初の超光速戦闘! 相手は隣の銀河から来た「借金苦の女子大生(機動要塞)」
「技術後進国のみなさん! あたしと契約して技術先進国になろうよ!」
「間に合っとるわ!」
お隣の銀河から来た機動要塞と、ジャバウォック銀河帝国初の超光速戦闘艦の戦いは、この会話から始まった。
機動要塞というのは、宇宙にある基地に超光速移動手段を持たせるという、技術と資源の無駄遣いにしか思えない超戦力だ。
今の銀河帝国なら一隻だけなら建造と運用も可能だろうが、そのあまりの高コストに輸送艦隊の維持も警戒網の維持も不可能になって国家破綻不可避の、ある意味ネタ兵器でしかない。
「なんでー!? すっごく有利な条件提示したよ!? 契約してくれないとあたし借金返せないのに!」
「あんたのデカブツのせいで『あれ』が刺激されて航路が滅茶苦茶になってんだよ! そんなことも気付けない馬鹿と契約できるか馬鹿!」
「馬鹿って二度も言った! 肉人間のくせに生意気!」
球形の機動要塞に無数に生えた砲門から質量弾が延々吐き出される。
ギョーショーやエイルが視聴していたアニメでいう『弾幕』って奴かもしれない。
弾の度速度は当然のように超光速だ。
「こんなのが知覚できるとは、俺も人間やめてきたな畜生!」
警戒網に反応があって即座に星系外縁から出撃できたので、ここは帝国はもちろん帝国が存在する銀河からも離れていて、『あれ』はほとんどいない。
だから、艦の内部まで新装甲を多用して、無理やり高出力高加速にした実験艦の性能を最大限引き出せる。
「ちょっと! 離れないと撃ち落としちゃうよ!」
「離れたら俺たちの銀河へ向かうだろうが。クソっ。自動操縦なのに良い動きをしやがる!」
『弾幕』を避けたところに複数の質量弾が『置いて』あった。
おそらく五感以外のもので知覚した俺は、全身に嫌な汗を浮かべながら実験艦の進路を鋭角で曲げる。
ARメガネに、犯罪者が全身を撮影されたときのような全身図が表示される。
機動要塞の特徴と通信内容をもとに、センパイ大使から提供された『危険人物リスト』から該当者を割り出したのだ。
「あんた! 良いところのお嬢さんなのになんでわざわざ危険な銀河間移動をする! 事故率は酷いって聞いたぞ!」
「本当の良いところの出なら借金せずに銀河間連絡船を買えるわよ! こちとら卒業論文に苦労する苦学生だぞこらー!」
「卒論で余所の銀河を危険に晒すなと言ってるんだよこのクソ機械人間っ!」
実験艦の慣性制御装置では、頻繁な加速を制御しきれない。
ギョーショーから購入した高価なパイロットスーツと操縦席を使っているのに、俺の全身の骨がきしんでいる。
「卒業できたらハカセの助手にもなれそうなのに!」
「またハカセか! いい加減にしてくれ!」
『弾幕』のわずかな隙間に割り込む。
被弾して艦の装甲がかなり削られ、接触の衝撃で明後日の方向へ吹き飛ばされそうになるのを、超光速機関を酷使することでなんとか防ぐ。
「ふふふ、近付きすぎたね! あたしの新型トラクタービームで捉えて、実験場への道案内にしてあげる!」
「本音が出てるぞ不良学生が!」
不可視のトラクタービームが実験艦を捉える。
速度が超光速からほとんどゼロにまで落ちるが、実はメリットもある。
『普通』の超光速戦闘なら遅すぎて役に立たない、『光速の数割増しの速度しか出ない』ミサイルが実用可能になるのだ。
「ちょっ、やめっ」
「操縦室が脱出艇になってるんだろ? 脱出したら俺たちの国まで連れて行ってやるよ! 引き渡し先は契約国連合の大使館だがな!」
船倉いっぱいのミサイルが宇宙空間に投棄され、自動的に点火して機動要塞へ直進する。
対空砲火は激烈で、大量のミサイル全てが激しく、そして同程度に輝く。
機動要塞の主が正規のパイロットライセンスを持っていれば、確実にミサイルの数を減らすよう対空砲火を偏らせていたはずだった。
「いやぁぁぁっ!」
ミサイルの半分程度が機動要塞に直撃する。
良くていくつかひび割れが生じる程度だと思っていたのに、実際に起きたのは『衝撃に耐えきれずに弾け飛ぶ装甲と機動要塞骨格の一部』だ。
ARメガネに新たな情報が表示される。
ギョーショーから渡されたカタログのデータを調べたところ、この機動要塞は契約国連合の基準で『とても安価』で『積載量が取り柄』らしい。
それでもこれほどの被害が出るということは、銀河間の移動で必要なエネルギーや物資を積むために防御を極限まで薄くしていたようだ。
機動要塞のあちこちで破壊が広がり、脱出機能が作動して脱出艇が打ち出された。
「クソっ。『あれ』が近付いてきやがった!」
トラクタービームが消えたので、小爆発を繰り返しながら崩れていく機動要塞から超光速で離れる。
青白い海洋生物に似た『あれ』が大口を開けて食おうとした脱出艇に近づき、実験艦のトラクタービームで捕獲。
そのまま加速して『あれ』の知覚範囲の外まで逃げ出そうとする。
「爆発が止まった? いや、『あれ』が消火したのか。機動要塞の残骸に潜り込んで……寝床にでもする気か?」
「あ、あたしのお船ー!」
『びえーん』という泣き声が、とてもうるさい。
所属国家の力関係的に殺すのは無理だが、口でねちねち攻撃してやりたい。
だが……。
「一応客人あつかいはしてやるよ」
「データとらせてよぉ。ダンジョン調べさせてよぉ。マスター候補を紹介してよぉ!」
「調子に乗るのは機械人間の種族的特徴なのか? おい、クラッキングしようとするんじゃない。客人あつかいから罪人あつかいに切り替えるぞ」
思考速度の差がありすぎるので、まともな方法ではクラッキングを防ぐのは不可能だ。
だから俺は、簡易AIも使わない、ほぼ手動で帰還を開始する。
「……謎生物だったんだ」
「どうだろうな。ただの人間かもしれんぞ?」
手動でできても自慢にはならない。
時間がかかるし、航路もずれるので頻繁に操作が必要になる。
俺は捕虜の話を聞き流しながら、安全運転を心掛けた。
☆
「ジャバウォック銀河帝国国営放送総合ニュースの時間になったのです! 司会は僕、ギョーショーちゃん!」
「解説のポーターだ」
「ゲストのセンパイと申します」
超大企業のトップ、銀河帝国のトップ、銀河規模の超大国から派遣された特命全権大使の三人による総合ニュースは、実質的にはほぼ娯楽番組だ。
なお、三人の機嫌や友好度によって、帝国の国債利率や様々な企業の株価が乱高下する、ある意味でスリリングな番組でもあった。
「ついに超光速戦闘艦が就役したのです! 国産なのです!」
「主力のタキオン砲も大砲(超光速質量兵器)も契約国連合の設計だ。まあ、本体が自作できるようになったのは感慨深いな」
「星間国家が超光速戦闘艦の実用化に至るのは、実は珍しいことではありません。しかし、実用化に至るまでに惑星環境が破壊されることも資源地帯が崩壊することもなかったのは、契約国連合の領域では考えられないことです」
センパイ大使は、感動と祝福の感情を分かり易く顔に出す。
自国への好感度を上げることも大使にとっての重要任務なんだろうが、そんな態度では、契約国連合やその周辺諸国のいかれっぷりが広まってドン引きされるだけだと思う。
「そしてこれが、新型艦なのです!」
俺たちの背後にある大きな画面に、数時間前の戦闘が『編集』された上で表示される。
『あれ』の情報は刺激的すぎるから公開する相手を選ぶ必要があるので『あれ』は削除されているし、帝国人の契約国連合への感情が悪化しすぎるとまずいので、機動要塞に乗っていた機械人間の言動はマイルドに『編集』されている。
「スティレット級と命名した。ランス級と同じように、古代の白兵武器に似た形状のものがあったからな」
本体は非常に細長く、一カ所だけ左右に細く突き出した部分がある。
全長も全幅もランス級より大きいが、体積は同程度だ。
「それでは次のニュースなのです! 牛さんが子牛をうんだのです!」
ニュースというより雑談なのはいつものことだ。
脱線し続けるギョーショーと、ツッコミを入れる俺と、隙あらば契約国連合やその文化の紹介をするセンパイ大使のトリオは、急速に知名度を獲得していた。
☆
戦闘、ニュース番組への参加、帝国の各部門が立案する計画のチェックと承認(または却下か修正命令)など、皇帝の仕事は多岐にわたる。
それら全ての仕事より重要度が高いのが、姫騎士リゼの相手だ。
「お疲れ、姫さん」
「うむ。私はレベルアップで爽快だが、魔剣の奴がな」
リゼは八頭身姿の魔剣を左手で俵担ぎして、魔王の剣を抜き身のまま右手で持っている。
魔剣は『ぴくり』とも動かない。
「まさか、戦死か?」
「こちらの体の動きが鈍すぎる故、魔王の剣に意識を集中させている。私が抱えて戦う方がマシだったのだ」
「そりゃ大変だったな」
なんとなく、本当になんとなくだがリゼが一回り強くなっている気がする。
具体的にどの程度強くなっているかは、全く分からない。
「うむ。しかし今の魔剣がいればこの『剣』を精密に扱える。……力任せに使って砕いてしまえば、ダンジョンへの出入りもできなくなるがな」
「エルフ族にとっては魔王の剣でも、姫さんにとっては頑丈さが足りないマジックアイテムか。そういえばヒートソードは?」
俺が聞くと、リゼは寂しげな表情になった。
「頑丈さが足りぬ。大量に持ち込んでも、一日戦えば全て砕けてしまう」
「例の『曲刀』は?」
「主の剣は、俺、だけ!」
魔剣が目を開く。
相変わらずのガンギマリっぷりで、リゼが量産品ではない剣を持てばリゼに逆らっても剣を破壊してしまいそうだ。
「艦長。見ての通り、この件は妥協不可能だ。……どうしよう」
本当に珍しいことに、リゼは途方にくれていた。
俺も解決策を思いつけない。
「だーかーらー! 僕はギョーショーちゃんになったのです!」
「それって完全に違法だよ!」
楽しそうに騒いでいる機械人間がふたりいる。
ギョーショーと捕虜だ。
捕虜の機械人間は、俺が通信で会話したときにはなかったチョーカーをしている。
首輪にしてはお洒落すぎ、純粋なお洒落以外の意味がありそうな、特徴的なデザインだ。
「先輩も法的に問題ないって言ってたのです! センパイって名乗ってるのです!」
「外交官なんて『結果が手段を正当化する』って言って全然正当化できない人たちだよ! ちょっと待って、あの人、センパイ大使って名乗ってるの!?」
「羨ましいのです?」
「やりすぎでドン引きしてるの!」
本当に仲が良さそうだ。
リゼをちらりと見ると、リゼも小さく頷いた。
「艦長。気付いているか。ギョーショーは目を点滅させているのに、もう一人の機械人間の目に変化がない。まるで普通の人間の目だ」
「そんなに気にすることか? もともとギョーショーの目も光るだけで人間っぽかったろ」
「艦長。そうではないのだ。機械であるのに、人間の性質を併せ持っている。本当に機械人間なのか?」
「やべっ。リゼさんがいたのです!」
「ちょっと待ってよ! おしゃべりを続けていたから偉いひとじゃないと思って……うそ」
気楽な学生という雰囲気だった捕虜の目が見開かれる。
魔剣のような独占欲と崇拝がどろどろに混じったものとも異なる、最高の研究対象を見つけた研究者のぎらつく目に変わった。
物理的には光っていないのに、圧力がすごい。
「謎生物の頂点個体!? ううん、違う。わけわかんないくらい存在感が強いのは同じだけど、性質が全然違う」
捕虜がリゼににじり寄る。
担がれたままの魔剣に『あっちいけ』されても止まらず、後ろからギョーショーに全身で引っ張られて前に進めなくなる。
「特に希望がないなら、銀河間の有人輸送が可能になり次第、向こうの銀河に送り返すことになる」
俺が言うと、捕虜が勢いよく俺に向き直り、叫ぶように言った。
「移民、亡命、就労でもなんでもいいです! ここで働かせてください! あたしの専攻は有機素材だけど、古代の品の修復には自信があります! 学費もお船も修復で稼ぎました! 刀とか得意です!」
「詳しく」
魔剣が手を伸ばして捕虜の肩をつかむ。
非常に不安定な姿勢になるが、圧倒的な身体能力と体を動かすセンスの両方を持つリゼは揺れすらしない。
「じゃあ長期滞在の方針でセンパイ大使と話をするぞ。姫さん、話がまとまったら連絡をくれ」
「うむ。艦長は縁に恵まれているな」
豪華ではあるが古さが隠せない魔王の剣を手に、リゼは静かに微笑んでいた。
次回更新は04/16 21:10を予定しています!




