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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第七章 赤字覚悟のダンジョン周回と、亜光速の細剣使い。――対巨大モンスターに特化しすぎた姫騎士に、思わぬ好敵手現る!?

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深層の戦場に咲く光の斬撃と、魔法(失敗)の奔流。そして突きつけられる、銀河の外からの不穏な『癖』

 最初は『ミミズ』に直接ヒートソードで切りつけ、切りつけた際の衝撃で内部を『押し潰し』て反対側の肌を爆散させる。

 宝箱に変わる前の『ミミズ』を蹴って二体目の『ミミズ』へ向かう。

 二体目は全身を使ってリゼに体当たりを試みるが、リゼの背中に光の翼が広がりぶつかるタイミングがずれた。


「学習したのかもしれんな」


 リゼは『柔らかく』二体目の『ミミズ』に着地し、ヒートソードを大きく振り上げて、振り下ろす。

 二体目のミミズは縦に割られて、無意味にのたうつ二つの肉塊へ変わった。


「む。来るか」


 リゼは無造作にヒートソードを振る。

 その先端からは細い光が『ミミズ』の全長の十倍ほど延びて、リゼの隙を伺っていた三体目を上下に両断する。

 そのはるか向こうから、多数の『ミミズ』が近付いていることにリゼは気付いていたらしい(ダンジョンから出た後に事情を聞いた)。


 そんな光景が映る画面を横目で確認しながら、俺は『フリーキャッスル』の中で指示を出し続けている。


「そろそろ姫さんが休憩するはずだ。軽食や風呂の準備は?」


「万全です!」


 画面には、ぎりぎり光速でダンジョン深層を跳びながら『遠くまで届く斬撃』を撃ちまくるリゼの姿が映っている。

 エイルは瞬きも忘れて凝視して、上気した顔で『わぁっ』とときどき歓声をあげていたが、俺の言葉を聞いて我に返った。


「陛下!? まだ戦闘中ですわっ」


 エイルは元気になっている。

 体力も健康も完全には回復していないのだろうが、姉と慕うリゼの活躍を見て心と体が沸き立っているのだ。


「姫さんも『息継ぎ』したくなるってことだ。……威力は前から一撃だが、射程が延びたか」


 群れとの戦闘が始まってから十秒も経たずに、『縦に両断』と『細切れ』と『串刺し』で三体が仕留められている。

 それでリゼを重大な脅威と認識した『ミミズ』の群れは、狩りではなく戦いのための動きに変わる。

 だが、獲物が群れても力関係は変わらない。

 リゼが細く長い……おそらく一光秒ほどはある光の線を振り下ろすたびに数体が『スライス』されている。


「損傷艦、ダンジョンから離脱しました」


「攻撃準備完了。いつでもいけます」


 スタッフがランス級艦隊からの報告をまとめて俺に報告する。

 だいたい予想通りに進んでいることを確認した俺は、安堵の息を吐くのを意識して我慢する。


「艦長! 一度下がりたい!」


 リゼからの通信が届く。

 画面に映っているのは圧倒的蹂躙劇ではあるが、『ミミズ』はまだ十数体残っている。

 一体相手でも苦労していた俺やランス級艦隊にとっては、敵戦力は未だに絶望的だ。


「こっちはいつでもいける」


「うむ! さすが艦長だ」


 光の翼が力強く羽ばたいた。

 ARメガネだけでなく艦載コンピュータが『翻訳』しても追いきれない速度で……おそらく光速の十倍以上の速度でリゼが『ミミズ』の群れから離れ、『フリーキャッスル』の『扉』の前に現れる。

 速度だけでなく、加減速も凄まじい。


「モンスターが、同族の肉を食べてますわっ」


 エイルが驚いている。

 俺もびっくりだよ。


「まだ宝箱に変わっていないということはまだ生きているのか。モンスターがモンスターを倒すとドロップはどうなるんだろうな」


「艦長。その場合はドロップしたりしなかったりだ」


 瞬間移動じみた速度でリゼが現れる。

 まだ付き合いが短いエイルは再会を喜ぶと同時に驚いているが、俺たち帝国の人間はリゼを賞賛はしても驚きはしない。

 リゼならできて当然という信頼がある、


「ランス級に質量弾とミサイルを使わせる。時間稼ぎでいいか?」


「うむ。食事と花摘みをする時間を稼いでくれ」


「了解だ、姫さん」


 俺は『作戦実行』の信号をランス級艦隊へ送る。

 レーザー砲へ限界までチャージしていた艦隊の一斉砲撃は強烈だ。

 リゼの『範囲攻撃』に巻き込まれて手傷を負っていた『ミミズ』の傷を焼く。

 皮膚という装甲が十分に機能していないので、二体の『ミミズ』を同時に狙っても、レーザー砲が限界に達する前に二体ともに致命傷を与えることができた。


「あの、陛下」


 エイルはリゼに話しかけたいだろうに、貴重なリゼの時間をとらないよう俺に話しかけてくる。


「どうした」


「この艦、陛下の御座船ですわよね。その、いいのでしょうか」


「ヘイトタンクしたり姫さんの移動手段なのがおかしく感じるか?」


 俺は『にやり』と笑う。

 エイルは戸惑いながら『こくり』と頷く。


「見栄で腹は膨れないからな。それに、俺は騎士でも戦士でもなく船乗りだ。人を運ぶのは本業のひとつだぞ?」


「うむ。戦場に湯船というのは背徳的ですらあるな。一度味わえばもう止められぬ」


 しっとりしたピンク髪のリゼが操縦室にやってくる。

 リゼの美貌が普段と変わらない……化粧なしでこの美貌であることに気づいたエイルが、目を丸くして思考を停止させている。


「姫さん。もう少しならもつぞ」


 俺は『フリーキャッスル』のトラクタービームを酷使して『ミミズ』を食い止める。

 ランス級艦隊は『ミミズ』の傷口を執拗に狙うことで『ミミズ』を牽制している。


「これ以上休憩すると体が鈍る。すぐに片付けてくる」


「おう。艦内では安全な速度で頼むぞ」


 リゼは『ふふっ』と笑い、移動の際の衝撃も、艦内の空気を押しのけることもせずに『フリーキャッスル』の甲板に出る。


「艦長。妙な気配がある。……そうだ、その方向だ。センサーを重点的に頼む」


 リゼは指で『ミミズ』のいない方向を指さしてから、同族を食う『ミミズ』から順番に仕留めていく。

 ランス級が全力で攻撃していたときより、時間あたりの撃破数が桁外れに多い。


「あっちか? 光速以上で向かってくる場合は何も……見つからないはずなんだがな」


 俺ともう一人、ランス級艦長の中で最も物理的に成長した艦長が、近付いてくるものの気配と形に気づいた。


「姫さん! 数は一体、『巡洋艦』サイズ以上、形は鳥だ!」


「ここは深層の入口だぞ!? 艦長! 宝箱の回収より後退を優先しろ!」


 何かが折れる音がリゼからの通信にまじる。

 高速でヒートソードを振るって残りの『ミミズ』全てを仕留めたリゼの手から、ヒートソードが消えている。

 リゼの周囲に漂う細かな『ちり』に対して、普段はリゼの首で大人しくしている『ネックレス』が、別れの挨拶じみた動きをしていた。


「私は魔法は苦手なのだ!」


 リゼが拳を握る。

 拳の隙間から、破滅的な輝きが溢れて戦場を禍々しく彩る。


「あっ」


 リゼが『やべっ』という顔をした。

 歴戦のランス級艦長たちが、シールドを『リゼがいる方向に対して』全開にする。

 俺は『フリーキャッスル』の新装甲の性能を信じ、ひとつのトラクタービームで複数の宝箱を引き寄せる曲芸を、全てのトラクタービームで必死に完遂した。


「未確認モンスターを確認しました!」


「口腔に超高エネルギー反応!」


 スタッフたちが言い終えるよりも、リゼが魔法の制御に失敗する方が早かった。

 荒れ狂う『力』の奔流が『フリーキャッスル』を揺らし、ランス級艦隊の『シールド』を消滅させて装甲の半ばを焼き焦がす。

 その圧倒的な威力に新手のモンスターも無事ではすまず、鷹に似た姿があっという間に黒こげ『何か』に変わる。


「うむ!」


 リゼが勝ち鬨をあげる。

 魔法の失敗を触れない優しさが、俺たちには存在した。


「姫さん、とりあえず『フリーキャッスル』に戻ってくれ。ランス級は『フリーキャッスル』から質量弾とミサイルの補給を受けろ」


 微妙な空気のまま放置するわけにはいかないので、俺が率先して指示を出す。

 リゼは新種のモンスターからドロップした宝箱を両手で掲げてそのまま『フリーキャッスル』へ飛ぶ。


「ランス級の装甲の被害は?」


「五隻を除いて損害軽微です」


「艦長が精神的衝撃から回復できていない艦が一隻あります」


「……六隻は帰還させる。姫さんまで参加した遠征でこの程度の成果だと、帝国の借金が増える」


 つまり連帯保証している俺の借金が増えるのと同じってことだ。

 俺は『まだ』胃の痛みがないことを確認してから、小さくため息を吐いた。



  ☆



 十時間以上ダンジョンで『周回』をしてからダンジョンを離脱し、ダンジョン惑星に建てられた休憩所(『巡洋艦』が最大で五十隻は停泊可能な基地でもある)に帰還する。

 そこでは、超大国という表現でも全く足りない規模の国の大使が、何時間も俺たちを待っていた。


「正式な感謝が遅くなって申し訳ありません。こちらが、契約国連合からの感謝の気持ちです」


 三頭身と八頭身の違いがあるとはいえ、ギョーショーと同じ顔が穏やかに微笑むと違和感がすごい。


「ほう」


「まあ!」


 リゼとエイルが破顔する。

 センパイ特命全権大使が用意したのは、単一の金属であるのに自ら発光する『曲刀』だ。

 刃は薄く、熱していないヒートソードを撃ち合えば簡単に折れてしまいそうなほど『華奢』ではあるが、壮絶な鋭さと美しさがある。


「贈り先に指定がないなら、姫さんが受け取ってくれ」


「はい。指定はありません」


「艦長! ありがとう! センパイ大使もだ!」


 リゼはまるで子どものようにはしゃいで、刀身に負けず見事な造形の柄に手をかけ……られなかった。

 リゼの『ネックレス』……石化される前のリゼが使っていた剣の成れの果てであり、ハイエルフが魔王の剣として封印してきた存在の核が、殺意と焦りをむき出しにして『曲刀』を跳ね飛ばしたのだ。


 リゼが笑顔のまま固まり、エイルが超大国相手の超絶非礼に絶句し、俺は胃の痛みで悶絶する。

 『曲刀』は、テロ対策で新装甲で固められている壁へ斜めに突き刺さり、刺さったときの衝撃で微かに揺れていた。


「も、申し訳ない」


 『ネックレス』を全力で握りしめたリゼが、センパイ大使に頭を下げる。

 『ネックレス』は謝罪を乞うように左右に揺れてはいるが、みるみる勢いと存在感を失い『ただのもの』に近付いていく。


「とても個性的な部下をお持ちなのですね。ふふ。その方を目当てにハカセがこの銀河までやって来るかもしれませんね」


「げえっ。あの、契約国連合屈指のトラブルメーカーが来るのです!?」


 こっそり開戦越しに聞いていたギョーショーが悲鳴をあげる。

 俺は、何を賠償にあてればよいか考えて頭まで痛くなっている。


「私の命に代えても来させません。貴重な水資源の汚染も気にせず実験するような方ですからね。……そうですね。お詫びとして、銀河帝国周辺で確認された艦のデータを頂いて良いでしょうか」


「む? それでは詫びにならぬのでは?」


 戦闘や闘争については現代の軍人以上に『勘が働く』リゼが、疑問に思っている。

 センパイ大使は、微笑みを真面目な表情に変えた。


「契約国連合は許可なき銀河間移動を厳しく禁じていますが、禁じられるほど行きたがる者は少なくありません。技術差を利用してこの銀河を玩具にしようとする者も」


 宇宙海賊の艦のデータを見たセンパイ大使が、俺たちにも分かる形で『困った』顔をする。

 それを見たギョーショーが、目を高速で点滅させながら慌てて調べだす。


「ポーターさん! 海賊艦の設計に、少しだけど機械人間によくある癖があるのです!」


「まさか、その癖ってのは、銀河間連絡船に乗ってた奴と同じ癖か?」


 ギョーショーの顔が画面に映る。

 センパイ大使と視線を交わし、どちらも苦虫を潰したような表情になる。


「勘弁してくれ」


 『敵』の戦力が急上昇する未来を確信した俺は、情けない悲鳴をあげていた。

次回更新は04/10 18:10を予定しています!

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