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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第九章

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AI全消去の危機と、マニュアル操縦の決死行。なお、残った敵艦隊は『あれ』が美味しくいただきました

「休憩時間なのです! 仕事ばかりだと調子がわるくなるのです!」


 ギョーショーはエイルを引っ張ってダンジョンに出かけた。

 薄い乳製品をすすれるようになったソールが、ギョーショーには複雑な視線を向け、エイルには優しい目で見送っている。


「姫さん。ダンジョン内の人口が増えたな」


「うむ。ゴミ処理場が出現するよう、ダンジョンの操作を試みることになるとは思わなかった」


 ダンジョン惑星地表に避難した、銀河共和国第四十七星系の住人は約三億人だ。

 水や食料は自動調理器(食料生産機)のフル稼働で味以外は問題ない。

 居住区の温度の管理は、契約国連合基準の『エアコン』の性能でなんとかなる。

 問題は、人間なら当然出すもののことだ。


「ダンジョンを操作できるなら中層をなんとかできないか? 強いドラゴンを倒してレベルアップしてスティレット級のパイロットになる、って流れを一般化させたいんだが」


「無理を言うでない。私が関与できるのはダンジョンの出入り口と、浅層の特に浅い部分のダンジョンのみだ。レベルアップのたびに操作できる範囲が増えてはいるが、な」


「そりゃ残念。今以上にダンジョンで楽をしたかったぜ」


 俺とリゼは雑談をしながらそれぞれの仕事を進める。

 ギョーショーが整備した超光速通信網のおかげで帝国全土へほぼリアルタイムで指示を出せる……というのは少し前までのことだ。

 契約国連合の研究者が盗聴している恐れがある、というより契約国連合基準ではセキュリティが雑なので高確率で盗聴されている。

 重要な通信は、数も能力も限られたテレパシー使いに人力でやってもらう必要が有った。


「リゼさま。ひょっとして、ダンジョン全てを制御できるようになれば、国家経営に惑星も星系も不要になるのでしょうか」


 しばらく考え込んでいたエルザが発言する。

 リゼに対する狂信は相変わらずではあるが、恐れに似た何かも感じる。

 俺でもダンジョンの使い道は色々思い付く。

 超エリートのエルザなら、銀河がひっくり返るような使い方も思い付くのかもしれない。


「うむ? 理論上はそうなる、のか?」


「許可して貰えるならすぐに調べるっす!」


 目を輝かせたチョーカー機械人間が身を乗り出す。

 そして、チョーカーがまるで爆発寸前の爆弾であるかのように、強烈な色で点滅し始めた。


「仮に、万が一、リゼさまと帝国から許可が出たとしても、私に許可を得てからにしなさいと言いましたよね?」


「実験用のデータが消えていくっす!? 権力の横暴っす!」


 センパイ大使とチョーカー機械人間は楽しそう……にしては様子がおかしい。

 艦を使った戦闘以外では滅多に役に立たない俺の感覚が、センパイ大使とチョーカー機械人間の間で激しい攻防が行われている気配を捉えている、気がした。


「エルザ。ダンジョンの利用方法の研究は進んでいても、ダンジョンがなんであるかの研究はほとんど進んでいないんだ。ダンジョンに頼り切った体制にはできんよ。……現状で既に頼り過ぎだからな」


 寿命延長ポーションとか、無汚染水とかな。

 超光速実用化前の時代ならともかく、水の汚染なんて簡単に取り除けると思うんだが、契約国連合にとってはほとんどの水は汚染されていて、特にあっちの銀河では無汚染水は皆無に等しいらしい。

 だから、権力者にも行き渡らない寿命延長ポーションだけでなく、一部のポーションもとんでもない高値で売れるってわけだ。


「艦長。最後のドラゴンが撃破された。これ以後は敵艦隊を直接確認できぬ」


「どう動くは予測はつくか?」


「全ての艦が直径一光年の範囲にいた。何かの制限があるのだろうが、罠かもしれぬ」


「このまま諦める可能性はあると思うか?」


「ここまで決定的に敵対したのだ。目的を果たすか、諦めて遠くまで逃げるかのいずれかだろう。……命を賭して銀河を渡り、私や魔剣を捕らえるためにここまでしたのだ。まず、諦めはせぬ」


「了解。戦争の判断は姫さんに任せる」


 リゼへの信頼もあるが、それ以上に、現状が俺の処理能力を上回っている。

 任せられるところはどんどん任せていかないと、俺は間違いなく過労で倒れる。


 俺もギョーショーを見習って休憩に入ろうと考えたとき、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「ポーターさん! 第二星系のランス級工場が不調だって連絡が届いたのです! 第二星系に途中で寄りたいのです!」


「悪いがスティレット級との合流が優先だ。姫さんと魔剣を守り切るのに失敗すれば、敵の機械人間を倒しても国が潰れる」


「むう。しかたないのです」


 俺もギョーショーも、これが敵の反撃だという可能性を、完全に見落としていた。



  ☆



「リゼさま! 各戦線が押し込まれています!」


「星系間航路からは撤退しろ。『あれ』が移動した時点で既存の航路は機能しなくなる。ランス級とスピア級は星系防衛に集中させろ!」


「工場が次々に停止しています!」


「ぎにゃー! 儲けがきえるのですっ!?」


 リゼもギョーショーも余裕がなくなっている。

 俺は集まったスティレット級の詳細を確認して頭を抱えている。


「艦長が足りないだと!?」


「陛下ぁ。最悪マニュアルで操縦するなんて聞いてやせんぜぇ」


 呆れた表情で答えているのは、付き合いも長くなった元自称自警団で元ランス級艦長で現スティレット級パイロットだ。

 こいつはスティレット級を操縦できるんだが、他の艦長と艦長候補はかなりあやしい。

 ただしそれは、スティレット級の戦力を限界まで引き出す場合だ。


「全部マニュアル操縦ってわけじゃないだろ」


「そりゃ陛下の感覚が麻痺しすぎですぜぇ」


「だがお前もなんとなく分かるだろう。センサーの技術が超光速戦闘に対応できていない今は、ダンジョンでレベルアップした個人の感覚に頼るしかないんだ」


「確実に『分かる』わけじゃないんでさぁ。そんな状態で操縦を繰り返せばぁ、一月も経たないうちに大事故確実ですぜぇ」


「……否定はできないか」


 俺は非常に渋い表情で、報告を受け入れるしかない。

 リゼから説明を受けていた、ダンジョンで遊んできたギョーショーが俺を見る。


「ポーターさん。ひょっとしたら、帝国全体がクラッキングされてるかもなのです。ランス級の工場だけじゃなくて、スティレット級の工場も生産速度が激減してるのです」


「ギョーショー。ハッキングか?」


「はいリゼさん。ハッキングでも特別強力なやつなのです。ネットワーク上のAIとか簡易AIを根こそぎ消し去る規模かもなのです」


「ギョーショーやセンパイ大使は大丈夫なのか? 今も超光速通信網を使用してるようだが」


 リゼは心から心配している。

 軍事部門トップとしての仕事中は引っ込んでいた光の翼が現れて、ギョーショーとエイルを庇うかのように広がっている。

 なお、センパイ大使も少し庇うような広がり方だが、チョーカー機械人間たちのことは完全に無視だ。

 心配されていない連中が、ちょっと落ち込んでいた。


「機械人間はクラッキングに強いのです! ネットワーク上のデータが全て吹き飛んでも体のデータは無事ですむのです!」


 口で言っているのはギョーショーだけだが、センパイ大使もチョーカー機械人間たちも、珍しいことに『それが当然』『その通り』と本心から思っている気配がある。


「もしかして、機械人間にとって特別なことか?」


「以前も言ったですけど、AIが専用の体を求める理由なのです。あっちの銀河だと気軽にデータが吹き飛ぶのです」


「……その吹き飛ぶってのは、どの程度の規模だ。工場がいくつか操業停止するくらいか?」


「その程度ならAIがAIのまま生きていけるのです。ネットワーク上からデータ全部消えるのも珍しくないのです!」


 ギョーショーは真顔で言う。

 俺は頭痛と胃痛に襲われ、『ぐう』と悲鳴をもらした。


「社長! 来ます!」


 チョーカー機械人間が警告を口にするより、データとしてこの場の全員に送りつける方が圧倒的に早い。

 俺のARメガネに最大級の警告が表示されるより早く、ギョーショーの目が激しく輝き、『フリーキャッスル』が完全なオフラインモードへ移行した。


「……案外、生温いな。超大規模なクラッキングをするなら、同時に陸戦隊を突っ込ませてくるかと思ったんだが」


「艦長。私の実力はAIとも超光速通信網とも無関係だ。高確率で負けると分かっていて攻める者は少ない。たとえそれが、最も勝率が高くてもな」


 俺とリゼが落ち着いて会話する。

 混乱しかかっていた『フリーキャッスル』の操縦室が、俺とリゼを見て落ち着いていく。


「このまま敵の本体を見つけて倒せば終わりか?」


「艦長。ダンジョン惑星表面の簡易AIが全て消滅している。復旧まで私と魔剣が手を貸さなければ、避難民が何割か死ぬかもしれぬ」


 俺はリゼの言葉を聞いて、考える。

 他国人の命についてではなく、どれだけの戦力があれば勝てるか、リゼが勝利に不可欠かどうかだ。


「いざというときは援護を頼む」


「うむ。必要ないだろうが備えは必須だ。万が一の際は艦長を優先するとも」


 俺は一時の別れを告げて、宇宙服を着てから『扉』へ向かう。

 異変に気付いて急行してきたスティレット級が二隻、マニュアル操作のぎこちない動きで近付いてきていた。



  ☆



 最も下手なパイロットに代わってもらい、俺はスティレット級に乗り込む。


「お姉さまの代理として同乗させてくださいですわっ!」


「エイルさんが行くなら僕もいくのです!」


 白兵戦担当も、射撃や航路の計算の補助担当もいればいるほど助かる。

 俺はふたりが乗り込みシートベルトを着用するのを待ってから、スティレット級を加速させる。


「敵艦はレーザーが主力だろう? 姫さんなら簡単に全滅させられる気もしたんだが」


「位相跳躍機関を使うと兵器の速度が実質超光速になるのです。具体的な理論は、ポーターさんが理解するまで数年かかりそうなので説明はパスするのです」


「事実なんだろうが酷い言われようだ、なっ」


 艦に従い真横に加速する。

 リゼほどではないが強力な身体能力を誇るエイルは急な加速に耐え、シートベルトをしていなかったギョーショーは操縦室内を転がり、最も肉体的に貧弱な俺が体に食い込むシートベルトに苦しむ。


「陛下ぁ! たぶんあそこですぜぇ!」


「向こうから来てくれるとは親切だな、えぇ?」


 二隻のスティレット級で、えぐり込むように敵艦隊へ突撃する。

 レーザーの出力も弾幕の密度も凄まじいが、狙いをつけるパターンが数種類しかない。

 艦載センサーなしでも超光速戦闘が可能な、腐れ縁のパイロットと俺は、何度かスティレット級の表面を焼かれはしたが、最も強い気配の敵艦に、瞬く間に迫る。


 それ以外の敵艦の動きは、何故かひどく鈍かった。


「だから大規模クラッキングは嫌われてるのです。敵も味方もデータが吹き飛ぶので、エリート肉人間さんと一部の機械人間しか戦力にならなくなるのです!」


「罠ぁ、ですかねぇ?」


「罠でも気配のデカイ順に打ち落としていけばいつかは当たるだろ。援護を頼む」


「了解ぃ!」


 迎撃のレーザーを勘に従った加速だけで躱す。

 他と全く同じに見える艦から、他の艦とは違って生々しい驚きの感情があふれている。


「降伏してくれると助かるんだがな!」


 一度で焼き潰しても構わないつもりでフォトン砲を酷使する。

 片側の眼球型レーザー砲が融け崩れ、内部の操縦室まで一部が破れてそこから中が見える。

 そこには、胸部パーツだけが残った機械人間が、ケーブルで操縦室に繋がれていた。


「ハイエンドの体でも無茶な使い方をすればすぐに駄目になるのです……」


 ギョーショーが沈痛な面持ちで目を伏せる。

 が、俺にはしんみりする余裕などない。


「あっちが駄目になる前にこっちがピンチだぞ畜生!」


 敵は引きつけてから仕留めるつもりだったらしい。

 敵艦は『くるり』と反転して、無事な眼球型レーザーで俺のスティレット級を狙い撃つ。

 即座に僚機がタキオン砲と質量弾を乱射して牽制し、俺が体勢を立て直す時間を稼いでくれる。

 それは本当に助かったんだが、これで二機とも戦力半減(タキオン砲に大ダメージと質量弾を全消費)だ。


「陛下ぁ! 敵の残りが追って来てますぜぇ!」


「んー。エイルさんエイルさん。ごにょごにょごにょ」


「本当にやるんですの? でも、リゼお姉さまの弟子としてのデビュー戦としては最高ですわっ!」


 ギョーショーとエイルが、俺の制止を無視して艦の外へ飛び出した。

 エイルは薄手の超光速戦闘対応の超高級宇宙服を着ているので、宇宙線を浴びても悪影響はない。


「フルパワーなのです!」


 ギョショーが万歳のポーズをとる。

 そして、短い二本の腕の間から、ギョーショー本人より太く、とんでもなく長いビームソードを出現させる。


「こちらもフルパワーですわ!」


 エイルがギョーショーを構える。

 当たり前だがギョーショーは剣の形などしていないし、振り回すのにはどう考えても向いていない形をしている。

 だが、最近では生身で音速の数倍の速度を軽々出せるようになったハイエルフは、剣に限定すればリゼを上回る技術で、ギョーショーが『柄』になったビームソードを見事な軌道で振り下ろした。


「さらば、なのです!」


「隙をつけなければ、わたくしとギョーショーさんでは及ばなかったですわ」


 真っ二つに溶断された、ふさわしいパイロットが乗れば単独でもリゼ相手に抵抗できたかもしれない古の傑作艦が、ガラスのように砕けて散っていく。


「撤退だ! 追いつかれる前に逃げて姫さんと合流する!」


「最後に姫騎士さま任せとはぁ、しまりませんねぇ」


 俺たち二隻はエイルとギョーショーをトラクタービームで回収し、艦に収容する時間も惜しんで戦場から離脱する。

 指揮者がいなくなった敵艦隊は、リゼがいる方向と俺たちが逃げる方向が一致しているのが分かっているのか分かっていないのか、とにかく一直線に追って来る。


 その動きは高度な計算機による高効率なもので、しかし膨大な要素を考慮し判断する人間のひらめきは皆無だ。


「こりゃぁ」


「陛下!」


 僚艦とエイルが緊張感をあらわにする。

 ギョーショーは残りエネルギーが極小なので、エイルの膝で丸くなっている。


 猛獣、海棲生物、超古代の大型生物のどれかに似ているのに致命的にかけ離れた『あれ』の群れが、位相跳躍を隠さず行う敵艦隊を目がけて超高速の超高速でやってくる。


「こいつらをなんとかしないと、姫さんに長期休暇をプレゼントもできないな」


 リゼを除いた帝国軍全軍より強いかもしれない敵艦隊が、『あれ』の群れに飲まれて消えていった。

これで第九章は完結です!

次話から最終章です!


次回更新は04/25 18:10を予定しています!

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