百年後の平和的統合予測と、宇宙海賊の影。エイルお嬢様(見学)を交えた『ミミズ』狩りレイドバトルが開催中
「百年以内に帝国と共和国は平和的に統合されるでしょう」
内政部門のトップの発言に、超高速通信網を介して会議中だった全員が目を見張った。
特に驚いているのが『リゼの弟子』として発言権なしで出席しているエイルで、エイル視点で実際に隣にいるリゼに小声で質問している。
「それ言っちゃうのです?」
ギョーショーだけは驚きの質が違う。
「しょーがないのです!」と自信満々な態度で、人間なら『鼻息が荒い』同じ意味の『ぴかぴかっ』と光る目で発言を始めた。
「ギョーショーちゃんは兵器は帝国にしか売りませんけど、それ以外は共和国もそれ以外も区別せずに売っていくのです! 食料生産、通信網、警戒網とか、一度普及したあとも更新やアップグレードでどんどん稼いでいく予定なのです!」
「はい。新技術の需要と支払いに追われる共和国は侵略戦争をする余裕がなくなり、また、帝国も共和国も新技術の受容により共通点が増えると予測できます」
他分野と比較して内政部門の能力が飛び抜けている。
他の分野の人材が、帝国の拡大に追いついていないのだ。
「あっちの銀河だと明日にでも奇襲攻撃が始まる情勢なのです。理性的すぎて先輩もこんらんしているのです!」
銀河が違えば常識が違うようだ。
契約国連合は、本人たちの自覚はともかく倫理観が薄そうだからな。
「統合を目指す場合の注意点は?」
「ダンジョン惑星からダンジョンの出入り口を動かさないことと、ダンジョン惑星の収益の折半を続けることです」
俺は会議が脱線しないよう発言し、内政部門が返答する。
エイルと発言者を除く全員から、うめき声がもれた。
「ぴぅっ」
エイルはリゼから具体的な額を聞かされ、編まれた長い銀髪が跳ね上がるほど驚いている。
「共和国へお金を払うのはやめるのです! その分のお金で僕の商品をかうのです!」
ギョーショーが目を金の色に光らせながら激しく主張する。
ダンジョンで戦い、ダンジョンで得た品を契約国連合に売って儲けるのは帝国だ。
帝国が共和国への『わけまえ』の支払いを止めるのは今すぐに可能ではある。
「そんなことをすれば共和国は帝国との開戦を決断しますぞ! 多額の支払いをしているから、共和国の保守派を除く全派閥が保守派を押さえつけているのですぞ!」
ギョーショーという政治的にも経済的も巨大な存在を、外交部門のトップが必死の表情で止めようとしている。
「いっぱい買えるのです! 位相跳躍機関は『あれ』を刺激するかもだから避けて、あっちの銀河のすっごい兵器をランス級へ搭載してもっと狩ってもっと稼ぐのです!」
「あのなギョーショー。戦争を始めたら俺も姫さんもダンジョンに専念できないから、例のポーションの『産出量』は良くて半減だぞ」
「やっぱり平和が一番なのです!」
一瞬で平和路線に変更できるのが、ギョーショーの長所だと思う。
「次は軍事部門だな。姫さん、頼む」
「うむ。ランス級とスピア級の量産は順調だ。計画通りに、帝国の全ての星系に行き渡っている」
リゼを除く全員から感嘆の声が漏れる。
星間国家の軍備増強計画が『計画通り』なんて奇跡に近い。
軍事部門のトップであるリゼは、個人戦闘能力とカリスマは異次元だが、現代の軍人としては学んでいる最中だしな。
「大きな問題がひとつある。宇宙海賊が『ランス級より速くランス級より射程が長い艦』を使って、星系間移動中の輸送艦隊を何度も襲っている」
「……艦の被害は聞いていないが」
俺は眉をひそめる。
リゼが俺に対して失敗を隠すとは思えないんだが……。
「迎撃すれば納期に遅れると輸送艦隊司令が判断し、輸送艦の積荷を二割程度放棄して加速し、戦闘を回避した。海賊は荷物の回収を優先して輸送艦隊を追撃しなかった」
「これは僕の責任もあるかもなのです。戦って一定以上の損害が出そうなときは、商品の一部を捨ててもいいって伝えておいたのです!」
「ギョーショー。賊相手に逃げるのは、帝国の威信……帝国の商売道具の切れ味が鈍るのだぞ」
「でもお金も大事なのです。輸送中の損害の大部分は僕が補償するのです。遺族年金ってかなりかかるのです」
リゼもギョーショーも、どちらの意見も重要だと分かっているから相手を叩き潰すような論戦はしていない。
「新型艦が必要か?」
「艦長。ランス級とスピア級は未だに有力な艦だ。問題は、艦の性能が広く知られてしまったことだ」
「速度を上げても射程を長くしても、バランスが崩れて総合的な性能が激減するかコストが激増するのです! ギョーショーちゃんの設計は完璧なのです!」
「いや完璧ならもっと強くしろよ」
「それは完璧以上なのです。完璧でも物理の限界は超えられないのですよ、ポーターさん」
馬鹿な子に教えるような態度のギョーショーに、俺は『いらっ』とした。
「要するに、宇宙海賊がランス級やスピア級と戦うのに特化した艦を作ったってことか? よくそんな金と技術があるな。賊のふりをした、星間国家の特殊部隊か?」
「確証は得られていません」
情報部門が、申し訳なさそうに報告する。
警戒網の内側での防諜や賊の検挙ではかなりの成果を上げてはいるのだが、それ以外では星間国家の情報部門としては力不足だ。
「情報部門はこれまで通り防諜優先だ。最優先は姫さんに対する罠や策謀の警戒だ。いいな?」
俺が言うと、情報部門の長が深く頭を下げた。
「スピア級が普及する前と比較して、宇宙海賊の数が三分の一以下になっている。……放置するわけにはいかないか。ギョーショー、ランス級を改造せずに使える高性能なミサイルか質量弾はあるか?」
「いっぱい買ってくれないなら高いのです!」
「軍事部門と相談してくれ。姫さんはこれから深層だからナンバーツー以下と頼む」
「わかったのです!」
雑談のようなやりとりで会議は終わり、それぞれが仕事にとりかかった。
☆
「わー!」
エイルがきらきらした目で『フリーキャッスル』を見上げた。
そして、補修しても直りきらない凹みや歪みに気付いて小首を傾げる。
「陛下の御座船、ですわよね?」
「姫さんの戦場の足でもあるぞ」
俺はエイルに声をかけ、ひざまづこうとするエイルに手を振って止めさせた。
「艦長。これだけ戦ってその成長なのか」
リゼは何故かショックを受けている。
背中から少し伸びている光の翼は『ショックだろうけど気を落とすな』と俺を慰める仕草をしている。
「レベルアップって奴か? 最近は『ミミズ』を狙うのが巧くなった気がするぞ。気のせいかもしれんが」
「ううむ。『目』だけが成長したか? 戦士としては論外だが、船乗りとしては最適な成長なのかもしれぬ」
「話は『フリーキャッスル』の中でもできるだろ。準備はいいか?」
「うむ!」
「はい! よろしくお願いしますですわ!」
リゼはいつも通りの平常心で、エイルは最初に会ったときのような明るさだ。
肌の色はほんの少しだけ生気が感じさせる色になり、張り詰めた気配も薄くなっている。
「ではお嬢さま方。戦場までの旅をお楽しみください」
ギョーショーから購入した乳製品をふたりに手渡す。
護衛や艦内スタッフ用の乳製品は倉庫に搬入済みだ。
皇帝の立場でも『少し高い』飲み物だが、最高で超光速を出せる『ミミズ』相手の戦争に連れ出す以上、給料はもちろんこの程度の優遇はあってもいいはずだ。
「やはり陛下は子供好き?」
「幸いなことにおふたりとも帝国では成人だ。このまま関係を深めても問題あるまい」
陸戦隊同士の秘匿通信(俺は皇帝だら聞ける)でそんな会話がされていることに気付く。
エイルには全くその気が起きないんだが、俺が言っても信用して貰えない気がする。
「艦長。どうした?」
「なんでもない。今日は半日の予定だが、いいか?」
「今日のエイルは見学だ。その程度なら問題なかろう」
「頼もしいな」
三人で操縦席へ移動し、既に配置についているスタッフと最終確認をする。
契約国連合が設計した操縦室は一人でも艦を操縦可能だが、俺に万一があったときの予備や、俺の負担を減らす意味はある。
「行くぞ」
外は無人(一応ひとはいるが重装甲の建物の中にいる)なので、推進器を強めに使っても被害はない。
「あれが、ダンジョンゲート」
シリアス顔で呟くエイルは、少しだけリゼに似ている気がした。
☆
ダンジョンの出入り口を通過する。
惑星の地表から、少なくとも半径数光年は『ミミズ』以外は何もない空間へ一瞬で切り替わるのは、何度も繰り返した今でも慣れない。
スタッフが報告を開始する。
「センサーの範囲内に敵影なし」
「ランス級艦隊が深層に到着します」
俺達が乗る『フリーキャッスル』が一光秒前進してから、ランス級『巡洋艦』三十隻の艦隊がダンジョン深層に出現した。
エイルが目をきらきらさせている。
今すぐ感動を言葉にしたいだろうに、俺たちの仕事を邪魔しないよう口を閉じている。
「出入り口以外にレーザーを照射しろ。砲身への負荷は考えるな」
大事に使えば数十年は使える艦を数日で潰しかねない酷使だが、これには理由がある。
スタッフとランス級の艦長の情報交換が激しくなる。
半球状の緻密な陣形だったランス級が、四隻だけ急に『押しのけられ』た。
俺は『フリーキャッスル』にトラクタービームを全力使用させる。
何もない場所を引っ張るような無茶な使い方だが、まるで『戦艦』サイズの生き物を『釣る』かのような負荷がトラクタービーム発生装置にかかった。
「姫さん。最初は見ているだけだよな?」
「うむ。侵入直後の戦いは激しくない。ランス級の艦長たちにも経験を積ませるべきだ」
ランス級の『シールド』を突破しきれなかった『ミミズ』が、トラクタービームにより『フリーキャッスル』へ引き寄せられる。
ダメージを負った四隻を除いたランス級艦隊が、短時間で排熱が追いつかなるほど出力を上げたレーザーで『ミミズ』を狙う。
艦隊戦では至近距離どころか密着同然の距離しかないのに、何故かレーザーは半数近く外れている。
「あの」
不思議に思ったエイルが思わず発言して、発言したことに気づいて『あわわ』と焦った。
「エイルよ。強いモンスターを倒してレベルを上げねば、より強力なモンスターとは戦うことすらできぬ」
「理屈はさっぱり分からんが事実だ。生身に近いほど、距離が近いほど倒したときに強くなり易いって仮説が有力だが、本当かね? 艦長の中では一番近くで戦っている俺より強くなっている艦長がいるんだが」
ある程度『ミミズ』を引きつけた後は『ミミズ』の動きを見ながらトラクタービームを逆に使って『押し』たり、トラクタービームを普通に使って『引っ張っ』たりだ。
もちろん、全てがうまくいくわけではない。
目測や『ミミズ』の動きを読み誤ってぶつかることもしょっちゅうだ。
新装甲でも消しきれない衝撃で『フリーキャッスル』が揺れ、シートベルトが体に食い込んだ俺やスタッフたちが苦鳴をあげた。
なお、リゼは席に座ることすらなく平然と立っているし、エイルは席についてシートベルトもしているが平然としている。
「艦長は船乗りとしては優れているが、騎士や戦士や冒険者(ダンジョンが職場の戦士)としては……うむ、だが皇帝としては素晴らしいぞ!」
全力で擁護しているつもりのリゼの態度が、つらい。
「そろそろ一体目の狩り終了だ。そろそろ『ミミズ』が本格的に襲ってくる。姫さん」
レーザーの豪雨に焼き尽くされた『ミミズ』が宝箱に変化する。
それから数秒後、今度は姿を隠しもせずに、実に三体の『ミミズ』がセンサーの範囲外から突っ込んでくる。
「うむ。今日は大量に狩るぞ!」
帝国艦隊の精鋭が一体相手にするのも大変な巨大モンスター三体を相手に、リゼは恐れる様子などなく、獲物が現れたことに歓喜していた。




