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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第八章

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安易な『魔剣』という名付けは、他銀河からの超光速遠征艦隊(やべーやつら)を呼び寄せる

「今日は総合ニュースはなしなのです!」


 ジャバウォック銀河帝国国営放送総合ニュースが史上最短で終わった直後、銀河帝国と関係が深い企業全ての株価が暴落した。

 凄まじく不機嫌なギョーショーの顔が、ギョーショーと銀河帝国の関係悪化を暗示させたからだ。

 もちろん関係悪化などしていないが、今さら言っても株価はもとには戻らない。


「ギョーショーも問題だがセンパイ大使はもっとヤバイ。情報通なら、契約国連合の名は知らなくても、帝国が別銀河と取り引きしているのは気付いている。別銀河と帝国の関係悪化は、帝国にとって致命的な事態ってこともな」


 もちろん契約国連合との関係は友好的なままだ。

 非友好的なのは、元『ネックレス』の機械人間っぽい何かと、ギョーショーたち機械人間の関係だ。


「姫さん、何か解決策はあるか?」


「艦長。相談に来たのは私だ」


 疲れたように言うリゼの左手と左足に絡みつくように抱きついているのが元『ネックレス』だ。

 俺に対する敵意も好意も感じない。

 文字通りの『無関心』だ。


「感情の問題には明確な『正解』はないからな。無理に解決しようとしたら今よりも悪化しかねん。こういうときは一旦放置するのもありだと思うぞ」


「本当か? うむ、あまりひっつくな。動きづらいではないか」


 リゼの態度は、同性や異性に対する態度ではなく道具に対するものだ。

 それは雑であることを意味しない。

 愛着のある実用品に対する、遠慮のなさと丁寧さの両立した、手際の良いやり方だった。


「姫さん。そいつに名前はあるのか」


「私は武器に名をつける習慣を持たぬ。が、武器であり人であるなら名前をつけるべきかもしれん」


 元『ネックレス』が初めて俺に興味を示した。

 俺本人ではなく、俺の発言の内容についてだろうがな。


「だが思いつかぬ。艦長、何か案は……」


 元『ネックレス』がリゼにすがりつく。

 俺に対する敵意に近いものも感じる。


「俺に名前つけていいの、マスターだけ!」


「名前の案を思いつかないのでは、名付けもしようがないではないか」


 リゼは助けを求めるつもりで俺を見る。

 元『ネックレス』は『余計なことを言うなよ』という目で俺を睨んでいる。


「魔剣でいいんじゃないか? 超古代なら魔剣と呼べるマジックアイテムが複数あったのかもしれんが、今の時代の魔剣はそいつだけだろ。一般名詞が個人名になるってのも、乙なものじゃないか?」


 魔王の剣を略して魔剣と読んでいるだけなのは黙っておく。

 俺にネーミングセンスはないんだよ。


「ほう。それはいい」


「マスターの唯一の魔剣で、世界唯一の魔剣! 人間、褒めてやる!」


「我が主君に無礼な口を聞くでない。すまぬ、艦長。後で言い聞かせる」


「構わんよ。でかい口を叩いても当然の能力を持っているし、俺だけでなく帝国全体が、魔剣の世話になるわけだしな」


 ダンジョンを利用できなくなった時点で、契約国連合相手の交易品が『星系内にあるいずれ尽きる水資源』しかなくなるんだ。

 無限または無限に等しい資源があるダンジョンへの出入り口を司る魔剣の立場は、それほど強い。


「俺が世話するの、マスターだけ!」


 魔剣は『むっ』として俺を強い目で睨む。

 リゼは魔剣の頬をつねって『おしおき』している。


「もちろんだ。姫さんあっての帝国、姫さんあっての魔剣だ。魔剣は剣として、俺たち帝国は国として姫さんを支える。俺たちは同僚ってことだ」


「ん? んんー?」


 魔剣は困惑する。

 そこに敵意や嫌悪がないことを確認した俺は、魔剣に悟られないよう、ほっと息を吐く。

 これなら、魔剣から敵意を向けられないですみそうだ。


「で、姫さん。いつ頃になりそうだ」


 ダンジョン惑星にリゼが不在のときに、ダンジョンへの出入り口を、魔剣ひとりに開かせる件だ。


「こやつが落ち着くまではダンジョン惑星を離れることはできぬ」


「俺、主と一緒にいる!」


「艦長。星系内であれば遠隔で開閉可能だ。実際に試した」


 リゼは魔剣に対して敵意はないが『要求が多いよね』と感じてる気配がある。

 背中から少し出ている光の翼も『うんざり』した感じで下がっている。


「なるほどな」


 俺は大きく頷き、リゼが一年の大部分を過ごす惑星(ダンジョンも含む)がどういう扱いになるか考える。

 どう考えても膨大な人と物と金が集まり、第一星系より首都にふさわしい場所になる。


「近いうちにダンジョン惑星に遷都する。確定と思っていい」


「うむ……。艦長。無理はしていないか?」


「無理をしないために遷都するんだ。星系の大部分が共和国のものって問題はあるが、地方の帝国人が第一星系までやってきても『姫騎士に会える可能性がゼロ』ってのはまずい。姫さんは帝国の象徴でもあるからな」


「さすがマスター!」


 魔剣はリゼに今以上に密着しようとして、リゼに躱されて体勢を崩す。

 勢いよく倒れる寸前に、どこからともなく現れた魔王の剣を杖代わりにして体を支える。

 これは、現れたのではなく、呼び寄せやがったな。


「『ネックレス』が魔剣になってから、知らないことがどんどん判明してくな」


「うむ。以前も通じ合っていたつもりだが、全く不十分だったようだ」


「そんなことない! 俺と主はずっと通じ合ってる!」


 魔剣は必死に主張しているが、勢いはあっても説得力はない。

 実際、リゼがダンジョン惑星かダンジョン内にいないと出入り口を開けられないと、リゼも含めて思い込んでいたからな。


「話は変わるが、姫さんもたまには外出したいはずだ。遠隔で開閉できるようになるか、ダンジョンを一時封鎖できるようにしておけよ」


 俺に言われた魔剣が『お前の命令なんて聞くか』という感じで露骨に機嫌を損ねる。


「ふむ。それができるなら帝国の星系を巡ることも可能か。ふふ、今から楽しみだな」


「が、がんばるよ、マスター!」


 魔剣がリゼに対して従順なことは確認できて、俺は、胃の痛みが薄れていくのを感じていた。



  ☆



「ポーターさん。話があるのです」


「皇帝陛下。今、お時間よろしいでしょうか」


 ギョーショーやセンパイ大使から要請されれば断れないのに、ふたり同時だ。

 俺は即座に頷き、ダンジョン惑星の衛星軌道上にある、ギョーショーのダンジョン惑星支店に向かった。


「魔剣の奴を黙らせて欲しいのです! あいつ、僕の前でいっつものろけてるのです!」


 ギョーショーは目を『ぴかぴか』させて怒りを露わにしている。

 だがなギョーショー。

 魔剣の奴は、いつも惚気ている気がするぞ。


「ギョーショー。個人的な話は後にしなさい。陛下、機械人間にとっての『一般名詞を名前にする』ことの意味、ご存じでしょうか」


「ギョーショーが雑談で何か言っていた気もするが……。すまん。記憶にない」


 センパイ大使は静かな表情のままギョーショーに視線を向ける。

 ギョーショーは『盾』にできそうなものを探し、俺では『盾』にならないと判断して全面降伏した。


「一度ポーターさんに聞き流されてそのままなのです!」


「……ギョーショーに対する説教は後回しです」


 センパイ大使は基本的にいつも真剣だが、今回の迫力は特別だ。


「陛下。契約国連合の文化圏において、『一般名詞を名前にする』には、その分野における第一人者である必要があります」


「まさか、ギョーショーも?」


「いいえ。別の銀河であれば制限も緩みます。文化や慣習の穴をつくやり方なので推奨はされませんが」


「それを言うなら先輩も同じなのです! 最初に自動翻訳機が翻訳ミスしたのを利用して、センパイを名前にしちゃったのです!」


 センパイ大使は微かに微笑んでギョーショーの文句を無視した。

 妙に迫力があって、俺は今のセンパイ大使を追求できない。


「あの機械人間もどき……失礼。あの元『ネックレス』様は陛下に魔剣と名付けられました。これは、契約国連合の文化圏、特に機械人間にとっては特別な名誉に相当します。場合によっては、ハカセの名前に匹敵するかもしれません」


「少し待ってくれ。これまで何度かハカセって名前を聞いているが、これって個人名じゃないのか?」


「ほぼ個人名なのです! 契約国連合の建国から今まで、たぶん九割くらいの期間、同一人物がハカセをしているだけなのです!」


「……そりゃ、生ける伝説とか、銀河史に名が刻まれるってレベルの偉人じゃないか!」


「はい」


「性格はともかく能力と功績はその通りなのです。で、先輩の言いたいこと言っちゃいますけど、魔剣の奴、絶対に、滅茶苦茶嫉妬されるのです。マスターを得たのはまだいいのです。とっても長い時間を耐え抜いたからリゼさんに再会できたのです。でも、今回の件はただの運なのです。嫉妬されるだけじゃすまないかもなのです! マスターと名前の両方って時点でもうやばいのです!」


 それは、機械人間に性格が非常に悪い奴がいるだけなのでは?

 俺は口にはしなかったが、顔には出ていたようだ。


「銀河間の距離があるので、直接的に魔剣を攻撃してくる者はほとんどいないはずです。ですが、魔剣と敵対する陣営に協力をする者はかなりの数になるでしょう」


「性格、悪くないか?」


 口に出してしまった。


「それだけ『一般名詞を名前にする』のが特別なことなのです。こっちにこっそり渡ってきて二本目の魔剣を作るなんてことしかねないのが……えっと、僕のともだちにもいるのです」


「お、おう」


 俺、名付けに失敗したかもしれん。


「陛下。これが一件目です」


「まだあるのか!」


「はい。しかし二件目は一件目の問題を小規模に抑え込む手段でもあります。契約国連合は、超光速戦闘が前提の艦の建造およびパイロット養成について、ジャバウォック銀河帝国に協力する準備があります」


「……支援にしては大盤振る舞いが過ぎると思うが、必要なんだな?」


「はい。実験対象として極めて魅力的なものだけでなく、あちらの銀河では奇跡にすがるしかない『無汚染水の新規生産』があるのがジャバウォック銀河帝国です。契約国連合としては介入が両者の喪失に繋がるのを恐れて直接手出しはしませんが、彼らが本格的な遠征艦隊を送り込んでくる恐れがあります」


「待ってくれ。そっちの銀河はどうなっているか知らないが、こっちの銀河で超光速移動すると、姫さん級の戦力が出現するぞ。契約国連合には回避手段か撃破手段があるのか?」


「採算度外視なら撃破は可能なはずなのです。でも、『あれ』を殺しきれなかったとき、水資源がある惑星や可住惑星に悪影響がないとは断言できないのです」


 逃げた『あれ』が惑星を破壊したり、同族が殺されたことに気付いた『あれ』が暴れて惑星を破壊したり艦の超光速移動を邪魔するようになったりと、様々な『最悪の可能性』が考えられる。


「契約国連合から提供する超光速戦闘手段は、こちらの銀河に到達されるまでに迎撃するための手段とお考え下さい」


 俺は、再発した胃の痛みを感じる。


「そっちの銀河で止めてくれないか?」


「無理です」


「無理なのです! 直轄地でもぎりぎり抑え込んでるのが現状で、それ以外だとあっちの銀河でもかなりやりたい放題されてるのです!」


「……センパイ大使。超光速戦闘が前提の艦の建造およびパイロット養成についての協力を、ジャバウォック銀河帝国として正式に依頼する」


 センパイ大使は即座に頷き、ギョーショーは更新されたカタログを画面に映す。

 艦も、兵器も、推進機関も強力で、それ以上に金額も強力だ。


「まず、強力な胃薬をくれないか?」


 ギョーショーが神妙な顔で、「これはプレゼントです」と一瓶渡してくれた。



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