海賊の黒幕と、契約国連合の狂った資金力。――皇帝が放った『テレパシー通信網』のアイデアと、ただの無機物のふりをする魔王の剣(のコア)
「ふざけるな! 我が国が何をしたというのだ!」
「本気で言ってるなら救えないし、誤魔化しているつもりなら国家元首失格だぜ、あんた」
俺は最後の通信を終えた。
ここはダンジョン惑星から星系六つを経由して辿り着ける、銀河帝国と比べても辺境な星系。
その唯一の友人惑星の静止軌道上だ。
不自然に重武装だった宇宙港は既に破壊され、俺の『フリーキャッスル』により装甲の残骸を引っぺがされている最中だ。
「ポーターさん! 陸戦隊のひとたちに調査して貰った方が早いと思うのです!」
「確実に早いだろうが、宇宙港ごと吹き飛ばす爆弾が仕掛けられたら貴重な兵力が減る。この程度の連中相手にそんなリスクは冒したくない」
「艦長! これより降下を開始する!」
「おう! 派手にやってやれ!」
ランス級八隻が、静止軌道から『ゆっくり』と地表を目指す。
こちらの意図に気付いた地表から、先程に倍する非難と物理的な反撃が向かって来る。
しかしランス級の『シールド』すら貫けない。
ランス級はかすかに『シールド』を揺らしながら、一定の速度で大気の濃い地表へと近付く。
「まさに侵略って感じなのです!」
「実際に侵略だぞ。こいつらが宇宙海賊に協力してたのは事実だがな」
まとめて装甲の残骸を引っ張ると、宇宙港にできた亀裂の奥に、見覚えのある艦が見えた。
まだ組み立て中だが、あの高性能海賊艦だ。
「ひゅー! これで賠償がっぽがっぽなのです!」
「占領したら賠償の請求先もなくなるぞ、ギョーショー」
ランス級は首都の上空数百メートルで、見事な隊列を組んだまま静止する。
そして、船倉が大きく開く。
陸戦隊が整列している。
ダンジョン浅層で戦い続けた猛者たちは、普通の軍服しか着ていないのに猛烈な風が吹きつけても揺れすらしない。
おそらく地表からも感じ取れる威圧感を放っているだろう彼らは、しかし全く目立たない。
先頭に立つリゼの存在感が巨大すぎるのだ。
いつもの姫騎士装束で、今は光の翼も展開していないのに、敵にとっては恐ろしく、味方にとってはどこまでも頼もしい。
「あっ。地表から攻撃なのです」
「パニックになったか。気持ちは分かるがな」
俺はリゼが迎撃すると予想したんだが、現実はさらに強烈だ。
絶望的に射程が短いのを除けば威力も速度も『巡洋艦』を落とすのに十分なミサイルが、生身の陸戦隊たちが腰だめに構えた銃により『削られ』て消滅する。
「ずいぶんとファンタジーになっちまったな」
「リゼさんと比較すると地味なのです!」
「姫さんと比べると誰でも地味だろ」
リゼが首都惑星を見渡し、複数の場所をヒートソードの切っ先で示す。
陸戦隊は数人ごとの班でランス級から飛び降り、危なげなく着地してビルや基地の中へ突入する。
政府要人の大部分を捕虜にされた星系国家が無条件降伏したのは、それからすぐだった。
☆
「どうだ艦長!」
リゼは得意顔だ。
作戦中は姿を現さなかった光翼も、リゼの背中で得意げに『ぱたぱた』している。
「見事なもんだ。連中も人間卒業試験を受けたのか?」
俺とギョーショーもやった、アホみたいに速くて強いドラゴン相手の生身での討伐のことだ。
あれは本当にきつかった。
「艦長やギョーショーほどの才覚の持ち主は滅多におらぬ。……艦長が戦士に向いていないのとは別の話だぞ」
リゼが精一杯気を遣っているのが分かるからこそ、つらい。
「ふたりとも、いちゃついてないで調べるのを手伝って欲しいのです!」
俺はクラッキング、リゼはファンタジーそのものの五感と勘がある。
占領した星系国家の調査には最適な人材だ。
「分かった分かった」
「ギョーショー。機械人間を探せば良いのか?」
「気合いの入った研究職なら、体を捨ててAIとして活動しているかもしれないのです!」
「また難しいことを……」
俺もリゼも文句を言いながら、しかし真剣に調査を行う。
「結局、超光速通信で匿名で贈られた設計データを使っただけだったのです」
「技術の無差別ばらまきかよ」
「覗き見ている気配はない。既に撤退済みかもしれぬ」
なんとなく『してやられた』雰囲気になった。
だから俺は事実を指摘する。
「陸戦隊の実力を見せつけたという意味では大成功だ」
「目撃した肉人間が騒いでいるのです! リゼさんじゃないのに騒ぎすぎなのです!」
「生身で音速すら出せないもんなあ」
「ギョーショーも艦長も感覚が狂っているぞ。私がいないとき、エイルや陸戦隊がどのように評価されるか考えるのだ」
「エイルさんならすごい広告塔になれるのです! こっちの銀河でナンバーワン……はソールってひとがいるのは無理なのでナンバーツーなのです!」
「今回の陸戦隊でも、星間国家の精強さを宣伝する材料になるな」
リゼを基準に考えていたことに気付き、俺とギョーショーはちょっとだけ反省していた。
☆
「超光速通信網のセキュリティ強化を、強く推奨いたします」
センパイ大使が、横暴とすらいえる強烈な態度をしている。
「おーぼーなのです!」
「センパイ殿。理由を聞かせて頂きたい」
ギョーショーは感情を剥き出しにして抗議し、リゼは静かに、真正面から要求する。
「ギョーショーが敷設した超光速通信網は、契約国連合の基準ではセキュリティの強度が極めて低いのです。この銀河の星間国家相手には通用すると思われますが、契約国連合の研究職、それも本気で頂点を目指していた者にとってはセキュリティがないも同然です」
「……確かに」
「うむ。まずいぞ、艦長」
俺もリゼも納得してしまった。
ギョーショーは、俺たちから顔を逸らして、口笛を吹こうとして失敗している。
「ギョーショー、見積もりを頼む」
「嫌なのです! いっぱいお金がかかって、第一星系と第二星系とダンジョン惑星の間にしか通信網を維持できなくなるのです!」
「……通信網を利用できなくなった連中が暴動を起こしそうだな」
「艦長。それだけではないぞ。ギョーショーの通信販売は、超光速通信網と輸送艦隊による配送で成り立っている。通信売買の利用が、限られた場所の特権になってしまうぞ」
「それもあったか」
騒ぐギョーショーの近くで、俺とリゼはため息を吐いた。
「我が国の犯罪者が原因です。補償として資金の援助はさせて頂きます」
センパイ大使が示したのは、普通に買おうとすれば銀河帝国を売り飛ばしても足りない額だ。
これだけの額があれば帝国の借金など一瞬で返せるが、この金をそんな使い方をすれば、契約国連合が俺たちを見限るかもしれない。
この金でギョーショーから技術と物を買えってことだろうしな。
「なあ姫さん。レベルアップをすれば、星系間でテレパシーとかが使えるようになったりはしないのか?」
追い詰められた俺は、そんな無茶苦茶なことを口にしていた。
リゼも小さく現れている光翼も『なにを馬鹿なことを』という雰囲気だったが、すぐに考え込む気配と表情になる。
「不可能ではない。レベルアップで狙った能力を獲得するノウハウはないが、大勢をレベリングすれば有用な能力の持ち主が現れやすくなる。しかも私の石化前と比べて、人口が桁違いに多い」
「よし、決めたぞ。超光速通信網は、今回の資金援助の範囲でセキュリティを強化する。今後、重要な通信は艦を伝令に使う。テレパシーがなんとかなりそうなら、テレパシーに切り替える、ってのはどうだ」
「さすが艦長だ。是非その案でいこう。私はパワーレベリングに注力する」
「いよいよ姫さんがダンジョン惑星に籠もりっきりになるな。いっそダンジョン惑星に遷都するか?」
「あら。そのときは大使館建設の許可を頂きたいです」
センパイ大使が次の要求を突きつけてくる。
「大使館のスタッフを呼び寄せるのか? センパイ大使やギョーショーを見た後だと、機械人間が増えるのは正直怖いな」
俺は静かに伝える。
戦争になっても戦い抜く覚悟はあるが、このふたりのような機械人間が大量にいるなら勝てる自信はない。
「ギョーショーちゃんはエリートなのです! センパイはもともとエリートなのです!」
「ギョーショーはこちらの宇宙でエリートになった、が正しい表現になります。契約国連合は銀河規模の国家ですが、危険な場所に大勢のエリートを送り込む余裕はないのです」
センパイ大使は調子に乗るギョーショーにちくりと刺してから、俺の懸念を和らげる目的の発言をした。
「これまで以上にダンジョンが重要になるな。……姫さん」
「うむ。任せておくがいい。最初にダンジョンに入ったときから覚悟はできている」
リゼの堂々とした態度から、悲壮感も感じられる。
「ああ。姫さんがずっとダンジョン惑星にいることになったら、姫さんと会う機会がなくなった奴らが俺を皇帝の座から引きずり下ろすだろうからな。姫さんがいなくても、ダンジョンの出入り口の維持や、パワーレベリングをできる体制を作るしかない」
「えっ」
リゼが瞬きする。
光りの翼が『その発想はなかった!』と驚きのポーズをしている。
「艦長。私は、エルフ族にとっての魔王ではなく、銀河帝国の筆頭騎士としてなら、ダンジョンに永遠に籠もるのも我慢できるぞ?」
今のリゼは、見た目より若い、あるいは幼い少女に見える。
「我慢できないのは姫さんじゃなくて俺を含んだ帝国人だ。というかだな、ダンジョンの出入り口って姫さんがいないと開閉や維持ができないのか? そいつにやらせれば良くないか?」
俺はリゼの首元を指差す。
『ここが我が安住の地!』という雰囲気で大人しくしていた『ネックレス』が、リゼの首に密着して『絶対に離れない!』と行動で主張している。
「艦長。今までは試しても失敗した故に諦めていたが、ひょっとすると、こやつが拒否していたからではないか?」
「すごく、それっぽいのです」
必死に『ただの無機物』のふりをする『ネックレス』に、ねっとりした視線が集中するのだった。
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