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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第九章

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「こんなこともあろうかと!」機械人間たちの違法改造で星系ごと逃げようとした結果……

 銀河共和国第四十七星系駐留艦隊は、帝国に対する警戒のために『銀河共和国の価値観では』過剰なほど増強されていた。

 条約によって帝国からダンジョン惑星の利益が分配されているので財源も豊富だ。

 駐留艦隊の戦力は、共和国中枢から強く警戒されるほどだった。

 ハイエルフであるソールが派遣されてきたのも、エイルの件だけでなく監視や査察の目的があったからだ。


 そんな強力な艦隊が一方的に蹂躙されている。

 まだ星系外縁にすら到達していない侵略者の艦隊によってではない。

 『あれ』の一つ、溶け崩れた鱗で覆われた『戦艦』サイズのドラゴンが、重武装の艦、特に超光速機関を狙って噛みちぎっている。


 ダメージコントロールに優れた艦でも、重要区画を含めて広範囲を乱暴に削り取られたら無事ではいられない。

 最も価値のあるパーツであり国民でもあるパイロットの損失を避けるため、最近ではすっかり一般的になった操縦席(脱出艇)が次々に打ち出されていった。


「エルザ! 避難状況はどうなっている!」


「滅茶苦茶に決まってるでしょう! 換えの効かない人材は拉致同然に宇宙船に詰め込んでそっちへ送ったわ! 今は乳幼児を詰め込めるだけ詰め込んで打ち上げている最中よ!」


 銀河帝国皇帝としての質問に、銀河共和国地方総督としての回答が超光速回線を介して行われる。

 エルザは機械人間じみた速度と正確さでダンジョン惑星を除く星系すべてを操り、少しでも被害を減らそうと奮闘している。

 当然のように、エルザは自分自身を助ける対象にしていない。


「見事」


 それに気づいたリザが心からの賞賛を送る。

 エルザだけを助けるのはリザにとって簡単なことだろうが、今だけは、リザが助けてもエルザは喜ばない。

 それを分かっているリザは、減速を考えるとぎりぎりの速度を出している艦に乗って星系外縁に移動中だ。

 だいたい高速の六割だ。

 最高速なら超光速を出せるリゼの方が上ではあるが、この後の戦いを考えるとリゼを消耗させるわけにはいかないのだ。


「姫さん。星系内の帝国の戦力はスピア級だけか?」


「うむ。ランス級は輸送艦隊に必要なので最小限を残して輸送艦隊に転属させた。残った少数は星系外縁の宇宙港だ」


「了解。実はこっそり隠しておいた戦力ってのはないんだな」


「無茶を言うでない。有望な艦長の多くがダンジョンに向かったので戦力のやりくりが大変なのだぞ」


「個人のキャリアを考えると正解だったな。超光速戦闘艦をまともに扱えるのは、ダンジョンでレベルアップしたパイロットだけだしな」


 超光速戦闘に必要な情報を集める機械を作る技術が帝国には存在しないのだ。

 帝国より圧倒的に技術が上の契約国連合にも、ひょっとしたら『ない』か『低性能なものしかない』疑いがある。


「ポーターさん! 恒星周辺の『あれ』が多い気がするのです」


「だからエルザが慌ててるんだよ。恒星がちょっと削られるだけでも可住惑星が可住惑星でなくなるし、重力がおかしくなって吹っ飛んでく惑星港も出てくるだろうしな。……で、間に合いそうか」


「無理なのです。ダンジョン惑星の補強工事は終わってますけど、共和国の惑星から肉人間さんを避難させる手段が足りないのです。僕が動かせる船ぜんぶ向かわせて、怪我や体調不良を覚悟してつめこんでも、たぶん全人口の三割くらいが限界なのです」


「三割! それならぎりぎりで五割は! ありがとうございます、ギョーショーさん、ポーター陛下」


 エルザが心からの笑顔を浮かべ、深々と頭を下げてくる。

 これが最期の通信になると確信したかのような態度だ。


「はい!」


 チョーカー機械人間の一人が、元気に挙手をして自己主張する。

 あまりに空気を読まない言動に『いらっ』とするが、能力だけはある奴らなので問答無用で切り捨てるのは怖い。

 万一解決策があるなら、ここで切り捨てたことを一生後悔するだろうからな。


「発言を許可する。提案があるなら短時間でしろ」


「肉人間がいる惑星や宇宙港をステイシスフィールドで覆ってからトラクタービームで一カ所へ集めて、その後まとめて移動させちゃいましょう!」


「厳罰がある法律を何個違反するつもりなのです!?」


 自信満々のチョーカー機械人間の発言に、目を激しく光らせたギョーショーが反対する。

 ギョーショーはお調子者で傲慢でもあるが、人間が災害で死ぬのを傍観するタイプではない。

 そんなギョーショーがこれだけ激しく反応するということは、チョーカー機械人間の提案に問題がありすぎるということなんだろう。


「そこは自称センパイな大使さんに頼めばなんとか……」


「だ、そうだが、コメントは?」


 データ通信でもよかったが、俺はあえて口にした。

 当然のように、今俺たちがいる『フリーキャッスル』の画面にセンパイ大使が映った。


「銀河帝国から契約国連合に対し協力の要請があれば可能です。ただし、私の権限で限界まで割り引いても、大きな代償が必要になります。研究室レベルの先端技術ですので」


 センパイ大使は淡々と説明する。

 そして視線をチョーカー機械人間へ映す。

 その瞳は冷え冷えとしていて、センパイ大使が愉快なだけの人物でないのがよく分かる。


「私が支払おう」


「やめろ。俺は姫さんを犠牲に国家経営するつもりはないぞ。ダンジョン惑星単体なら生き残れる準備はした。誰がどれだけ死のうが、責任は国家元首である俺にある」


 武力も権威もリゼに頼っているのが帝国だ。

 せめて責任くらいはとらないと、恩知らずになってしまう。


「艦長。そういうときは『俺も一緒に背負う』と言うものだぞ」


 微かに微笑むリゼから儚さは感じられず、俺に対する信頼があった。

 ……顔が熱いぜ。


「この状況でいちゃつけるのはすごいのです!」


「お姉さま、陛下、お幸せにですわっ!」


 こいつは本当に仲がいいな。

 俺もせめてこのくらいはリゼと仲が良くなりたいもんだが……。


「こんなこともあろうかと! スピア級をこっそり改造済みです!」


「こんなこともあろうかと! ダンジョン惑星以外の惑星にもちょっと無断改造を!」


 多数のチョーカー機械人間が「こんなことももあろうかと!」と違法行為の宣言を繰り返す。

 いったい何なんだこいつら。


「陛下。これはアニメに登場する極めて優秀な研究者の決めセリフですわ」


「研究者なら生涯一度は言ってみたいセリフらしいのです。お前ら思いっきり減給なのです!」


「くっ、でもっ」


「すっごく気持ちいいよ!」


 反省の色など皆無だ。

 ただ、俺のARメガネに送られてきたデータには、契約国連合のいかれた技術力と『うまくやれば星系の住人全員が助かりそうな計画』が載っていた。


「艦長!」


「ああ! やるぞ姫さん!」


 盛り上がる俺達を、『機械人間が勝手にやったなら銀河帝国に代償をふっかけるのは無理かも……』という雰囲気のセンパイ大使が、切ない目で眺めていた。



  ☆



 薄いヴェールとドレスの組み合わせにしか見えない宇宙服を着込み、ハイエルフのソールがダンジョン惑星の地表で杖を掲げた。

 その杖は優美な形状をしてはいるのだが色使いが非常に可愛らしい。

 エイルは「魔法少女の杖ですわっ!」と説明し、ギョーショーは「ダンジョンからのドロップ品を社員が改造したのです!」と言っていた。

 どうやら幼い見た目にコンプレックスがあるらしいソールは恥辱で震えているが、星系のあちこちから『運ばれてくる』惑星や宇宙港を追ってくる『あれ』の群れを見る目だけはシリアスだ。


 残存スピア艦隊が『あれ』に対して攻撃をしかける。

 操縦しているのはダンジョン未経験者や浅層経験者のみなので、当てづらく効きづらい。

 しかし一瞬注意を逸らす効果はあった。


「民のためとはいえ、対魔王の切り札をここで使うことになるとは……」


 ソールの体から膨大な『力』が吹き出す。

 それは巨大な、小惑星サイズの細剣となり、エイルの剣技を思わせる機動で『あれ』を突き刺す。

 何度も、何度も、『あれ』が息絶えるまでだ。


 俺とギョーショーしか見えないないらしく、チョーカー機械人間たちが「視界を共有しろ」とギョーショー相手に騒いでギョーショーに煽られていた。


「やーいやーい! ダンジョン入場資格は渡さないのです!」


「ぐぬぬ。相変わらず性格悪いっす!」


「ダンジョンに入れば見れるようになるのねっ! なんでもするから入れてよっ!」


「遊んでないで、ダンジョン惑星の超光速移動の準備を進めろ」


「「「はーい!」」」


 俺が言えば従うだけ、マシなのかもと最近思うようになった。



  ☆



 ダンジョン惑星の近くに、謎のフィールドに包まれた惑星や宇宙港などが運ばれてくる。

 この銀河にこれほどの大重量を超光速移動する手段はなかったが、他の銀河からやってきた機械人間たちにとっては『小集団でも頑張ればなんとかできる』ことらしい。

 これならいけるか、と思った頃にリゼから通信が届く。


「艦長!」


「おう、こっちは恒星がまずいが人と惑星の避難はなんとかなりそうだ」


「そうか、助かった」


 リゼの声に滲む本気の安堵に気づき、俺は胃袋に激しい痛みを感じる。

 リゼがこれから相手をするのは二十数隻の超光速戦闘艦だ。

 帝国として負ける可能性はあっても、リゼ個人が負ける可能性などない、はずなのだ。


「敵艦は最低でも百隻いる。私たちが気づいた二十数隻以外は、ステルス艦だ」


 リゼの言葉を聞いて、俺とギョーショーが合図もしていないのに見つめ合う。

 そして、ふたりそろってリゼがいる方向へ向き直る。


「何光年離れているか分からない場所がなんとなく分かるのって、冷静になって考えると恐怖じゃないか?」


「それは今さらなのです。えーっと、リゼさんに言われてから見ると、保護色? っぽいのがいっぱいいるようないないような……」


 俺たち三人で手分けして索敵する。

 目立つ二十四隻と、光学的なものを含む迷彩を施された約二百隻。

 星系内には、ソールが数体倒して残り推定数百体の『あれ』。


 遠くで、数十の『あれ』にたかられた恒星が、削れていくのが見えていた。

次回更新は04/22 23:10を予定しています!

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