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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
最終章

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59/62

苦節十年でついに結婚! 狂気の『ハカセ』から未来の我が子を守るため、皇帝一家はダンジョン(長期休暇)へ向かう

 あれから長い時間が経過した。

 契約国連合との交易で得られた膨大な利益は、帝国に飛躍的な進歩と拡大をもたらした。


 だったらよかったんだがな。


 実際には、ダンジョン惑星が恒星を持たず星系に属していない惑星になってから、たいした時間はたっていない。

 飛躍的な進歩とも無縁だが、帝国の規模拡大だけは異常な速度で進んでいる。


「ポーターさん! 輸送艦隊が足りないのです!」


「流通の帝国主導はやめると、話し合って決めただろうが」


「期日に間に合わない荷が増えてるのです! 大問題なのです!」


 ギョーショーは相変わらず三頭身だが服装が替わった。

 以前は服っぽい塗装やパーツだけで過ごしていたのに、最近はダンジョン産の布や革を使ったオーダーメイドの服と小物を身につけている。


「いくらなんで商売の手を広げすぎだ。銀河腕ひとつを自分の市場にするつもりか?」


「こっちの銀河ぜんぶを僕の市場にするつもりなのです。当たり前なのです!」


 ギョーショーが帝国を通じてこの銀河に供給する商品は、触発された周辺諸国の技術水準が上がった今も魅力的だ。

 膨大な輸送料が必要となる、遠く離れた国々にとってもだ。


「あっちの銀河からこっちの銀河への入植も始まってるのです。契約国連合は帝国に配慮してくれてますけど、こっちの銀河での再起を試みる勢力は配慮なんてしないのです! 時間との勝負なのです!」


「正直、契約国連合やその傘下組織が実質的に侵略してくると思ってたんだがな……」


 俺の本音だ。

 ギョーショーやセンパイ大使を介しての取り引きや契約も、直接的な武力を使わない侵略ともいえるからな。


「ポーターさんポーターさん。ジャバウォック銀河帝国との協力関係は、契約国連合はじまって以来の外交成果なのです。機械人間外交官が得た成果としては別格の第一位の成果なのです」


「……センパイ大使が属する閥が、帝国を後援してるってことか?」


 俺の問いに、ギョーショーは真面目な顔で頷いた。

 目の点滅具合も、嘘がないときの奴だ。


「銀河規模の超大国が、そこまで外交下手なのかよ」


「ノーコメントなのです。……先輩は、こっちの銀河に来る前は窓際中の窓際だったのに、今は中央評議会入りが確実視されているとだけコメントしておくのです」


「情報には感謝するが、配送に使う輸送艦隊を増やすのは無理だぞ」


「えっ!? 僕を裏切るのです!?」


 ギョーショーが激しく動揺し、目は不規則に光り、声の調子も狂ってきた。

 味方と信じ切っていたものに裏切られた絶望が、ギョーショーの魂というべきものを酷く傷つけていた。少なくとも、ギョーショー視点ではな。


「いや、あのな。ここ数ヶ月はギョーショーに頼まれて滅茶苦茶協力してただろ。ダンジョン深層にベースキャンプ作るために、スティレット級の艦隊ひとつと輸送艦隊を十以上、ダンジョン深層への輸送に貼り付けてるんだぞ。姫さんが最後まで難色を示していただろうが」


「あっ」


 ギョーショーが自分の過去の行いに今さら気付いた……ような態度になる。


「でも、だって、エイルさんのための誕生日プレゼントを用意したかったのです」


 ギョーショーはエイルがお気に入りだ。

 愛玩物としてではなく、情欲の対象としてでもなく、付き合うことがとにかく楽しい、まさに青春の関係なのだ。

 その種の爽やかな関係には無縁だった俺だが、苦楽と共にした戦友の青春を祝福する気持ちはもちろんある。

 だが……。


「一方的すぎる人間関係はかなりの確率で破綻するぞ。最近のギョーショーはエイルに積極的になりすぎだ。エイルは長命種族としてはまだ若いんだ。エイルのペースにある程度あわせてやってもいいんじゃないか?」


 昨日もエイルが愚痴をこぼしていたからな。

 本当に久しぶりにリゼと直接会えたのに、俺に直接泣き付いてきたエイルにショックを受けたリゼを宥めたり、エイルに『ギョーショーをなんとかする』のを約束したりで色っぽい雰囲気になれなかったんだよ畜生。


「む。むむむ。思惑は感じるですが正しいことを言われている気がするのです。くっ。しかたがないのでここはひいてあげるのです! 貸しひとつなのです!」


「どっちかというとギョーショーへの貸しだよ。エイルに嫌われたらお前、ショックで年単位で寝込みそうだからな」


「失礼なのです! 年じゃなくて数十年単位なのです!」


 俺はため息と我慢し胃痛に耐える。

 そして、帝国内ではリゼと俺にしか閲覧許可の出ていない『戦力配置図』の紙を取り出す。


「分かった分かった。とりあえず落とし所を探ろう。実はエイルはな……」


 俺は大帝国の皇帝として巨大な権力を得た。

 巨大な経済力を持つギョーショーや巨大な戦力を持つリゼに物申せるこの銀河唯一の存在として、俺にとっては不本意な形で絶大な影響力を得ていた。



  ☆



 ギョーショーとの会議を終えた後、俺は訓練中のリゼとエイルのもとへ向かった。

 俺の服装は即位から今までずっと軍服で、俺個人の見た目に変化はほとんどない。

 なお、リゼはほとんどどころか全く外見が変化していない。


「というわけで、今からエイルが皇帝の継承権第一位だ」


「うむ。皇太子というわけだ。これからはダンジョンでの修行だけでなく、政務の修行もするように」


「陛下、お姉さま。銀河帝国にエイプリルフールの習慣はないですわ!」


 エイルは全く信じない。

 リゼと生まれ時代が違いすぎて、ときどきギャップに直面してきたからだろう。

 ところでエイプリルフールってのは何なんだ。

 ギョーショーがこの銀河に持ち込んだアニメだとは思うんだが。


「真面目な話だ」


 俺が静かに言う。

 リゼは頷いている。


 リゼの背中から静かに光の翼が広がる。

 いつもより柔らかに輝いて、エイルの前途を祝福しているようだ。


「継承権ならお姉さまが第一位ですわっ!」


 エイルに喜びはない。

 焦り、必死に、与えられた立場を否定しようとする。


「エイルよ。今の状況で私が子育てをできると思うか?」


「俺の力不足だ。姫さんの……リゼの戦力に頼る体制から切り替えることに失敗した」


「一ヶ月程度のバカンスを楽しむことはできるが、出産となるとな。私の全力でも守り切る自信はない」


 改スティレット級を参考に新スティレット級という超性能の超光速戦闘艦(向こうの銀河だと平凡な性能)の開発に成功したり、リゼが魔剣の力を使いこなせるようになったりもしたが、それ以上に帝国が大きくなりすぎて敵も増えすぎた。

 他国と戦争しているわけじゃない。

 異様に強力だったり有能だったりするスパイや暗殺者に狙われる機会が増えすぎたんだ。


「で、ですがっ! わたくしは、ハイエルフでも、エルフ族ですらありません! ……あの、何故『そんなこと最初から知ってた』という顔を、おふたりとも!?」


 とんでもなくシリアスだったエイルが、俺とリゼの『今さらそれを言われても』という目つきに気付いたようだ。

 今まで知られているのに気付いていなかったのが、正直ちょっとショックだ。

 予定より訓練漬けの日々に叩き込むしかないかもしれん。


「魔力の質を見れば分かる。悪いのは自称ハイエルフの集団であってエイルではない」


「俺も姫さんが被保護者にすると言った直後に大慌で調べた。生まれ方も育ちも人それぞれだ。エイルはリゼの血縁で長命種族で肉人間ってことでいいだろ」


 リゼも俺も、ギョーショーに振り回されるようになる前であれば、エイルに対して複雑な思いを抱いたかもしれない。

 だが、ギョーショーが生まれ育った場所は、無から知性を作り上げたり、それ以上のわけの分からない生き物が実在する場所だ。

 多少のファンタジーや倫理観のなさで生まれたエイルは、普通の生き物でしかない。


「でも、わたくしは、おぞましい生まれ方を」


 自己否定する勢いが衰えたエイルを、リゼに光の翼が優しく包む。

 エイルの声が止まり、嗚咽が微かに響く。


「……真っ当な価値観を持っているエイルには申し訳ないんだが、皇帝をするなら、比較にならないほど『おぞましい』ものの相手もする羽目になる。俺もすぐに退位するわけじゃない。どうしても嫌なら継承権返上も許可するから、試しに皇太子になってみたらどうだ」


「試しで、するようなものでは、ないですわ」


 エイルの言葉は涙で湿っていたが、いつもの調子が少しだけ戻っていた。



  ☆



 なお、エイルが退出してすぐ、エイルを見て事情を察したギョーショーが通信で怒鳴り込んできた。

 ギョーショーの本体である三頭身の体は、全力でエイルによりそっているようだ。


「リゼさんリゼさん。原始的な製造……じゃなくて妊娠出産じゃなければ、リゼさんの戦力を維持したまま子育てできるのです。皇帝するのが面倒くさいからってエイルさんに押しつけるのはどうかと思うのです!」


「最初の子は私が直接産むと決めているのだ。それは譲れん」


「ポーターさん?」


 ギョーショーがじっとりした、強く光る目で俺を見る。


「これが結婚を受けてくれる条件なんだ。俺からの説得は無理と考えてくれ」


 苦節十年以上でプロポーズが成功したがそこからが大変だ。

 その日のうちに乳母の売り込みや胎児用の強化の提案など、倫理観も技術水準もいかれた提案が押し寄せた。

 しかも一番最初の、倫理観を無視すれば一番好条件な提案が、よりにもよってハカセ本人からの提案だった。

 あっちの銀河との直接回線が繋がったのを後悔したのは、あのときが初めてだ。


「……やっぱりハカセなのです?」


「うむ。成人後に我が子が望むならともかく、胎児のうちにするのは、あまりにもな内容であった」


 リゼの表情は嫌悪を隠せず、光の翼は完全に展開されて威嚇モードだ。

 俺も当時のことを思い出して胃痛に襲われている。


「ぎりぎり合法でのちょっかいは既に数え切れぬ。奴に売り込む目的で我らを狙うスパイもな」


「いっそ暗殺とかできればすっきりするのです」


 ギョーショーが物騒なことを言う。


「普通に殺してもバックアップがハカセとして活動を引き継ぐような奴だ。俺たちでは殺しきれないぞ」


「艦長。いや、我が夫よ。ここは難しく考えず、ハカセが企んでも物理的に跳ね返せる物理的な強さを得るべきではないか? 私だけでなく家族全員が強くなれば、なおよい」


 光の翼が壁と一体化した画面を示す。

 大きな画面に、ダンジョン惑星のあちこちが映し出されている。

 星系間を光速の千倍以上で移動するのが当たり前の社会なのに、大小様々な『門』を出入りしているのは剣や鎧を装備した老若男女だ。

 モンスターを殺せば劇的に強くなる可能性があり、価値ある品がドロップする迷宮は、銀河規模の名所になりつつある。


「この歳でダンジョンに籠もってのモンスター狩りは勘弁して欲しいが、それが一番マシな方法か」


 俺は覚悟を決め、長期休暇をとることに決めた。

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