」


 死んだはずの機械人間の声が大音量で響く。

 声の源は、外部からクラッキングされた俺のARメガネだ。

 とっさにARメガネをはたき落としたが、耳がとても痛い。


「技術後進国には貴様の求めるものはない! 俺は、時間を遡る方法を知っている。遡行経験もある!」


 そのあまりに荒唐無稽な内容に、俺は呆れると同時に腹が立った。


「おいハカセ! 嘘を言うならマシな嘘にしろ! 未来に行くならともかく、過去に行ける訳がないだろう!」


 姫騎士を騙すための嘘だろうが、故郷も人間関係も失った姫騎士に書ける言葉としては惨すぎる。


「俺はハカセだぞ! 本当にできるに決まって……クソっ!」


 声が唐突に途切れた。

 俺が知覚可能なぎりぎりの距離で、知覚にいる円錐形の艦と同型の艦が肉塊艦に撃破されていた。

 再び完全に死んだ感覚があった。


「まさか二度も体を乗り換えることになるとは!」


 直後にARメガネからの大音量が復活する。


「寿命延長ポーションの産地への介入はハカセといえど許可できない。即座にダンジョンと帝国から退去しろ」


 通信越しに銀華の声が響く。

 酒を飲みながらぼやいていたときの声とは全く異なる、強制することに慣れた支配者の声だ。


 それまで通信越しに騒いでいたチョーカー機械人間たちは完全に沈黙し、ギョーショーも緊張した顔でエイルの陰に隠れている。

 機械人間の中でただ一人、ハカセだけが楽しげに笑う。


「こやつが、時間遡行技術を独占している一家の一員よ!」


「にゃっ!? 嘘を言うな!」


「タイムトラベルできるって、ただの噂じゃなかったのです!? 作風が異次元のアニメの出所って、まさかなのです!?」


 銀華が動揺し、ギョーショーがそれ以上に動揺している。

 こいつら寸劇でもやってるのか?

 でもこいつらの性格だと本心から発言しているのかもしれん。


「超古代の肉人間よ! お前ほどの格があれば、嘘を言っているかどうか感じ取れるはずだ! 時間遡行技術が存在するかどうかも、俺が嘘を言っているかどうかもだ! 私と組め、超古代人の肉人間よ!


 代わりがあるとはいえ二度も殺されたハカセは、この場において武力では弱い。

 しかし今、この場で主導権を得ているのはハカセだ。


「ポーター殿」


「奴とは組まない方がいいと思うぞ。あれはどう考えても、自分の欲が最優先だ」


「それ故に、道具として使い潰しても心が痛まぬ。……貴公と会えたのは、嬉しかったよ」


 姫騎士が超光速で立ち去る。

 三隻目の円錐艦が出現し、そこから姫騎士の気配が感じられるようになる。


「上位存在のてがかりを目指すフィールドワークで、時間遡行の最重要パーツが手に入るとはな! 超古代の肉人間よ! 望むものは与えてやるぞ!」


「何を勘違いしている」


 姫騎士の冷たい声と機械人間が握りつぶされる音が、重なって聞こえる。


「貴様が道具に徹するなら、私が目的を達した時点で解放してやる。……出発しろ」


 円錐艦がダンジョン深層から消え去る。

 姫騎士の気配も、ハカセの気配も、ダンジョンのどこにも存在しなかった。

次回更新は5月16日の予定です!

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