狂気の新型艦とパクリ疑惑? 『あれ』だけでなく、銀河の彼方からも脅威が近付く
「純国産の新型艦設計は難航中です」
「特に攻撃兵器の開発が遅れており、ギョーショー殿のカタログにある攻撃兵器の最低スペックに追いつくまで何世紀かかるか分かりません」
研究部門からの報告は絶望的なものばかりだ。
報告者もどんよりした気持ちを隠しきれていない。
しかし、一人だけ元気な報告者がいる。
「陛下! 今朝、実験艦の初航行に成功しました!」
ギョーショー由来の化粧品で隠しても隠しきれない疲れと、狂気的な目の光が印象的だ。
ただ、他の報告者からの視線は冷ややかだ。
嫉妬とは違う。
明らかな失敗作を持ち込んだ人間に対する態度に近い。
「主要パーツ全てに新装甲を使ったランス級です! 全ての性能が劇的に向上するのを確認できました!」
画面に試験航行の様子が表示される。
加減速、レーザーや質量弾やミサイルを使った標的艦の破壊、亜光速や光速の数倍の速度での模擬戦の内容だ。
一見ランス級に似てはいるが構成するパーツが変わったので色々と突き出している実験艦が、ランス級を相手に速度の優位を活かした戦いをしている。
レーザーの出力も質量弾の発射速度も上がっているようだが、命中精度に変化はないので火力は同レベルといってよい。
それでも速度は素晴らしい。
これだけ速ければ、契約国連合の無法者が襲来しても迎撃をすることは可能なはずだ。勝てるかどうかは別問題だが。
「うむ。素晴らしい」
「お姉さま。新装甲以外は全て帝国の技術ということは、帝国独自の軍事力がこの銀河でも特別に高くなったということなのですねっ」
エイルはまだ共和国国籍のはずなのだが、本人の意識は既に帝国人らしい。
本人に聞けば『わたくしはお姉さまの妹で弟子ですから帝国国籍ですわ』と真顔で答えるだろう。
「コストが」
出席者から悲鳴のような声が聞こえる。
陰口ではないはずだ。
万が一にもこれが採用されたら国が傾くという危機感だけがある。
「一隻でランス級艦隊の値段か」
俺はしぶい表情になる。
速くなければ戦う事すらできないとはいえ、それほど強くないのにこの価格というのは厳しい。
「コストに見合った性能だと自負しております!」
狂気の研究者が自信満々で断言する。
亜光速と光速の速度差は圧倒的なので、その言葉は部分的には正しい。
「問題は維持コストだな。『フリーキャッスル』の表面の装甲を張り替えるだけでもコストは相当なものだ。艦のフレーム、動力炉、超光速機関まで、整備のコストが激増するぞ」
「区画ごとに交換すれば、整備コストは実用的な範囲におさまります!」
「ランス級の数個艦隊分の維持コストを常識的な範囲とはいえんよ。ギョーショーから艦を購入できる現状では特にな」
そういえば、しばらくギョーショーの声を聞いていない。
オブザーバー席で我が物顔でくつろいで、エイルと結構な頻度で雑談をしていたはずなんだが。
「んー。なにか見覚えがあるのです」
ギョーショーが、牛乳入りのグラスを片手にまたたきをする。
オブザーバー席周辺の画面に大量のカタログの内容を表示させ、肉人間には読み取れない速度でスクロールさせている。
「ギョーショー。流れ弾で恒星を消し飛ばしそうな艦があるのだが」
読み取れたらしいリゼが、頭痛をこらえる仕草をする。
主を傷つけられたと勘違いした魔剣が魔王の剣を召喚しようとして、リゼに軽くデコピンされて幸せそうな顔になる。
リゼに構われることが最高の喜びなのだろう。
「そういう艦は、誤射しなくて頭に血が上っても変な攻撃をしないパイロットが乗るものなのです。契約国連合ではめちゃくちゃ少ないのです! ……あったのです、これなのです!」
スクロールが停止する。
『汎用巡洋艦』と銘打たれた設計は、狂気の研究者が開発した実験艦に、似すぎていた。
「めちゃくちゃ古い艦にそっくりなのです! 収斂進化なのです?」
「陛下」
オブザーバー参加していた情報部門の人間が挙手をする。
狂気の研究者は呆然としている。
「なぜ? 私は、私が開発したのに、なぜ同じものが……」
「情報部門は、情報漏洩対策でこの者の監視も行っております。違法な情報へのアクセスは確認できていません」
「報告御苦労。しかし、たまたまにしては似すぎているな」
「カタログにもアクセスされた記録がないのです。今ギョーショーちゃんがアクセスしたのが約二十年ぶりのアクセスなのです」
妙なことになったな。
だが、今この研究者を罰するのは『なし』だ。
「昔の艦とはいえ、超大国の艦に酷似した艦を作れるってのはたいしたもんだ。今後も成果を期待する。……それでいいな、姫さん」
「無論だ。今は契約国連合に援助されている立場だが、いずれは追いつかねばならぬ。期待しているぞ」
狂気の研究者は……混乱と落胆したときにリゼに慰められるという強烈な経験をした研究者は、狂気は狂気でも狂気的な忠誠心を持つ研究者に変わっていた。
研究者たちが退出する。
代わってギョーショーが出席者の席につく。
「完成品を買うのが一番面倒が少ないのです!」
「どうしようもないときのために一隻は注文する。使用目的は迎撃戦だ。一戦だけ戦えればいい」
「定番商品なのでいっぱいあるのです!」
「このカタログか。……このあたりに乗っている設計ぜんぶ、設計者がハカセなのか。この名前、どこにでも出てくるな」
「競争者が多い名前をほぼ独占し続けている化け物なのです。ハイパーレーンと位相跳躍を除けば、だいたいハカセが開発した技術が基本なのです……」
「そんな化け物でも契約国連合のトップにはなれないのか。それとも実質的な支配者なのか?」
「人望、なのです」
「ああ、そういうこと」
俺とギョーショーの会話は、納得と共感で終わった。
「艦長。その艦は『いざというとき』専用だろう。超光速戦闘用の艦は、どれを主力にするつもりだ」
「できれば、国産艦である実験艦をもとに、量産する超光速戦闘艦を決定したいと思っている。だが性能面では、契約国連合の艦と比べるとな」
「別に難しく考える必要ないのです! 汎用巡洋艦そっくりなのを自力開発できたのですから、汎用巡洋艦や汎用巡洋艦の後継艦を参考にしちゃえばいいのです!」
「おいギョーショー、お前なにを考えている。お前はたまの気紛れを除けば、儲けが少なくなる真似はしないだろ」
「ハカセの設計の艦を売るとハカセに技術使用料を払わないといけないので、それ以外の艦を作って嫌がらせするのです!」
ギョーショーは、曇りなき瞳で、無邪気な悪意を露わにする。
「陛下。ギョーショーさんとセンパイ大使さまの原型になった方と、ハカセさまとの間で、とても長い間、不和が続いているらしいですわ」
エイルがこっそり教えてくれる。
「ってことは、ギョーショーたちは少数民族や被差別民の立場にあるのか?」
「被差別民でああいう性格になるとはとても思えないですわっ!」
おそらくこの銀河で最もギョーショーと仲の良いエイルが『親友のことは悪く言いたくないですわっ』という表情になる。
ギョーショーはどちらかというと、甘やかされて育った末っ子タイプだよな。
「不純異性交遊はお勧めしないのです」
ギョーショーが俺とエイルの間に割り込んでくる。
エイルは困った顔になり、俺はギョーショーを呼ぶ手間が省けたことにほっとする。
「なあギョーショー。契約国連合が、実は内乱寸前だったりするか?」
「なんでそうなるのです? あっ。良識派の元評議会議長が老衰から回復したらしいので、あっちの銀河で実験しにくくなったハカセが暴れる可能性ならあるのです!」
「こっちの銀河に影響しないようにしてくれ。まあそれも重要な情報だが、ギョーショーがハカセに喧嘩を売って大丈夫か?」
「んー。僕も先輩も、肉人間でいう『外戚一族』なのです。だいぶニュアンスは違うですけど、僕や先輩がハカセと揉めたら、僕らの原型の機械人間とそのマスターが、嬉々としてハカセを叩きに出てくるのです!」
「最悪の場合、銀河帝国がハカセとその敵対者の戦場になるってことじゃねーか! ギョーショー、お前はもう少し大人しくしろ。おい、聞いたな? 軍拡をぎりぎりまで進めるぞ。余所の銀河の内紛に巻き込まれて滅ぶなんて冗談じゃないからな!」
結論が出るまで何十日もかかってもおかしくない会議が、一日も経たずに結論を出して終了した。
☆
俺を含む一般的な人間は、関係部署に決定事項を伝えてから長時間熟睡した。
リゼと魔剣はダンジョンへ修行へ向かい、俺が起床したときはまだ戻っていなかった。
「行くか」
『フリーキャッスル』に乗って、執務をしながら自動操縦で数十時間かけて星系外縁の宇宙港へ移動。
そこで、補給が終わった実験艦へ乗り込んだ。
「ポーターさん! 艦のバランスがめちゃくちゃになってるのです!」
「ランス級をいじくり回して作ったんだから艦のバランスも変わるだろ」
俺は操縦席に座り、実験艦を亜光速移動させて操縦の感覚を掴もうとする。
輸送艦である『フリーキャッスル』より加速は力強く、操作にも即座に反応がある。
ただ、一度操縦に失敗すると、帰還のための燃料がなくなるほど加速しそうな怖さがある。
「陛下。近くに輸送船がとても多い……多すぎですわ」
「ダンジョンで戦えば異様に強くなることが知られ始めたからな。帝国内外から人が集まってるんだよ」
陸戦隊による『デモンストレーション』は予想以上に効果が出た。
艦があるから人間の戦闘力の大小は関係ないという意見もあるが、人間は生身で会うことも多いので本人の強さも重要だ。
それに、強くなる……レベルアップには他にも利点がある。
「ポーターさん! 超光速機関が制限を解除したのです!」
「了解。始めるぞ」
星系外縁で加速し、超光速まで加速する。
レベルアップで性能が上がった俺の『目』が、かつて極彩色に見えていた宇宙に浮かぶ多数の『あれ』を捉える。
「融け崩れた犬、か? どれも嫌な意味で特徴的だ」
「わたくしには見えません。もっと強くならないと、ですわっ」
まともな生き物とは思えないほど巨大で、まともな存在とは思えないほど気配が狂っている。
直視すれば精神が不安定になってしまいそうだ。
「ポーターさん。そろそろ『あれ』じゃなくて名前をつけるのです! ……あ、実験艦が減速してるのです」
「俺にネーミングセンスを期待するなといつも言ってるだろう。……『あれ』が隠れていても、一定の範囲まで近付けば超光速機関が自動で減速や方向転換するみたいだな。さて、あとは兵器の確認だが」
「超光速戦闘ではレーザーや普通の質量兵器は役に立たないのです。移動が大丈夫そうなら、一度戻ってタキオン砲や超光速質量弾兵器に載せ替えるのです!」
言うまでもないことだが、銀河帝国にタキオン兵器や、超光速で質量弾を飛ばす兵器は存在しない。
全部ギョーショーの商品だ。
「おう。値引きは頼むぞ」
「魔剣の件で迷惑かけちゃったので、身内価格からちょっとだけ勉強するのです。ちょっとだけなのです!」
超光速通信越しに会話する俺たちは、お互いを見ていない。
俺は『あれ』への警戒もしているが、俺もギョーショーも、何もないはずの方向が気になって仕方がない。
ギョーショーの隣にいるエイルだけが気付かず、不思議そうにしていた。
「この方向は契約国連合がある銀河の方向ではないよな?」
「位相跳躍でぶっ飛ばして来るならこっちの方向からになるのです! 直線だと逆に遠回りなのです!」
「……軍拡には金も人も物も必要なんだがなぁ」
ため息が出る。
それでも、諦めて立ち止まることだけは、絶対にしない。
今回の話で第八章は完結です!
次回更新は04/15 21:10を予定しています!




