魔剣のダンジョン封鎖にエイルの国籍問題。超光速戦闘よりも厄介な事態に、皇帝の胃痛が加速する
新たな侵略として現れた機動要塞は、俺のスティレット級が到着する前に『駆逐艦』を出撃させていた。
数は四隻。
形は機動要塞に似てはいるが高速で、当然のようにスティレット級以上の速度で突撃、攻撃、離脱を繰り返してくる。
ミサイルでは全く追いつけず、ミサイルよりは速い質量弾で狙っても当たらない。
タキオン砲はレーザー砲の代わりに使えるが、速度はあっても威力が弱いのはレーザー砲と同じなので『駆逐艦』に大きなダメージは与えられない。
「前回の機動要塞と同じ型なのに、運用次第でこれほど変わるのか!」
『駆逐艦艦載機』が放つ質量弾を、タキオン砲の連射で迎撃しながら回避も行う。
スティレット級の加速力は問題ないのだが、相変わらず慣性制御が不十分で、俺の体にダメージが蓄積した。
「艦長。最初の機動要塞に乗っていたあやつは典型的な職人だ。エイルが言う『ボーナスステージ』のようなものだぞ」
「確かにな。難易度を下げて欲しいぜ」
『駆逐艦』の進路を予想して質量弾を『置く』。
直撃はせず軽く接触しただけだが、お互い超光速なので衝突時のダメージで砕けて散った。
途端に敵の動きが変わる。
球体の機動要塞の『弾幕』が俺の癖を読んだものに変わる。
これ以上攻撃するなら、確実にスティレット級に被弾する。
しかしピンチではない。
リゼの出番が来ただけだ。
「私の出番だな」
「姫さん。運転が荒くてすまないな」
「軍船とはもともとそのようなものだ。では行ってくる」
スティレット級は『フリーキャッスル』より小さいので、リゼが出撃するまでの時間はいつもよりさらに短い。
あまりにも速すぎて、艦内と宇宙を繋ぐ『扉』の開閉が追いつかない。
リゼの背中で光の翼が大きく広がる。
翼は輝きはしても羽ばたかず、リゼは進路と速度を変えないまま、小刻みに向きを変えてヒートソードを振り下ろす。
俺ではまともなダメージを与えることのできなかった『駆逐艦』が、綺麗に二等分に切断され、直進を続けるだけでの残骸と化した。
「『駆逐艦』は遠隔操作だ。ギョーショーより操縦が巧みなようだが、この程度ではな」
三隻の『駆逐艦』が処理されるまで一秒もかからない。
ここまで追い込まれてようやく、機動要塞側から通信接続要請があった。
「無条件降伏以外受け付けないぞ。これ以上こっちの銀河に近づくなら降伏しても攻撃を続ける。降伏してその場所で停止できるなら契約国連合の大使館に引き渡す。以上だ」
どれだけ顔が良くても、どれだけ魅力的な声と言葉で提案してきても、俺の対応に変化はない。
契約国連合(特にその中の倫理観のない連中)を可能な限りこっちの銀河に侵入させないと、帝国とギョーショーとセンパイ大使が合意しているからだ。
それまでの泣き落としが嘘のように『ぐぬぬ』と悔しがる機械人間が、機動要塞も『駆逐艦』もその場に停止させた。
「艦長」
「ああ。もう一隻か来ているのか」
「艦長の目もすっかりよくなったな。だが一隻ではなく一艦隊だ。距離はあるが、かなり速いぞ」
「すまん姫さん。確かに艦隊だ……ってばらばらに別れやがった! すまん、一番遠くのは俺がやるから他のは頼む!」
「うむ。自力で星系まで戻る自信はないから、迎えはよろしく頼むぞ、艦長」
リゼは柄だけ残ったヒートソードを新しいヒートソードに交換してから、再度出撃する。
俺はリゼに当てないよう注意しながらスティレット級を加速させる。
「スティレット級の量産が始まっても、船乗りの機種転換訓練が終わらないと事故が怖くて実戦投入できないんだよな……」
「にゃー!? 追ってきたー!?」
今度の侵入者はセキュリティが甘いようだ。
自動で回線が繋がり、慌てた様子で操縦する映像がスティレット級まで届く。
「大人しく降伏しろ。降伏しないなら、脱出艇が回収できる範囲で戦え。明後日の方向に加速したら、誰にも回収されずに朽ち果てるまで宇宙を進みつけることになるぞ」
「せ、精神攻撃には負けないよっ」
「ただの事実だよ。怯えてるのが演技じゃないなら早く降伏しろ。俺の国の牢じゃなくて、あんたらの国の大使館に引き渡すだけだから、な?」
「あうう……」
本当に珍しいことに、戦いが始まる前に降伏してくれた。
金属板に眼球が多数生えている艦の見た目は強烈で、俺はARメガネにモザイクをかけるよう指示してから、艦ごと曳行するための作業を始めるのだった。
☆
「姫さん。助太刀はいるか?」
「無用だ。この者たちは腕はなかなかだが艦が脆すぎる。艦長の腕だと殺してしまいかねない」
「大使館経由で立入禁止を伝えているのに突撃してきてるんだから、覚悟の上だと思うがね」
「そう言うな、艦長。この者たちはまだ子供で、我々にはまだ手加減する余裕がある。
手加減といっても艦ごと捕獲したわけではない。
操縦室と爆発しそうな箇所を避けて、綺麗に切断していっているのだ。
「すっごいよこれ!」
「記録装置貸してっ。データとらなきゃ!」
まともな人間なら命乞いや釈明をすべき場面なのに、機械人間たちは研究対象としてのリゼに夢中だ。
そのリゼだが、本人の表情は凜々しいままだが光の翼に元気がない。
「艦長。『フリーキャッスル』に慣れすぎたかもしれぬ。持久力が落ちている」
「戦闘中に数光年の距離を移動したんだから姫さんでも疲れて当たり前だ。全艦を撃破次第、スティレット級に戻ってくれ。宇宙港に急いで戻ってメディカルチェックを受けてもらう」
「ううむ。ギョーショーならまだしも、それ以外の機械人間に診てもらうのは少々怖いな」
「……否定できないから、普通の人間の医者を呼ぶか?」
「ぶーぶー!」
「わたしたちに診させろー! おいしゃさんだぞー!」
その飛び抜けた能力よりも、他人の銀河に押し入ろうとして失敗したのにこの態度を続ける性根が、とても怖い。
俺は一度息を吐いて気持ちを切り替え、リゼの近くにスティレット級を移動させてから、トラクタービームで操縦席(救難艇)を回収していくのだった。
☆
ダンジョン惑星がある星系に外縁まで光速の数百倍の速度で戻る。
宇宙港にスティレット級を停泊させると、肩だけでなく全身から重みが消えた気がした。
「艦長。停泊しているスティレット級は八隻もあるぞ!」
リゼが嬉しそうに言って、俺に振り返る。
しかし、リゼの姿が一瞬で消えた、というより隠された。
「主!」
八頭身の魔剣がリゼに抱きついている。
いや、全身を使って絡みついている。
異能や魔法じみてきた俺の『目』でも全く気づけなかった。
魔剣のテレポートは進化しているのかもしれない。
そこにギョーショーからの通信が届く。
「リゼさん! ダンジョンとの出入り口がいきなり消えたのです! 安全装置が起動して人的被害はないですけど大混乱なのです!」
「う、うむ。急ぎ、魔剣を帰還させる」
「やだ! 離れない!」
魔剣の体が邪魔でリゼの顔が見えない。
ただ、見えなくても心底困っているのは分かる。
「ギョーショー、今どこにいる。ダンジョンの中と外で連絡がつくかどうか分かるか?」
リゼが忙しそうなので、俺がギョーショーとの会話を引き継ぐ。
「僕は外でエイルさんとシミュレーターで遊んでたのです。連絡は……最近テレパシーが使える様になった人が内側と連絡してくれてるのです!」
「よし。事前予告なしの訓練だと伝えてくれ。そういうことにする」
「それでうまくいくのです? まあ、とりあえずやってみるのです」
操縦室内の画面に映っていたギョーショーの顔が『しばらくお待ちください』のメッセージ表示に切り替わった。
メッセージの後ろで、デフォルメされたエイルとギョーショーのアニメが踊っている。
「すまぬ艦長。宥めるのに時間がかかりそうだ」
「ダンジョン内には多めに物資を運び込んでいるから、現時点で死傷者がいないならたいしたことにはならないだろ。……しかし」
俺たちが乗るスティレット級の左右に並んでいる艦を見る。
どれも同じスティレット級だが装甲が真新しい。
パイロットが乗り込むのを待っている新造艦だ。
「陛下ぁ! 無理矢理ダンジョンから引き抜くのはぁ、ひどいですぜぇ!」
俺にとっても聞き覚えがある事が聞こえた。
もとはランス級で艦長をしていた、つい最近までダンジョンに籠もって鍛えていた機動兵器乗りだ。
「すまんが、お前を含めて数人しかスティレット級を使いこなせるパイロットがいないんだよ」
「もうちょっとで人間卒業試験にぃ、挑めたんですがねぇ!」
「悪いとは思っているが、本当に数が足りないんだ。パイロットの自前のセンサーで艦外を知覚しながら戦う艦だからな」
「……何度聞いてもぉ、滅茶苦茶ですぜぇ」
「俺も同意見だよ。姫さんを含む全帝国人の暮らしを守るためと思って我慢してくれ。俺も『フリーキャッスル』から引き離されてるんだからよ」
俺もスティレット級に乗れるひとりだ。
操縦技術や戦闘技術で俺より上の船乗りは大勢いるが、ダンジョンでアホみたいに強いモンスターを倒して、超人じみた知覚能力を得たのは俺以外はリゼとギョーショーしかいなかったので、俺が最初のパイロットをする羽目になった。
リゼは生身の方が強いし、ギョーショーは正確には帝国人ではないからな。
「艦長。スティレット級の船乗り……パイロットか? それになれるようエイルを訓練してやって欲しい。私の実家の剣技を磨いて欲しい気持ちはあるが、超光速で跳べる艦がある現代で敢えて剣を磨く意義は薄い」
リゼは心底残念そうで、けれどエイルを思う気持ちが強くあらわれている。
「……姫さん」
俺は沈痛な面持ちで語りかける。
気持ちはなんとなく分かるが、それ以前の問題があるんだ。
「エイルはまだ共和国国籍だと思うんだが」
リゼは何も言わない。
ただ、背中から『にゅっ』と出た光の翼が、混乱して左右別々に上下している。
「もちろん帝国国籍を与えるのは問題ないぞ? 俺もエイルの性格は知っているし、姫さんと連盟で身元保証人になってもいい。でも、エイルに共和国国籍があるのは変わらないぞ?」
「……艦長。どうしよう」
「お話中ごめんなさいなのです! エルザさんがソールってひとを連れてそっちに向かってるらしいのです! エイルさんの件らしいので僕も向かうのです!」
エルフ族らしい優美な『戦艦』と、ギョーショーの企業のペイントがされたスティレット級が、俺たちがいる宇宙港へ向かっている。
二隻が到着次第始まるややこしい交渉を想像して、俺は胃に鈍い痛みを感じていた。




