表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第七章 赤字覚悟のダンジョン周回と、亜光速の細剣使い。――対巨大モンスターに特化しすぎた姫騎士に、思わぬ好敵手現る!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/66

氏族名なきハイエルフの涙と、胃痛皇帝の度量。最強の姫騎士が『妹分』に剣術でボコボコにされる日々が始まる

※物語の展開に合わせて、タイトルを少し変更しました!

(旧題:借金持ちの輸送艦長、うっかり銀河皇帝になる ~)

中身や更新ペースは変わらず、ポーターの胃痛も加速していきますので、引き続きよろしくお願いします!

「剣を交わせば通じ合えるのですわっ!」


 エイルの目が比喩的な意味で輝いている。

 リゼという異次元の美貌と比べれば『普通』な顔も、これだけ前向きで精神が若々しいと、リゼの側にいても存在感がかき消されることはない。


「そうなのか、姫さん?」


「うむ。聞いたことがない」


 リゼが困惑し、光の翼が『おてあげ』と言いたげに小さいまま上を向く。


「さすがエイルさん、文化を分かっているのです!」


 何故かギョーショーは上から目線兼先輩目線で、腕組みして『うんうん』と頷いている。


「ねえちょっと。どうなってるのよジャバウォック陛下」


 急遽呼び寄せられたエルザは、俺に対する敬意を取り繕う努力も捨ててしまっていた。


「とりあえず、改めての自己紹介だ。俺はポーター。帝国で皇帝をしてる」


「リゼだ。帝国筆頭騎士であり、帝国の軍事部門を任されている」


「ギョーショーちゃんなのです! ちょーすごい商人なのです!」


 俺たち三人の自己紹介に、エイルは何度も目を瞬かせる。

 エルザは何故か気配を消している。


「丁寧な挨拶、痛み入ります。わたくしはエイル。まだ氏族の名乗りは許されていませんが、いにしえより続く血族の裔であるハイエルフですわっ!」


 元気に胸を張るエイルは、リゼと比べると全体的に細い。

 肌の色は白いというより青白く、あまり健康的には見えない。


「氏族名なし?」


 エルザの表情に変化はないが、一度だけこぼれた言葉には深刻な響きがあった。

 俺のARメガネに、帝国の外交部門と情報部門が情報収集し、内政部門も協力して作成した報告書が表示される。

 『氏族名がないハイエルフがいる確率は低い。もしいるとしたら被差別民または実験動物の確率が高い』と。


「陛下は分かりますが、姉さまは姫騎士では?」


 エイルは、俺やエルザの思考にはおそらく気付いていない。

 本当に明るく、それでいて礼儀正しく、素直に疑問をぶつけてきた。


「リゼさんは姫騎士なのです!」


 ねー、とエイルとギョーショーが同意しあっている。

 こいつら、仲も良いが相性がよすぎる気がする。


「通称と役職名が違うんだよ。姫さんも、何十年も後まで姫騎士と呼ばれたら困るだろ」


「お姉さまは百年経っても若いですわっ! 耳が短いのを除けばハイエルフですわっ!」


 エイルが両手を振って主張する。

 勢いが良すぎて、非常に凝った編み方をされている銀髪が上下に揺れている。


「……そうなのか、姫さん」


「艦長。私は生まれてから今までずっと人間だ。魔王や化け物という蔑称を使われたことはあるがな」


「リゼさん! 魔王は役職名だと思うのです!」


「ふふ。そう言われると魔王軍を組織したくなるな」


「そのときは俺も帝国ごと傘下に加えてくれ」


 いつもの三人で冗談半分、本気半分で話していると、エイルが真面目な表情になって姿勢を正した。

 服装もメイクも変わっていないのに、エルフ社会の最上層に属するお嬢さんに見えた。


「わたくしがリゼ姉さまに襲いかかった非礼、本来なら許される所業ではありません。深くお詫びいたします」


 地面に這いつくばる土下座ではないが、深く頭を下げる動作が『反省』と『謝罪』の意図を明瞭に表現している。

 教育だけで身につく態度ではない。

 エイル自身が努力して身につけたものだろう。


「帝国としてエイル殿の謝罪を受け入れる。気にするなとは言わんが、帝国にいる間は命と名誉と生活の心配はしなくていい。……ってことなんだが」


 俺だけでなく、この場所(病室兼執務室)にいる全員がエルザを見た。

 エイルは共和国では無位無官らしいので、共和国がエイルをどう扱うかについては、地方総督であるエルザが一番くわしいはずだった。


「これは非公式会談でいいのよね?」


「問題ないなら公式会談にする予定だったがな。ギョーショー」


「回線を完全に遮断したのです! これ以降は帝国にも情報はいかないのです!」


 帝国内外の超光速通信網を牛耳っているギョーショーが断言する。

 数秒間『耳』をすましていたリゼも小さく頷く。


「エイルさま。第四十七星系の地方総督に任じられております、エルザ・アマーリーと申します」


「えっ。し、失礼しました。地方総督さまへの挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。ハイエルフのエイルです。よろしくお願いしますっ」


 エイルは少し……いやかなり動揺して、エルザに対して『ぺこぺこ』と頭を下げる。

 頭を下げられるたびに、エルザの顔色が加速度的に悪くなっていく。


「エイルさまのご両親か保護者の方についてお聞きしても良いでしょうか」


 エルザがそう言った直後、エイルの雰囲気が暗くなり、エルザが『胃痛に苦しめられているときの俺』のような顔になる。

 エイルは数秒で明るい態度に戻るが、それはどこか痛々しさを感じる明るさだ。


「両親についての情報は与えられておりません。保護者はソールさまです。ソールさまは、こんなわたくしによくしてくださって……」


 『こんな』という単語を口にした直後、エイルが『しまった』という表情と態度になる。

 慌ててしまって、つい本音が出たってことか。

 これが演技だとしても、エルフ族の闇が噴き出しているようなものだ。


「ほう。ソールか。最初に会ったときとは別人と言って良いほど人が練れていた故、ソールが保護者というのは悪くない」


「はいっ! ソールさまは、わたくしを守ってくださって、お金も、はじめて、わたくしに……」


 明るい笑顔のまま、エイル本人が気づかないまま流れる涙が、俺の精神を削ってくる。

 俺は、エイルに対する哀れみや同情が顔や雰囲気に出ないよう全力で努力しつつ、ベッド脇のテーブルに重ねられていたタオルの山に手を伸ばしてリゼへ渡す。


「エイルさんの専用回線が数年前かららしいのです! 誕生直後から繋がっているのが普通の契約国連合とは文化が違うのです!」


 ギョーショーは、単純に空気が読めていないのか、敢えて空気を読まないのかは分からない。

 ただ、どん底にいるときに態度を変えない奴がいるのは救いになることもある。

 見捨てられたり疎遠になったりするのは、辛いものだからな。


「ポーター?」


 エルザがどうするか聞いてくる。

 俺は無言で、エイルの話を聞きながらエイルの汗や涙をタオルで拭くリゼと、エイルの背中を優しく撫でる光翼を示した。

 エルザが黙る。

 リゼの態度も本音もエイルを気遣っている以上、エイルを放置するのも利用するのも『なし』だ。


「お忍びで訪れたハイエルフがダンジョンを気に入り、それを知った皇帝が強引に引き止めたという筋書きはどうだ」


「艦長。いいのか? それでは艦長ひとりが悪者になるぞ」


「リゼさま。ポーターにもリゼさまに役に立つ機会を与えてあげましょう。普段はリゼさまを利用してばかりなのですから」


 俺を心配するリゼに対し、エルザは平然と俺を利用する献策をする。


「否定できないな」


 俺は思わず笑う。

 事実なので腹も立たない。

 リゼほどではないが俺も『建国の英雄』なので、文句も諫言も滅多に聞く機会がないので心地よく聞こえる。


「あの、陛下。わたくしは……」


「エイル嬢はしばらくゆっくりしていけ。帝国は、共和国ほどの歴史はないが良い国だぞ。生活費は気にするな。姫さん相手に戦いが成立するほどの強者を邪険にする奴は、帝国にはいないぞ」


「ポーターさん! そこは娯楽費も出してあげてほしいのです!」


「娯楽費は出さんが教育費は出してやる。姫さんも色々教えたがっているようだしな」


 リゼは『こくこくっ』と高速で頷き、背中の翼は大きく広がって器用にエイルの背中を撫でている。

 エイルは何故か光の翼が見えないようで、ときどき不思議そうに背後を振り返っていた。



  ☆



 俺は、ギョーショーだけを呼び止めた。


「で、いくらぶんどった」


「合法な取り引きだったのです!」


 エイルを気にかけているリゼがこの場にいないので、ギョーショーは言葉を飾ろうともしない。


「姫さんが保護する気になる前は暗殺者だったんだ。ぶんどったことを責める気はねーよ」


「エイルさんには帰宅するためのお金も残ってないのです!」


「……お前なぁ」


 堂々と宣言するギョーショーに、俺はため息を我慢することもできない。


「でもエイルさんが大事な太客なのは間違いないのです! エイルさんならいっぱい稼げるのです!」


「稼ぐ前に治療と成長だ。あれは、実年齢は半世紀でも心は子供だぞ」


「そうなのです? 肉人間の心はときどきよくわからないのです……」


 ギョーショーは本気で言っているようだ。

 俺は肩をすくめて画面に目をやる。

 リゼが、さっそくエイルの面倒を見ているようだ。


「姫さん、実は剣が苦手なのか?」


「手加減しているからだと思うのです」


 リゼとエイルが似たような構えで、同程度の速度で剣を振り、何故かリゼばかり被弾している。

 被弾しているのに全く傷がないのはさすがリゼといえるが、圧倒的に強いはずの『お姉さま』相手に試合で勝っていることに気づいたエイルが、混乱している。


「姫さんは強いが、姫さんに対抗できる奴が今後も現れないとは思えないんだよ」


「契約国連合でも、生身でリゼさんと戦えそうな人は……謎生物は、ひとりいるかどうかですよ?」


「生身でなら、だろ? 姫さんを狙うなら、進んだ技術で作った装備を身に着けて襲うか、艦で襲うか、強烈な毒や爆弾で狙うかのどれかだろ」


「それって、剣の技術は必要なのです?」


 ギョーショーの目が、非常に疑わしい感じで点滅している。


「……ギョーショーに言われて必要でない気もしたけどな」


「あー、リゼさんのプライドの問題なのです。ちょっと剣とか取り寄せてみるのです」


 画面に映るリゼの光翼が、非常にショックを受けて『ぷるぷる』震えていた。

次回更新は04/08 18:10を予定しています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ