ポンコツ妹分の『第二夫人』疑惑と、宇宙海賊の恐るべき正体。超大国の狂った研究者の介入疑惑に、皇帝は最強の胃薬を要求する
「私が出る!」
宣言したリゼの腰にはヒートソードが、胸元には少し歪んだ『ネックレス』がある。
あれだけ痛めつけられてもリゼに逆らっていた『ネックレス』だが、ヒートソードという量産品がリゼに使われることは許すらしい。
量産品なら『特別』ではない、と思っているのかもな。
「姫さんが海賊狩りに出たら過剰戦力だ。姫さんがダンジョン惑星から離れたと知った時点で、たぶん賊どもは大人しくなるぞ」
俺はリゼを落ち着かせようとする。
会議室の壁は特大の画面で、そこには星系全体の戦力配置が映し出されている。
宇宙海賊の出現情報や、輸送艦隊を襲った記録が多数ある。
「しかし!」
「息抜きのために行くなら止めはしねーよ。だが、その様子じゃ違うだろ? この種の犯罪者は、支援者を潰すか犯罪を割に合わなくさせるまで、殺しても逮捕しても次のが現れるだけだ」
この予測は俺がした予測ではない。
一定以上の組織なら持っている、対宇宙海賊戦の常識だ。
「むう」
リゼは相変わらずご機嫌斜めだが、先程までのような殺意は消えている。
「艦長。それは周辺の国家を征服するということか? まず間違いなく、海賊に出資か使役をしているはずだ」
「征服したら統治しないといけないのを忘れないでくれよ」
俺は釘をさす。
しかしリゼには止まる気配がない。
「征服ではなく懲罰という手段もある。私ひとりでは破壊と威圧しかできぬが、陸戦隊がいれば戦果の拡大も小細工も自由自在だ。艦長。私がダンジョンにいる間に準備を頼む」
「了解した。……すぐ出るのか?」
「たまには拮抗する相手と戦わなければ腕が鈍るのだ。超光速移動中に見える『あれ』を相手にすれば、複数で襲われた時点で私の負けだ。私は、深層の奥へ進んで修行をするつもりだ」
「そうか。留守は任せてくれ」
「うむ! もっとも、出発前の景気づけに宝箱を開けてからの話だ。石化前に何度か戦いはしたが、宝箱を回収する余裕もなかったからな。実はすごく楽しみにしているぞ!」
リゼが話しているうちにリゼの背中から光の翼が伸びて、上機嫌に『ぱたぱた』と上下していた。
☆
中身は、味も素っ気もない、金属の塊だった。
「軽く、頑丈ではあるが……」
リゼは腰にあるヒートソードの重さと比べて、すごく残念そうな顔になる。
金属塊を渡してもらったエイルが予想外の重さに落としかけて、三頭身の体で滑り込んで受け止めたギョーショーと当たって『ごつん』と重い音を発生させる。
「んー。あの刀の素材と比べると、あんまり使い道がない金属なのです」
「銀河規模の国からの贈り物と比べるなよ。姫さんが石にされる前の時代なら、結構良い金属だったんじゃないか?」
「超光速移動できるかできないかの技術水準だと、超貴重なはずなのです!」
「艦長。ギョーショーもだ。あまり追い打ちしてくれるな。これでも落ち込んでいるのだぞ」
「すまん」
「ごめんなさいなのです」
俺もギョーショーもリゼを慰めているつもりだったので、素直に頭を下げた。
リゼは一度大きく息を吐いて気分を切り替える。
「目的地はダンジョン深層の奥だ。奥とはいっても、『ミミズ』の生息地よりは奥の、あの『鳥』や『鳥』と同程度のモンスターが出没する場所までしか行くつもりはない」
「お姉さま。ご武運をお祈りいたします」
「二日間、一度も姫さんが戻らなかったら、その時点で救出艦隊を突入させる。姫さんには万が一はないとは思うが、念のためだ」
「二日か。少々短いが、まあよかろう。では行ってくる!」
颯爽と出発するリゼを、俺たちは気合いの入った敬礼で見送った。
「……で、ギョーショー。このインゴットは使い道がないのか?」
「リゼさんの戦果というだけで高く売れるのです! 研究資料としても一応価値はあるのですけど、研究資料として売っても二束三文なのです!」
「あれだけ強いのにドロップするのはそんなものか。世知辛いな」
リゼが出発すると空気が弛緩した。
皇帝である俺の前なのに、露骨に気を緩める奴までいる。
その筆頭がギョーショーで、一番真面目なのがエイルだ。
「エイル。暇なら付き合わないか?」
俺が誘うと、エイルは耳まで真っ赤にして『あわあわ』と混乱する。
「そ、それって浮気……いえ正式には付き合っていない? 第二夫人のお誘いですのっ!?」
明らかに勘違いされている。
何よりまずいのが、ここで俺が押せばエイルが頷きそうなことだ。
長いあいだ苦しんでようやく庇護者を得た子供(年齢は半世紀)を性的に食う趣味はないぞ、俺は。
「誤解させてすまん。そっちの誘いじゃなくて社会見学の提案だ。捕虜にした宇宙海賊のデータを一緒に見ないか?」
「ポーターさん。それって口説く前の段階の『仲良くする』ってやつなのです?」
「やっぱり!」
エイルが俺を見る目は、警戒が半分、期待が半分といった印象だ。
「勘弁してくれ。俺は姫さん一筋だ」
このまま話していても話しが迷走するだけと判断して、俺はARメガネではなく近くの画面にデータを呼び出す。
閲覧資格が情報部門と政府高官のみになってはいるが、ギョーショーは高官扱いだし、エイルに甘いリゼがエイルにも閲覧資格を与えている。
「……はじめて見るような方たちばかりですわ」
「これでも捕虜にしてから強制的に風呂に入らせたし、皮膚病の治療もしたんだ」
「契約国連合に画像データを売り込んだら、宇宙海賊もののアニメ好きやアニメ製作者が買いそうなのです!」
「銀河が違えば文化が違うな」
「意思疎通できる程度には文化が近いのです。以前にも情報の交流はあったと考えるのが妥当なのです」
普段の言動を見ているうちに忘れそうになるが、ギョーショーは知識も思考の程度も人間離れしている。
「あっ」
エイルが声をあげる。
既に耳はいつもの色に戻っていて、目には冷静な知性の光がある。
「体を機械化している方が多いような気がするのですわ」
「普通の治療を受ける金がない、と思い込むのは危険か。機械化を推奨する国は近くにあったか?」
零細の国家や組織も含めればそういう組織もあるだろうが、ランス級『巡洋艦』やボード型輸送艦で構成された輸送艦を襲える高性能海賊艦を運用できる国や組織は、少なくとも銀河帝国の近くにはないはずだ。
「……向こうの銀河では、エリート肉人間さんは滅多に機械化しないのです。だから、肉人間さんの機械化実験をしたがる研究職は、向こうの銀河にはいっぱいいるのです」
ギョーショーの言葉に、俺やエイルだけでなく、聞いていた帝国人全員が事態の深刻さに気付いた。
「ずいぶんと派手にやってくれる。艦の設計だけでなく、船乗りを直接的に強化するとはな。予断は禁物だが……」
「それは確定でいいと思うのです。……今おもいついたのですけど、例の機械人間も下っ端でしかなくて、最悪、ハカセとかのすっごい研究職が、正体を隠して裏から操ったり技術を提供してたりする可能性もあるのです。海賊艦がこれからどんどんチート兵器を積んでくるかもなのです!」
ギョーショーの空気を読まない大声発言に、俺はこめかみを押さえた。
「……エイル、すまんが胃薬を取ってきてくれないか。医者に言えば分かる。精神安定剤も入っている、一番強力な奴だ」
「へ、陛下!? 寿命が一気に減ってしまうのですわっ!」
超大国の狂った研究者による直接介入(違法実験)。
そんな未曾有の危機を前にして、俺の胃袋は早くも物理的な限界を迎えようとしていた。




