ギョーショーの昔馴染みは、超大国の中央評議会議員!? ハカセの野望を叩き潰すため、深層最奥に先回りせよ!
「すごいですわ!」
エイルが目を輝かせている。
ここはダンジョン深層だ。
敵も味方も超光速が基本であり、惑星上なら人間が生きるのに必須な『大気』が、致命的な障害物になる危険地帯でもある。
だが美しい。
惑星サイズの地形が独特の理に従い延々と続いていて、見る者を狂気に落とすことすらある魅力的な光景になっている。
『地表』から離れると、数千光年進んでも特別な地形はない。
多様な『大気』とそれ以上の多様なモンスターが生息する、最低でも四次元的に広がる超特大空間だ。
正直、俺の頭では『だいたいこうなっている』くらいにしか理解できない。
「このあたりまで来ると、三次元で収まっているモンスターの方が少ないんだよな」
俺たちがいまいるのは新スティレット級の操縦室だ。
俺、リゼ、ギョーショー、エイルが乗り込むだけなら十分な広さがあり、魔剣も我が物顔でリゼの隣の席を占拠している。
「陛下ぁ、無駄口叩いてないでぇ、操縦に集中してくだせぇ」
もちろん一隻ではなく、俺を含む八人の新スティレット級艦長が編隊を組んでいる。
逃げに徹すればこのあたりの超高速モンスターから逃げられるほどの速度と加速力があるとはいえ、暗殺者や誘拐犯が怖い。
ハカセが具体的に狙ったのは『まだ受精卵すら存在しないリゼの子供』だが、ハカセが最も欲しているのはリゼと魔剣である可能性が大だ。
リゼが帝国で最強であり、この銀河で最強あるいは最強格のひとりなのは間違いないが、相手は技術でも財産でも帝国を上回る個人だ。
甘く見ることは破滅を意味した。
「艦長、見えるか」
リゼの態度に甘さはない。
俺を名前で呼ぶのはプライベートのときだけだ。
「ああ。完成しているな」
「契約国連合規格の宇宙港なのです!」
帝国が数ヶ月かけて運び込んだ資材の山が、宙に浮かぶ巨大建造物として完成している。
古代に存在したという、地上専用車両用の『駐車場』がある商業施設になんとなく似ている。
「古代のホームセンターに似せた超絶不人気設計なのです! 技術使用料が安いだけじゃなく改造まで許可されている設計の中では一番まともなのです!」
「私が生きていた時代と地続きの古代とは思えぬな」
「隣の銀河の古代と思うぜ。それじゃ降下するぞ」
俺は新スティレット級を『駐車場』の中の区切られた一区画に『駐車』させる。
もちろん古代の『駐車場』そのままではなく、質量や慣性を制御して、整備も可能にするための設備もある。
ひとつひとつの『駐車スペース』も、大きさは艦サイズだ。
俺の新スティレット級に続いて、七隻の新スティレット級とここまで護衛してきた『フリーキャッスル』が順番に『駐車』していく。
その隣には、眼球と肉肉しさが目立つ艦がいくつも並んでいた。
「ギョーショー。この種類の艦も作るようになったのか?」
「発注がぜんぜんないので最近のカタログには載せてないのです! ……ポーターさん、これ、使い込まれている気がするのです」
「肉が日焼けしているようにも見えるな。宇宙線でこうなったなら、相当使い込んでいるな」
まさか、隣の銀河からやって来たのか?
帝国に直接やってきた艦は把握しているが、その中には含まれていない。
「ギョーショー。私の目には、出入り口が最初から存在しないように見える」
リゼが戸惑った顔で言う。
背中に少し現れた光翼は、興奮を隠さず『ぱたぱたっ』と上下している。
「盗難対策で入り口を装甲で覆ってるだけだと思うのです。遠隔で動かす艦だと思うのです!」
自信たっぷりに断言したギョーショーの眼の前で、艦の目玉が警戒を促すように明滅する。
俺や艦長たちは即座にレーザーガンを構えるが、リゼが全く態度を変えないのを見て安全装置をかけ直す。
「これ、壊れたのです?」
リゼの様子に気づかず目玉に手を伸ばしたギョーショーが、エイルに抱え上げられて後退させられる。
その直後、直前まで何もなかった中空に人間が現れ、体格の割に大きな音を立てて『駐車場』に着地し、俺たちを見て驚いた。
「みゃっ!?」
発音は猫っぽいのに耳は犬耳だ。
気づいたギョーショーが指を指して「あーっ!」と驚いて、エイルに真顔で注意されていた。
「大勢で取り囲むような形になってすまない。俺はポーター・ジャバウォックで、一緒にいるのは家族と護衛だ」
「失礼しました! 僕、じゃなくて俺、お嬢の護衛の白です!」
小柄な白犬耳少年が、元気一杯で挨拶してくる。
服装は軍服だがデザインに見覚えがない。
「あの服、どこかで見た気がするのです」
「ギョーショーさん、本人の前で失礼ですわ。それに、ギョーショーさんならこれまでに見た服すべてを記憶するのも簡単では?」
「容量は限られているので大事な記憶優先なのです! エイルさんの活躍最優先なのです!」
ギョーショーとエイルは、本人たちは小声で話しているつもりらしいが、俺でも聞き取れるということは全員に聞こえているはずだ。
最近ふたりとも緊張感が抜けている。
ときどき、見た目通りの年齢の子供ふたりに思えてしまうくらいだ。
「ほう。その歳で良くぞそこまで……いや、もしや機械人間か」
リゼが目を見張っている。
背中の光の翼も最大近くまで広がり、興味津々の雰囲気で犬耳少年に意識を向けている。
「はい! 契約国の機械人間です! 古い型なので計算能力は今の型に劣りますが、その分経験は積んでます!」
「ダンジョンでの活動はどの程度だ。モンスターを狩る前と比べてどの程度成長したか教えてくれぬか」
「姫さん。相手は帝国人じゃないのに要求しすぎだ」
俺がリゼを止めようとする。
しかし、リゼという圧倒的な存在に、殺意ではないが強すぎる気配を向けられているはずの犬耳少年は、少し焦ってはいても気絶も泣き出しもしない。
艦長連中が同じ目にあれば感動か緊張で気絶してしまうだろうに、たいしたものだ。
「よろしければ、立ち話でなく腰を据えて話しませんか。紹介したい方もいますし」
「うむ。艦長!」
「ああ。お互いを知れば、深層でばったり会っても殺し合いになりにくくなるだろうからな」
俺はARメガネを使って、ベースキャンプに会談の準備をするよう指示を出すのだった。
☆
ダンジョン深層ベースキャンプにいる人間は、本当に多種多様だ。
ダンジョン浅層から経験を積んで戦力的に成り上がったのは半分以上が帝国の肉人間で、それ以外はどちらの……あるいはどこの銀河の出身者か分からない肉人間や機械人間。
「ずいぶんと増えたな」
「深層に片道でしか行けないひとも、ベースキャンプがあれば往復可能になるのです! 大儲けなのです!」
ギョーショーはベースキャンプの所有権の一部を持っているだけでなく、ベースキャンプでの商売もしている。
ベースキャンプに持ち込まれたドロップ品の売買や、ベースキャンプまで自力で来れる連中への補給で、かなり儲けているようだ。
「にゃっ」
「みゃっ!」
突然、白犬耳少年が猫っぽい言語で会話を始めた。
大型の宝箱を運んでいた犬耳少年と、ギョーショーの支社の役員相手にドロップ品買い取り交渉をしていた銀髪少女が会話に加わっている。
「圧縮言語なのです。内容は……本人たちから直接聞いてほしいのです」
ギョーショーは俺にそれだけ言って、エイルを誘って売り場に向かう。
ポーションや素材だけでなく人間用の装備も展示されていて、浅層や中層とは違って、本来の用途で需要がある品も多い。
正直俺も直接見てみたいんだが、ダンジョンの管理人であるリゼの配偶者で、ダンジョンがある惑星を支配する皇帝だから、役割を放棄するわけにはいかない。
銀髪少女が「こほん」と咳払いする。
白と黒の犬耳少年が、自然な動きで少女の左右に控える。
おそらく機械人間なんだろうが、三人とも肉人間と言われても納得してしまう外見だ。
醜いという意味ではなく、肉人間として見ても自然なんだ。
「契約国連合中央評議会議員、機械人間の銀華と申します。ご挨拶と感謝が遅れてしまい申し訳ありません。ジャバウォック帝国の皆さんのお陰で、私の父であり、契約国連合で欠かすこともできない者の命が救われました。ありがとうございます」
言葉に飾り気はないが、感謝の気配は本物だ。
三人揃って深々と頭を下げる所作も、高度な文化と教育だけでは表現不可能な、特大の感謝を感じる。
「あれは正当な商取引だった。だが、その取り引きが社会を良い方向に動かしたなら、実に喜ばしい」
属する国の力は比較するのも馬鹿馬鹿しくなるほど違う。
だから俺は、威張ることも媚びへつらうこともせず、事実と本音だけを口にした。
「はい。劇的に良い方向に動きました。父がいるから関係が破綻していない有力者が多く、あのままでは確実に内戦が起きていました」
「御尊父は肉人間か」
リゼは、剣を抜いていないだけの厳しい表情だ。
銀華と名乗った少女は、明らかにリゼの実力を認識している態度で、しかしリゼから目を逸らさない。
「貴方が肉人間である程度には肉人間です」
「……ぶしつけな問いを謝罪する。リゼだ」
「銀華です。姓や氏族名を持たない文化ですので、銀華がフルネームとなります」
リゼと銀華が握手する。
そこだけ切り取れば超大国と大国の歴史的友好関係の樹立の光景になるかもしれないが、俺とエイルと白黒犬耳少年たちは、殺し合いが始まるかも知れないと思って緊張しきっていた。
☆
リゼと銀華の和解と友好関係が本物だと分かった後は、展開が異様に早かった。
帝国側はベースキャンプに到着するまでに得たドロップ品から飲食物を提供。
契約国連合側は、どちらの種類の人間にも美味しく食べられる食料を提供。
ベースキャンプは場所と調理器具の提供だ。
参加者が盛り上がった会食の場が、宴会場に変わるのはすぐだった。
「ハカセもお母さんも、機械人間の駄目な部分を煮詰めたようなひとなんです! 研究のためなら一種族を全滅させても気にしないのと、お父さんとのラブラブ生活のためなら時空間にダメージ与えても気にしないの、って違いはありますけどね!」
銀華はあっという間に酔っ払った。
神酒と呼ばれている酒を瓶ごと空にしても倒れないんだから、やはり機械人間は頑丈だ。
「というと、ハカセとの仲は、今は良好なのか?」
俺が言った直後、銀華だけでなく護衛の白黒少年も非常に渋い表情になる。
「私の設計者はハカセなんですけど、当時は霊的分野の研究が進んでなくて、お父さんの要素を無理矢理再現したから機械人間としての性能は低いんです。だから最初から失敗作扱いですよ」
仕事中でも黙っていても非常に良い生まれに見える銀華が、やさぐれた態度で封を切って酒を飲んでいる。
白黒少年は、護衛よりも銀華を慰めるのが主な仕事になっている。
「ギョーショーさん。本当にしか聞こえないのですけど、本当ですの?」
「肉人間風に言い換えたら『本家の惣領娘』なのでコメントできないのです……」
「あなたも何良い子ぶってるの! 悪い意味でお母さんに似過ぎてるから何度もやらかして、私、その度に頭を下げに行った記憶があるんだけど!?」
「その節はお世話になったのです……。でも借りは返したのです!」
「ええありがとう! だから愚痴る程度ですませてあげてるの! 成果なしで国に戻って来たら一番下っ端としてこき使ってたわよ!」
ギョーショーも巻き込まれてしまった。
助けを求めるよう目を向けられても、俺にはどうすることもできない。
「ふむ。それなら、いっそ我らと手を組んでハカセを討つか?」
リゼはグラスを揺らしながら物騒なことを言う。
酔った銀華だけでなく白黒少年も、リゼに反発するのではなく、リゼの提案を本気で考える顔になった。
「……立場上無理です。あれだけやらかしてるのに許容されるレベルの業績を上げ続けています。私の体にバックドアを仕掛けるとかの、こっちの逆鱗は必ず避けるので、大義名分が足りません」
悔しげな表情で語る銀華だが、懐からデータチップを取り出す手つきからは冷たい殺意を感じる。
「ところで話は変わるのですが、私たちの国では『ダンジョンボスを初めて倒すと特別なドロップがある』というフィクションが有名なんです。このダンジョンもそうなのかも、って思っちゃうんですよ。私も、多分、ハカセも」
銀華の手にあるデータチップには、ダンジョン最奥と思われる建造物への進路が、記録されていた。




